番外編13「脱獄ごっこ」4日目
## 4日目「看守交代のお知らせ」
四日目の朝。
男たちが作戦会議を開いていると、森羅万象が突然、手を挙げた。
「皆さん。今度は、私たちが看守になりましょう♡」
「…………は?」
主人公が顔を上げた。
格闘特化も、拷問特化も、腰振りスペシャリストも、そろって森羅万象を見つめる。
「なんでルールが変わってんの?」
森羅万象は、にこやかに答えた。
「変わったからです♡」
「説明になってないだろ!!」
魔導が扇子を開いた。
「五日間も同じ立場では、面白みに欠けますもの。看守と脱獄役を交代する。実に公平な提案ですわ。チャオ♡」
「どこが公平なんだ!」
「昨日まで私たちが脱獄役でしたから、今日は看守役を経験する。主人公様たちは、昨日まで看守役でしたから、今日は脱獄役を経験する。ほら、公平でしょう?」
「その理屈なら、最初から交代制にしておけよ!」
「あら。今から交代制になりましたわ♡」
「勝手に決めるな!!」
森羅万象が楽しそうに手を叩いた。
「では、反対意見は記録しておきますね♡」
「記録するだけで却下する気だろ!」
「よくおわかりですわね♡」
魔導が扇子の陰で笑った。
「ちなみに、看守側の準備はすでに完了しております。今さら元に戻すのも、もったいないですわね」
「最初から準備してたのか!?」
「ええ♡ 主人公様がどんな顔をなさるか、楽しみにしておりましたもの」
女性陣は、すでに看守用の制服や道具を用意していた。
科学は監視システムを再構築し、監視は施設全体の配置を把握。薬学は看守側の行動を制限する薬剤を準備し、慈愛は「怪我をさせないようにしますね♡」と微笑んでいる。
潜入特化は、脱獄経路を封鎖する側に回った。
その横で、嫉妬が両陣営を見比べ、楽しそうに手を叩いていた。
「看守側も頑張ってくださいね♡ 脱獄側も頑張ってください♡」
「お前はどっちの味方なんだよ!」
「もちろん、両方です♡」
「看守と脱獄役は敵同士だぞ!」
「でも、どちらも素敵な戦いを見せてくださいますから♡」
「そういう問題じゃない!」
そのとき、エンジェルが手を挙げた。
「質問です! 私はどちらにつけばいいんですか?」
女性陣は顔を見合わせた。
「好きな方で♡」
「…………そうですか」
エンジェルは少し考え、バインダーを胸に抱いた。
「では、私は看守を続けます。そして、主人公様を捕まえます♡」
「なんでそうなる!?」
「看守としての責任ですから♡」
「さっきまで俺をバインダーで爆撃してただろ!」
「指導です♡」
「同じだろ!!」
森羅万象は、そんなやり取りを眺めて微笑んだ。
「エンジェルさんは、そのままでよろしいですわ。主人公様の行動を熟知していらっしゃいますもの。私たちも助かります♡」
「お前ら、最初から組んでたな!?」
「もちろんですわ♡」
魔導があっさり認めた。
「主人公様を捕まえるために、必要な協力をしているだけですもの」
「その協力が一方的すぎるんだよ!!」
こうして、四日目は看守と脱獄役が入れ替わった。
ただし、エンジェルだけは元の立場を維持した。
主人公は女性陣の新しい看守体制を前に頭を抱えた。
「くそっ……! こうなったら、俺たちが脱獄するしかない!」
「脱獄するのは俺たちの方なのか……」
格闘特化が呟く。
拷問特化は、新たな拘束具を構えた。
「今度こそ、俺の作品を壊されないようにする」
「いや、今度は俺たちが捕まる側だぞ」
腰振りスペシャリストの指摘に、拷問特化が固まった。
その瞬間、警報が鳴り響いた。
「看守側、主人公様の逃走を確認しました♡」
エンジェルの声が施設中に響く。
「逃走経路を封鎖します♡」
「まだ何もしてないだろ!!」
主人公が叫んだときには、すでに女性陣が動き始めていた。
森羅万象が空間を操作し、科学が逃走経路を予測する。監視が主人公の位置を報告し、潜入が先回りして出口を塞いだ。
魔導は楽しそうに扇子を広げた。
「さあ、主人公様。今度は私たちが、あなたを追いかける番ですわ♡」
「くそっ! こうなったら、突破するしかない!」
主人公たちは本気で抵抗した。
格闘特化が包囲を突破し、拷問特化が拘束具を展開。腰振りスペシャリストが衝撃波で道を切り開く。
女性陣の連携は想像以上だった。
森羅万象が空間を閉じ、魔導が進路を変え、科学が行動を予測する。慈愛は負傷を防ぎ、薬学は看守側の動きを鈍らせた。
だが、森羅万象は主人公たちをすぐには捕まえなかった。
「もう少しですわ、主人公様♡ そちらの通路なら、出口まであと十メートルです」
「……本当か?」
「ええ♡ 頑張ってくださいね」
主人公たちは顔を見合わせた。
「よし! あそこを突破すればいいんだな!」
男たちが全力で走り出す。
その瞬間、森羅万象が指を鳴らした。
通路が、ゆっくりと回転した。
「うおおおおっ!?」
出口だった場所が壁になり、壁だった場所に新しい通路が現れる。
主人公たちは、元いた場所へ戻されていた。
森羅万象は、にこやかに微笑んだ。
「あら。惜しかったですわね♡」
「お前、わざと出口があるって教えただろ!!」
「出口はありましたわ。皆さんが走っている間に、位置を変えただけですもの♡」
「そういうのを詐欺って言うんだよ!!」
魔導が扇子を閉じた。
「主人公様。脱獄とは、出口を見つけるだけでは成功しませんの。出口が本当に出口なのか、確認することも大切ですわ。勉強になりましたわね♡」
「お前が言うな!!」
魔導は満足そうに笑った。
「さて、次はどちらへ逃げますの? 北側は封鎖済み。東側は囮。西側は森羅万象さんの空間操作で、同じ場所を周回するようになっていますわ♡」
「全部説明するな! 逃げる気がなくなるだろ!!」
「あら。逃げていただかないと、捕まえる楽しみがありませんもの」
森羅万象が、もう一度指を鳴らした。
今度は、主人公たちの目の前に一本の通路が現れた。
「こちらなら、きっと突破できますわ♡」
「……今度こそ信じていいんだな?」
「もちろんです♡」
主人公たちは警戒しながらも、通路へ踏み込んだ。
数秒後。
天井から大量の拘束具が降ってきた。
ガシャン! ガシャン! ガシャン!
「うわあああっ!?」
男たちは一瞬で拘束された。
森羅万象は、満足そうに頷いた。
「はい、確保です♡」
魔導は主人公の前にしゃがみ込み、扇子で彼の顎を軽く持ち上げた。
「主人公様。私たちを相手に、ずいぶんと頑張りましたわね♡」
「お前ら……最初から逃がす気なんてなかっただろ!」
「ええ♡」
魔導は、少しも悪びれずに答えた。
「でも、主人公様が必死に逃げてくださる姿は、とても素敵でしたわ。ですから、もう少しだけ遊ばせていただきましたの」
「遊ぶな!!」
森羅万象も、主人公の頭を優しく撫でた。
「ご安心ください。怪我はありませんわ♡ 何度逃げても、何度でも捕まえて差し上げますから」
「その優しさが怖いんだよ!!」
その一方で、嫉妬は看守側と脱獄側を見比べ、楽しそうに手を叩いていた。
「皆さん、素晴らしい戦いでしたね♡ 看守側も脱獄側も、どちらも最高です♡」
「お前は少し黙ってろ!!」
その隙に、エンジェルが背後から主人公を確保した。
「捕まえました♡」
「もう捕まってるだろ!!」
「念のためです♡ 主人公様の行動は、三日間の記録から予測済みですから」
「その記録を悪用するな!!」
「悪用ではありません。正しい指導です♡」
女性陣によって連行されていく主人公を、格闘特化たちは呆然と見送った。
格闘特化が拳を握りしめる。
「……負けたのか、俺たち」
拷問特化が、静かに首を振った。
「いや。ルールが変わった時点で、勝負そのものが別物になった」
腰振りスペシャリストは、遠ざかる主人公を見つめた。
「だが、あいつは連れていかれたぞ」
「……そうだな」
その頃、森羅万象と魔導は、二人で満足そうに微笑んでいた。
「森羅万象さん、最後の通路の仕掛けは見事でしたわ♡」
「魔導さんの誘導も素晴らしかったですわ♡ 主人公様が自分で罠に飛び込んでくださるなんて」
「必死に考えて、必死に走って、最後には自分から捕まってくださる。最高ですわね♡」
「ええ♡ 明日も、もっと楽しんでいただきましょう」
二人は顔を見合わせ、声をそろえた。
「次は、もっと意地悪に♡」
四日目。
看守と脱獄役が入れ替わったその日、主人公たちは森羅万象と魔導の手のひらの上で、徹底的に翻弄されたのだった。
その夜。
主人公は女性陣に囲まれ、完全にお持ち帰りされていた。
エンジェルも当然のようについてきている。
「主人公様。本日の記録をまとめました♡」
「もういい! 記録はもういいから!」
「では、明日も引き続き看守として、主人公様を捕まえますね♡」
「明日は五日目だろ! もう終わりにしろ!!」
森羅万象が優雅に微笑んだ。
「明日で終わるかどうかは、明日のルール次第ですわ♡」
主人公は天井を仰いだ。
五日間の脱獄ごっこは、すでに当初のルールから大きく逸脱していた。
夜。
残る潜入と嫉妬も加わり、女性陣全員が主人公の房を訪れた。
「本日も素敵でしたわ♡」
「両方頑張っていましたね♡」
「先回りしていましたが、結局ここに来てしまいましたわ」
「データ、全部残しています♡」
エンジェルが最後の怒声を上げる。
「規則違反です! 全員来ないでください!!」
森羅万象が、静かにエンジェルを見た。
「あなたも、見ていないで加わりませんか?」
エンジェルが硬直する。
「だ、だめです。だめです。私、欲望に負けては……!
でも……一日くらい、いいか……」
彼女はバインダーを強く抱きしめたまま、ゆっくりと頷いた。
堕天は、静かに始まった。
最終日には、さらなる罠が待ち受けていた。
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