二通目 再会と怒り
次の日、俺は電車を乗り継いで地元の最寄り駅に到着した。
15年振り。昔は駅前に何も無かったけれど、今は鞠萌の手紙にあったように、カフェやレストランが出来ている。時の流れは不思議なものだ。
タクシーを拾って実家へ向かう。
「…ただいま」
玄関の扉がひどく重く感じた。
一応、妹にはメールで行くことを伝えていた。返事はなかったけれど、いきなり行くよりはマシだろう。
「おやおや璟ちゃんかね?立派になったねえ!」
と廊下の奥から出て来たのは祖母だ。さすがに昔より歳を取り、腰も曲がって小さく見える。
「…久しぶり」
「わたしゃあもう、生きているうちには璟ちゃんに会えないと思っていたよ。でも、会えて嬉しいよ。ほら絢ちゃん、璟ちゃんが帰って来たよ」
祖母は昔から物腰柔らかな人だった。小さくて澄んだ目で俺を見上げられると、今まで帰らなかった申し訳なさと、もう二度と会えなくなる前に再び会えて良かったという安堵を感じた。
「…チッ」
妹が部屋から出て来た。妹は背が伸びて、髪は茶色に染めていた。
「今更どんな顔向けて帰ってきたの」
と妹が言う。声には怒りがこもっていた。
「お父さんも、お母さんも、ずっと待っていたのに…!」
「絢ちゃん、璟ちゃんは仕事が忙しかったんだよ。」
「15年も帰省しないほど?墓参りさえしないほど?違うでしょう!?」
妹の怒りは尤もだ。だから俺は決めていた。
「何か言ったらどう!?」
「…言い訳はしないよ。俺が悪かったんだ。」
そう、言い訳はしない。俺が帰らなかったのは、俺の意思だ。
「…で?今さら何で帰ってきたわけ!?」
「…鞠萌から、手紙が来て…全然帰るつもりなんてなかったけれど、ふと気が向いた。それだけだよ…」
すると妹の顔が強張り、真っ赤になった。さらに怒りが沸き上がるようだ。
「ふーん?何年も放置してた手紙を見たの?なら、鞠萌ちゃんも可哀想ね!お兄ちゃんに会いたかっただろうに…」
「どういう意味だ?」
それじゃあ、まるで…もう鞠萌がいないような口振りだ。
「鞠萌ちゃんは二年前に亡くなったんだよ。何年も闘病生活を送ってた…」
と妹が言った。
「お兄ちゃんは、もう何もかも手遅れなんだね」
「絢ちゃん…!」と祖母がなだめる。「璟ちゃんにも事情があったのよ、きっと」
「…え?」
俺にはそんな祖母の声は聞こえておらず、頭が真っ白になっていた。
「どうしたの?お父さんたちが死んだのよりもショックを受けたの?…本当にどうしようもない人だよね!」
と妹が言った。
「鞠萌が…死んだ?」
「そうだよ」妹は呆れながら返す。
「絢…これだけは、信じてほしいんだが…」
「は?何?」
「手紙は…ほんの数日前に届いた。消印も一週間くらい前だ。差出人も鞠萌だし…この字は鞠萌の字だ、そうだろ?じゃあこの手紙はどこから来たんだ?」
妹は驚いて、目を丸くしてから黙った。
すると祖母が郵便受けから一通の手紙を持ってきた。祖母は青い顔をしている。そして言った。
「璟ちゃん…鞠萌ちゃんから手紙が…」




