きゃー
いっしょーけんめー考えたけど、『鉄板BL』のお話、あんまり思いだせませんでした……
9割は寝てただろうとか、聞こえない!
まあでも『鉄板』っていうタイトルから、鉄板なんだろう。王太子と伴侶(予定)な僕は悪役令息で、主人公はぴんくの髪の平民だ。主人公だから国でいちばんの王太子と愛しあって伴侶になって、国民は大歓喜だ。お約束だ!
『すり傷しか治せない悪役令息、ざまぁ』
『ぷっ』
笑われるのが僕だよ。せつないよ。
記憶がよみがえる前の僕も、くるしくて、腹が立って、いじわるしちゃったんだろうなあ……
でもそこで、いじわるに行くから悪役令息なんだよ!
よい子は治癒魔法をがんばるんだよ。
いじめるなんて、いじわるなんて、だめ、絶対!
ぽかぽか自分の頭をおしおきしてたら、いつも僕の傍にひかえてくれているカイが飛んできた。
「ユィリおぼっちゃま、どうなさいました!? 頭が痛く……?」
いつもあんまり表情の動かないカイが、とっても心配そうに眉をさげてくれる。うれしい。やさしい。
「自分を、おしおきしてたの」
見開かれた夜の瞳が、点になった。
カイの耳が、だんだん紅く染まってゆく。
「……ぐぅ」
なにか刺さったようです?
しかしもしこの世界が『鉄板BL』の世界なら、いや、オンライン小説の世界じゃなくても、悪役令息ポジは危険だ!
強制力が発動して、何をがんばっても『ざまぁ』されちゃうのだとしたら……! 泣いちゃう!
まあ既にされてるっぽいけど、これから更にね。踏み踏みされると切ないからね。
やっぱりここは、悪役令息ではなくなる道に進もうと思うのです。
まず手はじめに!
「ちょこっとしたすり傷以外を治せるようになりたい!」
これで『ぷ』が、ちょっとひかえめになるといいなと思うんだよ。
「ユィリおぼっちゃまの向上心が素晴らしいです」
ぱちぱち真面目な顔で拍手してくれるカイが、僕にあますぎる!
でもちょっと、うれしい。
ふわふわ頬が熱くなって「えへへ」とか笑って「僕ってすごい?」とか、にこにこしてたら、悪役令息になってゆくんだよ。危険!
僕をあまやかすのは、だめなのです!
「カイはもっと僕に厳しくしてくれなきゃ」
あるじっぽく、ちょっと、しかってみました。
「無理」
ふるふる無表情で首をふるカイが、かっこよくて困る。
でも、そうかあ、無理かあ。
強制力かなあ。
僕にずっとついてくれているカイには、悪役令息じゃなくなりたい僕の味方になってほしいんだけど……
「じゃあちょっとずつね。とりあえず治癒魔法の先生をお願いします!」
「かしこまりました」
うやうやしく頭をさげたカイが僕の部屋を出て、かわりに入ってきたのはロド兄だ。
ロドア家の第一子で、優秀さを認められて後継と決まったので家名を名乗ることになったからロド・ロドアだよ。しゃれじゃないよ。次期当主であり、今もほぼ当主!
当主のおかあさんの相談役を立派に務めている。
筋肉むきむきのサザ兄とちがって、繊細でやさしげな紳士みたいな、頭のよいお兄ちゃんだ。
「ゆりちゃん、治癒魔法の教師をお願いしたいってカイが今、言ってきたんだけれど……この間のあれは、のりじゃなくて、本気なの?」
真剣な僕の決意を、のりだと思われてる! せつない!
……まあ今まで微塵もがんばらなかった弟が、突然、治癒魔法とか言いだしたら、のりだと思っちゃうかも。
しょんぼりしつつ、僕は背の高いロド兄を見あげる。
「僕、すり傷以外も治せるようになりたいの」
「ゆりちゃんは、なんて向上心があるんだ!」
兄が弟に、デロ甘な件について。
……家族みんな(カイ含む)僕にめちゃくちゃ、やさしいね。
もしかして悪役令息って、楽しいのかな……?
別に悪役令息のままでいても、いいんじゃ……?
思った僕は、あわててぶんぶん首をふる。
断罪と極刑が、セットじゃなきゃね!
そう、このまま突き進んだら、恐ろしいことが降ってくるんだよ──!
きゃ──!




