もえてる
「ゆりちゃんは治癒魔法を家庭教師で学ぶのでいいのかな? 魔法学園はお休みでいい?」
ロドお兄ちゃんに聞かれた僕は、今世の記憶を検索しました。
……ああ、そうでした。
僕、王立魔法学園に通ってたね。
ぴんくの髪の主人公にいじわるするためにね! なんてひどい悪役令息!
ちっとも勉強しなかったよ。しょんぼり。
「あ、あの、僕、謝りに行ったほうがいいかな、ロドお兄ちゃん」
聞いた瞬間、やさしさ満開の兄の背から、闇が噴いた。
「……何を、謝るの……?」
…………え…………
こわいこわいこわい!
やさしい王子みたいなお兄ちゃんが、一瞬で大魔人みたいになったよ!
「ゆりちゃんは、被害者だよ。浮気されて、伴侶(予定)契約を破棄されて、突き飛ばされて、頭を打つ大怪我をして、一週間も昏睡して、今も記憶が混濁してるんだよ。
何を、謝るというの……?」
おどろおどろしい闇が、やさしいお兄ちゃんの背中から、どろんどろんしてる……!
きゃー!
「つ、突き飛ばされてないよ! 僕が衝撃で倒れちゃって、そのときに、ごちんってなったみたいで……」
いつも、やさしさしかありませんみたいなお兄ちゃんが、鼻を鳴らしてる! こわい!
「王太子は、ゆりちゃんという希少な治癒の力をもつ、たまらなく可愛くて完璧な伴侶(予定)がありながら、平民の男と王立魔法学園で堂々と浮気し、王家のほうから懇願して結んだ伴侶(予定)契約を突然一方的に破棄したうえに伴侶(予定)のゆりちゃんを突き飛ばして大怪我を負わせ、1週間も昏睡させて記憶の混濁まで引き起こした極悪人として、僕とサザが泣いて噂を広めたから」
ひと息で言い切ったよ、肺活量すごい!
じゃなかった、えぇえ!
僕の評価と『突き飛ばして大怪我を負わせ』が、事実と異なるよ──!
「そういうの大すきな人たちがめちゃくちゃ協力してくれて、わーわー騒いでくれたから。
ゆりちゃんが謝ることなんて、これっぽっちもないんだよ!」
やさしいロドお兄ちゃんの鼻息が荒い。
……筋肉むきむきなサザお兄ちゃんも、泣いて広めてくれたんだ……ちょっと見たかった……じゃなかった!
お兄ちゃんたちの報復がこわい!
「で、でも、平民の男の子にいじわるしたのは、よくなかったなって……僕、突き飛ばしたり、ノート破ったり、ひどいことしたから……」
ロドお兄ちゃんが高い鼻を鳴らす。
「そんな可愛らしい報復を、ゆりちゃんが憂えることはないんだよ。下位とはいえ僕たちは貴族なんだし、正式な伴侶(予定)である、ゆりちゃんを差し置いて、王太子といちゃつく平民の男の子が全面的にわるいんだから!
断罪しないで、ちょっといじわるするだけな、ゆりちゃんが、天使!」
………………なるほど。さすが悪役令息のお兄ちゃんだ。
これ前世の記憶がないと、悪役令息道を猛進するしかないあれだ!
「1週間昏睡で、やっと目を覚ましてくれたけど、記憶も混濁して起きあがれないって僕とサザで泣いて回ってるから、ゆりちゃんはしばらくお家でおとなしくしてなさい。家庭教師を呼んであげるからね。
王家から慰謝料、死ぬほどふんだくってやるんだから!」
ロドお兄ちゃんの背中の闇が燃えている。こわい。




