ぐぅ
治癒魔法を勉強するには、教本を探したり教えてくれる魔導士さんを探すところからはじまるらしい。
今までちっとも勉強してこなかったっていうのがね……
し、仕方ないよ、終わってしまったことは、どうにもできない。
ちゃんと反省したら、これからがんばろー!
とりあえず今は、僕がいる世界っぽいオンラインBL小説『鉄板BL』のお話の覚えているところをおさらいしてみよう!
タイトルどおり鉄板なお話なので、王太子が平民の可愛い男の子に夢中になって、伴侶(予定)で高慢ちきな悪役令息に見切りをつけて、平民の男の子と結ばれて、いちゃいちゃあはんなお話だったよ。鉄板!
……鉄板……えーと、他の登場人物は……
悪役令息の設定は……
お話の展開は……?
…………………………鉄板すぎて、覚えていることが、あんまりない……
ど、どどどどうしよう……!
せ、せっかく知ってる世界に来たっぽいのに、覚えてないとか、ありなの……!?
うぅう、だって、面白いBL小説が毎日毎日新しく投稿されるから、追いかけて読んでたら、前に読んでたお話、忘れちゃうよね?
登場人物の名前とか、全員うろ覚えじゃない? 国の名前とか無理だよね? ちがうお話の登場人物と間違ったりしない? あれ? こんな話だっけ?? ってなるよね? たまに出てくる人とか、あー、こんな人いたなー、ってなるよ。記憶のかなた!
『鉄板BL』は表紙がきらきらしてたから覚えてて、それでセゥス殿下の顔は、きらきら具合がそっくりだなって思ったけど、それくらいだなあ……
鉄板だから、よくある感じに話が進んで、よくある感じに終わったんじゃ……?
いやいやいや、思いだせ!
がんばるんだ、僕の脳みそ!
ぽくぽく考えた。
……考えた。
…………かんがえ…………
「ぐぅ」
かくんとなった頭を、伸びてきた腕がやさしく支えてくれる。
「ユィリおぼっちゃま、眠るときは寝台で」
さっとおひめさま抱っこしてくれるカイが、かっこよすぎる件について。
きゃ──!
おひめさまだっこだよ! すごい! 現実にしてくれる人がいた!
思わず抱きついてしまいました。
あったかい。
カイ、いー匂いがする。
広い胸に顔をうずめて、ふんふんしちゃう!
「カイ、かっこいー」
ぽやんと眠い頭で、つい口からこぼれました。
やさしく寝台に横たえてくれるカイが離れて、カイのぬくもりが、カイの鼓動が離れてしまうのが、さみしい。
「そんな、お可愛いらしい顔で言われると困ります」
ほとんど表情の動かないカイは、ちっとも困っているように見えないよ。それに
「僕、あんまり可愛くないよ。うちの家族の皆が僕を過大評価しすぎだよ」
とがらせた唇を、カイのほっそりした長い指に、ふにふにされた。
「んん」
無表情なのに、色気がダダ漏れてるカイのまなじりが、ほんのり朱い。
「ユィリおぼっちゃまは、めちゃくちゃかわいーです」
ちょっとうるんだ目まできらきらのカイが、めちゃくちゃかっこいーよ!
ふにふに
「んん、だめ、カイ」
くすぐったいよ!
上目づかいで見あげたら
「もう1回だけ」
ふにふに
カイの長い指に、とがった唇をふにふにされました。
「ゆりさま、かわいー」
無表情なカイの周りに ♡ が飛び交ってるのが見える気がする……!
…………………………。
……んんん……?
このとろけるように甘い空気は……??
ちょ、ちょっとおかしくないかな??
……これもBL小説の強制力なのかなー?
悪役令息の周りの人は、悪役令息をデロデロにあまやかして、ほめたたえる使命に燃えてる?
いじわるで高慢ちきで、いけすかない、立派な悪役令息になるように?
……中身がほめるに値しないのに、無理にほめさせて、無理にあまやかさせて、ごめんねってなっちゃう。
せっかく、あまやかしてくれてるのに、しょんぼりしちゃうよ!




