おー
このままとろとろに甘やかされていたら、ろくでもない大人、ちがう、ろくでもない悪役令息になっちゃう!
あわあわ僕は、口を開いた。
「おかあさん、おとうさん、ロドおにいちゃん、サザおにいちゃん、僕をあんまり甘やかしてはいけません! 僕はこれから、ひとりでも生きていけるように、がんばるのです。応援してください」
キリっと言ってみたよ。
気もちね。顔は変えられないからね。
なんか鏡で見ると、僕の顔、まるいんだよね。大福っぽい。でもメタボではない! たぶん!
だから全然キリっとしてないけど、気もちね!
「ああ、ゆりちゃん……!」
「なんて立派な!」
『がんばる』と言うだけで、涙目になって感動してくれる両親が、僕に激甘です。
「全力で応援するよ、ゆりちゃん!」
筋肉もりもりで、短く刈りあげた髪がかっこいー第2子の兄サザも、激甘です。
「でも無理しないで、ゆりちゃん。今は療養しようね」
微笑んで頭をなでてくれる、背の高くてやさしい第1子の兄ロドも、激甘です。
このままでは、せっかく前世の記憶を思いだしたのに、また悪役令息に戻っちゃうかも……!
危機感をおぼえた僕は、ひかえめに部屋の隅に立ってくれているカイを振りかえる。
「カイは僕に厳しくしてくれるよね」
目を見開いたカイは、しずかに唇をひらいた。
「無理」
無表情で首を振られました。
さらさらの夜の髪が揺れるのも、かっこいー。じゃなかった。
「………………え…………」
家族はだめでも、一番厳しくしてくれそうなカイなら、悪役令息じゃなくなるのを応援してくれると思ったのに……!
ぼうぜんとする僕に、おとうさんが、うむうむしてる。
「ゆりちゃんが、とびきり可愛いから、厳しくするなんて、誰にもできないんだよ。あのクソ王太子以外は」
不敬で投獄されちゃうよ、おとうちゃん!
んんん、これは家族とカイに甘えてたら、僕は堕落の道、ちがう、悪役令息の道を歩んでしまう……!
そうして立派な悪役令息をやってたんだよ。だめだめだめ!
悪役令息を改めることが、前世の記憶をよみがえらせた、僕の使命なのです!
王太子殿下に伴侶(予定)契約を破棄された僕は『ろくでもない』の烙印を押されたのと同じことだ。
伴侶になりたいと言ってくれる人は、二度といないと思って間違いない。
ロドア家の家督を継ぐのはロドおにいちゃんだ。
サザおにいちゃんには、ロドおにいちゃんを支える使命がある。
3番目の僕は、立派にひとりで生きてゆかねばならないのです!
ということは、何とかして働かないと!
……僕ができること……頭はそんなによくなかったっぽい。官吏の道とかきびしそう。事務仕事とか全く向いてなさそう。
顔は……うーん……だいふく? もちもち?
気が利かないしなあ……お掃除とか、お料理とかも、びみょーかも……
あ、そうそう、希少な治癒魔法が使えるよ!
でもできるのは、ちっちゃいすり傷を治すこと。
……しょっぽい……!
でもでも貴重な治癒の力があるなら、これをがんばって伸ばせばよいのでは?
今までぜんっぜん勉強してこなかったなら、もしかして、もしかしたら、のびる余地があるのでは……!?
「と、とりあえず、僕、治癒魔法の勉強をしたいです」
応援してー。
「ああ! ゆりちゃんがお勉強だなんて!」
「なんて賢いんだ、ゆりちゃん!」
「無理しなくていいんだよ、ゆりちゃん」
「そうだぞ、ゆりちゃんは病みあがりなんだ。熱でも出たらどうする!」
「記憶の混濁もあられるユィリおぼっちゃまには、しばらくは療養していただかないと」
家族皆が、僕をデロデロに甘やかしにくる件について。
もしかしてこれも、BL小説の強制力なのかな?
ユィリは甘やかされて、高慢ちきで鼻につく悪役令息にならなければならない?
……どんなに頑張ったって、ユィリは悪役令息としてざまぁされて断罪される運命なのかもしれない。
だったらよけいに、運命なんて鼻息だ。
ぼーっと毎日を過ごし、断罪と極刑の日を待つだなんて、絶対いやだ。
たとえ強制力の前に無惨に敗北するのだとしても、僕にできる精一杯をやってみたい。
伴侶は勿論、恋人もいなくて、恋すら知らなくて、ゲームとオンラインのBL小説しか楽しいことがなくて、さみしかった……いや2次元は充実の極みだったけれど、さみしい3次元な前世の自分とお別れするためにも、やれるだけ、やってみよー!
おー!




