かっこいー
意識を失い倒れた僕を、セゥス王太子殿下のお茶会についてきてくれていた僕の従僕カイが連れ帰ってくれたのだろう、自室で眠っていたらしい。
ふかふかの天蓋つきの、びっくりするような巨大なベッドに息をのむ。
そう、ベッド。
カタカナが違和感なく頭のなかで再生される。
そして今の自分の状況にびっくりだ。
ベッドが天蓋つきだよ。ひらひらしてるよ。
ふっかふっかだよ!
跳びたいよ!
もぞもぞ飛ぼうと起きあがったら、自分のパジャマが、レースとフリルでひらっひらで、びっくりした。
「わあ!」
こんなレースとフリルを見たのも初めてだし、着たのも初めて……じゃ、ない……ちが、う……僕は──
頭のなかに膨大な前世の記憶が流れこんだ衝撃で、今世の記憶が遠く霞みそうで、あわててたぐり寄せる。
……そう、僕はユィリ・ロドア。
ロベナ王国下位貴族ロドア家の第3子だ。
今世の記憶が、ばばばばばっとよみがえった次の瞬間、僕は頭を抱えた。
「あぁーぅー……すでに詰んでる」
しょんぼりしかない。
平民の可愛い男の子が憎らしいからといって、いじわるしてはいけない、絶対!
……なのに、思いきり、やっちゃってた。
前世の記憶がよみがえる前の僕としては、ちょっとしたいじわるのつもりだった。
でも、されたほうは、絶対傷つく。
ぶつかられたり、教科書を隠されたり、ノートを破られたり、ひどすぎるよ──!
なんてことをしてるの!
ぶつかって、転んだ場所が廊下だから、まだましだったけれど、階段を落ちていて大怪我だったりしたら、間違いなく断罪ものだ!
……いや、今でも既に傷害かもしれない……さらに器物損壊で訴えられるよ、終了だよ!
吹けば飛ぶような下位貴族が何をやってる!
治癒の力があって、色々優遇されてるからって、すり傷をちょこっと治すだけとか役に立たないよ──!
ふつう悪役令息で転生した場合、もうちょっと早く前世の記憶がよみがえるんじゃないの?
破棄された瞬間によみがえるって……あるな、あるけど、僕はもうちょっと前に記憶を戻してほしかった……!
泣いている場合じゃない。
伴侶(予定)契約は破棄されてしまった。
次に来るのは、断罪だ──!
血の気のひいた僕は、あわてて枕もとの呼び鈴を鳴らした。
「お目覚めですか、ユィリおぼっちゃま。お加減は、いかがですか?」
しゃっと来てくれたのは、いつも僕についてくれていて、僕のお世話をしてくれる従僕のカイだ。
僕をこの部屋まで運んでくれたのも、きっとカイだろう。
つややかな夜の髪も、切れ長の夜の瞳もあでやかで、したたるような色気がある。
無表情というか、あまり表情が動かないところも相まって、めちゃくちゃかっこいー。
確かBL小説には毛の先ほども出演がなかったはず……だ。モブですらない。のに、この顔面か!
「え、カイ、かっこいーね!」
口から出たよ。
珍しく、ぽかんとしたカイが、凛々しい眉をひそめた。
「ユィリおぼっちゃま、倒れられたときに、ごちんと頭をお打ちに?」
「たぶん?」
なんか頭いたい。
さわってみたら、ちょこっと腫れてるっぽい。
でも打つ前に記憶が流れこんだけどね。悪役令息を思いだしてね。
……セゥス王太子は、倒れる僕を支えてもくれなかったんだなー……円卓の対面に座っていたから間に合わなかっただけだといいな……しょんぼり。
いたましそうにカイは眉をしかめた。
「記憶の錯乱が?」
「たっぷり?」
今の僕は、前世の僕80% 今世の僕20%くらいだと思われる。
今世の僕の知識はあるし、誰が誰とかわかるけど、高慢ちきじゃないかも? たぶん? あれはわるぐち? 火のないところに煙は立たないよね? やな態度っぽかったよ。ぼんやり記憶がある。
うんうんうなっていたら、すぐにカイがうやうやしく胸に手をあてる。
「かしこまりました。すぐに医士を呼んでまいります」
治癒の力があっても、医者を呼ばれてしまう僕。そう、小さなすり傷を治せるだけで、大きな怪我とか病気とかは管轄外なんだよ。
ちょこっとすりむいた時にしか出番のない僕。
ほとんど役に立たない僕。
せつない……!
ちょっとにじんでしまった涙をぬぐっていたら、おじいちゃん先生がすぐに来てくれて、ぽんぽんお腹を診てくれました。
「……え、いや、僕は頭を打って……」
「そうでしたのー」
だいじょぶか!




