8話
父親が息絶えたのだと、私にはわかった。
ひしゃげた背中が、力なく崩れ落ちた。
拓郎は………黙って父の骸を見つめている。
かける言葉は見つからなかった。
しばらくの静寂。
私は拓郎から視線を外すことができなかった。
そのうち、争う声を聞きつけた近所の者が集まりはじめ、警察だなんだと大騒ぎになった。
拓郎は、通報を受けて駆けつけた警官に取り押さえられ、連行されて行った。
私は、友人だと答えた。
何をしに来たのかと問われたが、答えようもなかった。
結局、参考人として私もパトカーに乗せられた。
父親の遺体を見た近所の連中や、警察は唖然としていた。
どう説明したら良いものかわからず、拓郎も取り調べに対して言葉を発さないらしい。
「あんな状態の仏さんを見たのははじめてだよ。何をどうしたらあんな状態になるのか。凶器も見当たらんし、現場にいた人間の手は全く汚れていない。第一、遺体に触れた跡がない」
警察はそう言った。
そこでようやく、古くからの友人であること、たまたま電話したら様子が変だったので見に来たのだと説明した。
私が到着した時には、既に喧嘩の末転ばせてしまった状態で、その後目を覚まして口論になったが、急に苦しみ出した。
とだけ答えた。
私は一晩警察に泊まっていけと言われたので、妻に電話をさせて欲しいと頼んだ。
案内された先で、自宅に電話をかける。
妻はすぐに出た。
『もしもし、吉川でございます』
「俺だ。今警察にいる。…すまん今夜は帰れない」
『わかりました。……大丈夫ですか?』
「俺は大丈夫だ。」
『……齋藤さんは?』
「ヤツは…警察が来てからは会ってない」
『そうですか。…明日はお迎えが必要ですか?』
「いや、大丈夫だ。朝には帰してもらえそうだ」
『わかりました。お風呂を点てて待ってますので、気をつけてお帰りください』
「あぁ、頼むよ。おやすみ」
『おやすみなさい』
受話器を置いた後、傍にいた警官に礼を言ったが、どこへ行けばいいのかわからなかったので、ひとまず取り調べ室に戻った。
誰もいない。
私だけ取り残されたようで、落ち着かない。
拓郎は、どうなってしまうのか。
私は、きちんと日常に戻れるだろうか。




