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郷里の松  作者: ひじき
8/9

8話

父親が息絶えたのだと、私にはわかった。

ひしゃげた背中が、力なく崩れ落ちた。

拓郎は………黙って父の骸を見つめている。

かける言葉は見つからなかった。

しばらくの静寂。

私は拓郎から視線を外すことができなかった。


そのうち、争う声を聞きつけた近所の者が集まりはじめ、警察だなんだと大騒ぎになった。

拓郎は、通報を受けて駆けつけた警官に取り押さえられ、連行されて行った。

私は、友人だと答えた。

何をしに来たのかと問われたが、答えようもなかった。

結局、参考人として私もパトカーに乗せられた。

父親の遺体を見た近所の連中や、警察は唖然としていた。

どう説明したら良いものかわからず、拓郎も取り調べに対して言葉を発さないらしい。

「あんな状態の仏さんを見たのははじめてだよ。何をどうしたらあんな状態になるのか。凶器も見当たらんし、現場にいた人間の手は全く汚れていない。第一、遺体に触れた跡がない」

警察はそう言った。

そこでようやく、古くからの友人であること、たまたま電話したら様子が変だったので見に来たのだと説明した。

私が到着した時には、既に喧嘩の末転ばせてしまった状態で、その後目を覚まして口論になったが、急に苦しみ出した。

とだけ答えた。

私は一晩警察に泊まっていけと言われたので、妻に電話をさせて欲しいと頼んだ。

案内された先で、自宅に電話をかける。

妻はすぐに出た。

『もしもし、吉川でございます』

「俺だ。今警察にいる。…すまん今夜は帰れない」

『わかりました。……大丈夫ですか?』

「俺は大丈夫だ。」

『……齋藤さんは?』

「ヤツは…警察が来てからは会ってない」

『そうですか。…明日はお迎えが必要ですか?』

「いや、大丈夫だ。朝には帰してもらえそうだ」

『わかりました。お風呂を点てて待ってますので、気をつけてお帰りください』

「あぁ、頼むよ。おやすみ」

『おやすみなさい』

受話器を置いた後、傍にいた警官に礼を言ったが、どこへ行けばいいのかわからなかったので、ひとまず取り調べ室に戻った。

誰もいない。

私だけ取り残されたようで、落ち着かない。

拓郎は、どうなってしまうのか。

私は、きちんと日常に戻れるだろうか。



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