7話
「親父さん!大丈夫ですか?」
起きようとする老人を押さえ、そのまま動かない方がいいと伝えた。
頭を打っているはずだ。
「拓郎、おめぇ父親に向かってなんてことしやがる」
弱弱しく、だが吐き捨てるように言った。
「父親だ?ふざけたこと抜かすなよ。おめぇの悪事は今全部こいつに喋ったぜ」
「なんだと?!テメェこの野郎!」
叫びながら立ち上がろうとする。
ものすごい力だ。
「あの女に似てきたよなぁ!俺のやること全部邪魔しやがって!」
「誰がおめぇの邪魔なんかしたよ!おふくろはおめぇが殺したんだろうが!」
もう収拾がつかない。
私はただオロオロと、足元のふらつく老人が倒れこまないようにと手を添えるだけだ。
「だいたいおめぇは…」
ふと、動きが止まる。
宙を見るように目が虚ろになっている。
「親父さん……?」
様子がおかしい。
次の瞬間!
「うわぁぁぁ!」
老人が叫ぶ。
やはり頭を打っていたようだ。
叫んだ勢いで転んでしまった。
「親父さん、動かないでください!」
素人にはわからないが、頭を打ったとしたら大変なことになっている気がする。
「拓郎!救急車呼べ!拓………」
大男は冷めた目でこちらを見ている。
「さんざん俺たちをぶん殴ったバツだ。そのままくたばっちまえ!」
憎しみに満ちた目だ。
埒が明かないので、私は母屋から電話をかけようと立ち上がった。
すると
「タケ子……!」
引き攣り、上ずった声が響く。
「うわぁ!来るな!そもそもおめぇが悪いんだ!おめぇを埋めたのはアイツだぞ!」
のたうち回りながら、顔中を掻きむしっている。
まずいとは思ったが、足が動かない。
「ひぃ!ぎあぁぁぁぁぁ…」
声を張り上げた瞬間、見てしまった。
薄ぼんやりと浮かんだ……影。
覆い被さるように、老人の顔を覗き込んでいる。
恐怖に見開かれた目が、ぐるぐるとちぐはぐに動いている。
背中がぎこちなくしなっていく。
あれは…あの影は……拓郎にも見えているのだろうか。
2人とも動けない。
硬直した父親の口の端に泡が溜まっていく。
そのうちに
ボキッ
と音が鳴った。
あ、背骨が折れたのだなと、何故か冷えてきた頭で思った。




