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郷里の松  作者: ひじき
6/9

6話

中には……拓郎と、

「拓郎………」

足元に父親が転がっている。

ヤツはゆっくりと振り向いた。

「吉川…俺は…」

泣いていた。

「どうした。何があった?」

「こんなはずじゃ…違うんだ。いや、今回は、でも前のは俺じゃねぇ」

「今回はって…」

電話を切った後、父親と口論になったらしい。

人様に何の話をしてる、まさかバラしたんじゃあるめぇなと。

「それで怒鳴り合いになって、そのうちに親父が、おめぇのおふくろもそうだったと言ったんだ。それで頭に血が上って…」

「生きてる…のか?」

老人の方へ視線を送ってみるが、素人目には生死はわからない。

「ちょっと突き飛ばしただけだったんだ。でも後ろが縁側だった。転がり落ちてそのまま動かない。とりあえずここまでは運んだが」

確かめてはいないのか。

おっかなびっくり触ってみる。

「親父さん………おい拓郎!生きてるぞ!」

微かに息をしている。

「親父さん、親父さん大丈夫ですか?」

あまり揺らしたらまずいと思った。

あちこち叩いてみるが、起きない。

「もういいんだよ。これで生きてたって元には戻れねぇ」

そういうわけにはいくまい。

救急車か、警察か…

「前回はな…俺が埋めたんだ」

ボソッと拓郎が呟く。

「前回ってなんだ。何を埋めたんだ!」

もう訳がわからない。

私の理解の範疇を超えてしまった。


「おふくろだよ」


なんてことだ。

私は、お前にそれを否定してほしくてここまで来たんだぞ。

「おふくろさんは出て行ったはずだ」

そうだ、親父に殴られるのが嫌で出て行ったと、お前が言ったんじゃないか。

「おふくろは親父が殺したんだ」

「なん……」

「あの日もそうだ。酒かっ食らって暴れて、おふくろに手を出した。俺が止めに入ったら次は俺をぶん殴った。そしたらおふくろが包丁持ってきて…」

やめてくれ。

もう聞いていられない。

「そのまま揉み合いになって、掴みあってる弾みで……」

「なんてこった…。だが…」

すぐに手当てすればよかったのではないのか。

「どうにかしようとはしたんだ。けどな、ダメだったよ。まぁな、刺さった所が悪かった。……………あとはもう死ぬしかあるめぇよ」

「だからといって」

だから埋めたなんて通るはずが無い。

「埋めてこいって親父が言ったんだ。だから、夜中におふくろ担いで浜まで出た。都合良く誰にも会わなかったぜ。それで…松の木の下を掘って…埋めたんだ。」

まさか、ではあの手の傷は……

「あの時手が傷だらけだったのは、浜を掘ったからか?」

「さぁな。夢中だったからな。シャベルでかいて、手で掻き出して、海の家の、横に立てかけてあった板んぱで、蓋をして、埋めた」

言いながら、拓郎はまた涙を流した。

私はなんと答えたらいいのか、全くわからなくなってしまった。

直子……直子に会いたい。

早く日常に戻らないと、頭がおかしくなりそうだ。

悪い方悪い方にばかり考えが向く。

それを拓郎の言葉が補完してしまう。

こんなものを現実と呼べるわけがない。

「それは…許されないことだ。警察とか」

「そんなことできるかよ。おふくろには、旦那に殺された可哀想な女になってほしくなかったんだ。」

そんな理屈は通らない。

「だからって、埋めてしまったら葬式もできないじゃないか」

「葬式なぁ……今思えばそうだな。俺はおふくろを、あの浜に置いて帰って来ちまった」

おふくろごめんなぁと、大男が背中を丸めてしゃがみ込んだ。

すると、ぐぅともうんともわからない声をあげて、拓郎の父親が目を開けた。

焦点の定まらない虚ろな目。

だがしっかりと倅の姿を捕らえている、ようにも見えた。

何か呟くように口を動かしてはいるが、声にはならない。



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