6話
中には……拓郎と、
「拓郎………」
足元に父親が転がっている。
ヤツはゆっくりと振り向いた。
「吉川…俺は…」
泣いていた。
「どうした。何があった?」
「こんなはずじゃ…違うんだ。いや、今回は、でも前のは俺じゃねぇ」
「今回はって…」
電話を切った後、父親と口論になったらしい。
人様に何の話をしてる、まさかバラしたんじゃあるめぇなと。
「それで怒鳴り合いになって、そのうちに親父が、おめぇのおふくろもそうだったと言ったんだ。それで頭に血が上って…」
「生きてる…のか?」
老人の方へ視線を送ってみるが、素人目には生死はわからない。
「ちょっと突き飛ばしただけだったんだ。でも後ろが縁側だった。転がり落ちてそのまま動かない。とりあえずここまでは運んだが」
確かめてはいないのか。
おっかなびっくり触ってみる。
「親父さん………おい拓郎!生きてるぞ!」
微かに息をしている。
「親父さん、親父さん大丈夫ですか?」
あまり揺らしたらまずいと思った。
あちこち叩いてみるが、起きない。
「もういいんだよ。これで生きてたって元には戻れねぇ」
そういうわけにはいくまい。
救急車か、警察か…
「前回はな…俺が埋めたんだ」
ボソッと拓郎が呟く。
「前回ってなんだ。何を埋めたんだ!」
もう訳がわからない。
私の理解の範疇を超えてしまった。
「おふくろだよ」
なんてことだ。
私は、お前にそれを否定してほしくてここまで来たんだぞ。
「おふくろさんは出て行ったはずだ」
そうだ、親父に殴られるのが嫌で出て行ったと、お前が言ったんじゃないか。
「おふくろは親父が殺したんだ」
「なん……」
「あの日もそうだ。酒かっ食らって暴れて、おふくろに手を出した。俺が止めに入ったら次は俺をぶん殴った。そしたらおふくろが包丁持ってきて…」
やめてくれ。
もう聞いていられない。
「そのまま揉み合いになって、掴みあってる弾みで……」
「なんてこった…。だが…」
すぐに手当てすればよかったのではないのか。
「どうにかしようとはしたんだ。けどな、ダメだったよ。まぁな、刺さった所が悪かった。……………あとはもう死ぬしかあるめぇよ」
「だからといって」
だから埋めたなんて通るはずが無い。
「埋めてこいって親父が言ったんだ。だから、夜中におふくろ担いで浜まで出た。都合良く誰にも会わなかったぜ。それで…松の木の下を掘って…埋めたんだ。」
まさか、ではあの手の傷は……
「あの時手が傷だらけだったのは、浜を掘ったからか?」
「さぁな。夢中だったからな。シャベルでかいて、手で掻き出して、海の家の、横に立てかけてあった板んぱで、蓋をして、埋めた」
言いながら、拓郎はまた涙を流した。
私はなんと答えたらいいのか、全くわからなくなってしまった。
直子……直子に会いたい。
早く日常に戻らないと、頭がおかしくなりそうだ。
悪い方悪い方にばかり考えが向く。
それを拓郎の言葉が補完してしまう。
こんなものを現実と呼べるわけがない。
「それは…許されないことだ。警察とか」
「そんなことできるかよ。おふくろには、旦那に殺された可哀想な女になってほしくなかったんだ。」
そんな理屈は通らない。
「だからって、埋めてしまったら葬式もできないじゃないか」
「葬式なぁ……今思えばそうだな。俺はおふくろを、あの浜に置いて帰って来ちまった」
おふくろごめんなぁと、大男が背中を丸めてしゃがみ込んだ。
すると、ぐぅともうんともわからない声をあげて、拓郎の父親が目を開けた。
焦点の定まらない虚ろな目。
だがしっかりと倅の姿を捕らえている、ようにも見えた。
何か呟くように口を動かしてはいるが、声にはならない。




