4話
「どうしたんです?随分なお話してらしたじゃないですか」
妻に問われても答えられない。
頭が整理できない。
「いや………なぁ、ほんとにこの写真、アイツに見えるか?」
「私には確信できはしませんよ。小さくてボヤけてしまっていてはっきりとは写っていませんもの」
だが…いや、そういえば、
「お前、前にヤツは埋めた物か埋めた場所か、どちらかに心当たりがある気がすると言ってたな」
「えぇ、隠し事がばれていないか気になっている子供のように感じました」
隠し事?
止せ、変な方向に辻褄が合ってしまう。
「なぁ、お前の印象ではどうだった?ヤツにおかしなところを感じたか?」
「この前お会いした時には、何か隠し事でもあるのかなとは思いましたが、これといって特には…」
それはどんなものだと思う?と言おうと思ったところで、でも…と妻は続けた。
「はじめてお会いした時には、何か過去のある方なのかなと思いましたね」
「過去?それはどういう意味だ?」
「何か暗いものとでも言いましょうか、辛いことでもあったのかなと、今も印象に残っている程には、感じた覚えがありますわ」
拓郎は母親が失踪している。
今でこそ豪快な性格だが、その当時は目も当てられぬ程に消耗していて、気軽に声をかけられる相手ではなかった。
「辛いことというと、おふくろさんのことが尾を引いているのかもな」
「私は今はじめて聞きましたから、それが要因だと言われたら、そんな気もします」
だが、あの様子は…
気になって仕方がない。
「直子、今俺は……拓郎が心配だ」
「誰か…………殺めてしまったと?」
「いや違うんだ。少なくとも俺の知ってるアイツは、人殺しなんかできない」
「私もそう思います。」
「だが、あの様子はやっぱり尋常じゃない。誤解ならすぐ冗談で返してくるし、誤魔化そうと思うとドツボにはまるようなヤツなんだ。軽口ならいくらでも叩けるし、俺のことをけちょんけちょんに言うことだってできたはずだ。しかしさっきのアイツは……いや待ってくれ!」
「大丈夫ですよ。落ち着いて考えましょう」
いや違う。そうじゃない。
「アイツ、子供の頃は傷が絶えなかったんだ。親父さんは呑むと手がつけられないと言ってた。」
「齋藤さんを…ということですか?」
「いや、拓郎だけじゃない。おふくろさんもだ。普段は気の良い親父さんなんだが」
酔うと人が変わる父親。
そうだあれは…
拓郎と会う度に増え、また消えていく父親の飲酒の痕跡。
「なぁ直子、俺は……、俺は、どうしたらいいと思う?お前の勘に頼りたい」
「私も、聞いていて胸騒ぎがします。ご実家を訪ねるわけにはいかないのですか?せめてお話だけでも」
そうだ。
何も拓郎が殺人を犯しただなどとは思っていない。
だが何か人に言えないことをしたのは否定しきれない。
時計を見る。
電車はまだ…走っているはずだ。
「直子、俺は……行ってもいいのか」
「早とちりであればそれでいいのです。もしかしたら……いえ、それはご本人に確認した方がよろしいのでしょうね。」
大切な人ならば行って来てくださいと背中を押され、私は家を出た。
今日はやけに虫たちがざわめいている気がする。




