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郷里の松  作者: ひじき
3/9

3話

目当ての物を手に入れ帰宅すると、夕飯を拵え終えた妻が雑誌を読んでいた。

「おかえりなさい。随分遠くまでお出かけになったんですね」

「あぁ、悪かった。途中で拓郎に会って少し立ち話をしたんだ」

「そうだったんですね。お元気でしたか?」

「実家の野良仕事に駆り出されたと文句を言ってたよ」

買ってきたばかりの針金を種類別に収納しながら答えた。

「干物のお礼、伝えてくださいましたか?」

「ちゃんと伝えたよ。親父さんにもよろしく伝えてくれと言った」

「ありがとうございます。」

さて、じゃあご飯にしましょうかと、妻が立ち上がった。

頼むよと言いながら、出しっぱなしの写真をしまおうと手に取った。

ふと、先ほどの拓郎と会話を思い出す。

暗がりの松林、風の音、ざわめく枝葉、つられて波打ち立つ心。

揺れる松、その下には…………

お岩さん。

『ひゅードロドロなんて来られた日にゃあ…』

ゾクッとした。

想像をかき消すように1度首を振った。

手元には写真。

松の木の下には…………

何か見えた気がした。

家族写真の後ろ側、松の木の下、見覚えのある気がする後ろ姿が。

まさか……

「なぁ、これって………」

妻に声をかける。

「なんですか?」

「これ、………拓郎に見えないか?」

どれどれと言って妻が近づいて来た。

「んー………小さくて分かりませんけども、そうと言われたらそう見えますねぇ」

いや、これは拓郎だ。

今日見た後ろ姿だ。

松の木の下、地面の辺りで何か探しているように見える。

時計を見る。

そろそろ実家に着く頃だろうか。

「ちょっとからかってやろうか」

止してくださいよと眉を下げる妻に一瞬躊躇ったが、どうにも教えてやりたくなってしまった。

「ちょっと電話してみるよ」

ほどほどになさいねという声を後ろに聞きながら、ダイヤルを回す。

……出ない………、

「はいもしもし」

嗄れた男性の声だ

「あ、もしもし、齋藤さんのお宅で間違いないでしょうか?」

「はい、齋藤ですけども」

「私、拓郎さんの同級の吉川と申しますが、拓郎さんはご在宅でしょうか」

「あぁあぁはいはいはい、吉川さんとこのね、久しぶりだねぇ元気でしたかい。倅は今風呂を洗ってくれてましてね、待ってもらえるんだら呼んで来ますけども」

お願いできますかと答えると、ちょっと待っててくださいねと言って、息子の名前を呼びながら遠ざかって行った。

しばらく待つと、電話口に拓郎が現れた。

「おぉう、どうしたこっちの方まで電話なんて」

「いやね、さっき話したジオラマの資料写真を預かってるんだが、家族写真の後ろにお前らしき人が写ってるように見えてね、不思議な繋がりがあるもんだなぁと思って連絡してみたんだよ」

電話の向こうで、ヤツは息を飲んだ。

「そ…れは、どんな写真だ」

「どんなと言われてもなぁ…よくある家族写真を撮った物だが、被写体家族の後ろで、たまたまお前らしき人が松の木の下で探し物でもするような格好で写ってる感じだな」

答えた瞬間、ヤツは呻き声とも嘆き声ともつかぬ、うぅぅという音を鳴らした。

「それはいつ頃の写真だ?そいつは本当に俺なのか?」

「何を慌ててる?まさか人でも殺して埋めたんでもあるまいに…………」

だが言ってしまってから、しまった、と思った。

冗談だったのだ。

馬鹿なことを言うなよとでも続けてしまった方が良かった。

普段から軽口を叩き合う仲だ。

それは当然の如く、馬鹿野郎滅多なこと言うもんじゃねぇぜ、と返ってくるはずだったのだ。

耳鳴りがする、背後で妻が食器を運ぶ音がする。

「おぃ……違う、俺じゃねぇ、俺じゃねぇんだよ。お前だけには信じてもらいたい。俺がやったんじゃ………」

何を言っている?

まさか、本当に…

「お、おいおい、急にどうしたんだ、冗談だって。何もそんな…本気に取られたら…」

次第に語尾が弱弱しく消えていく。

「何か…したのか?」

無理やり絞り出した言葉は、拓郎の緊張を更に引き攣らせるものだった。

「いや違う、そうじゃねぇ、だが……」


「一体何を騒いどる」


父親だ。

息子の様子を訝しんで近づいてきたようである。

「いや、なんでもねぇよ。吉川のヤツ、草履が片っぽ無くなっちまったのを、俺が履いて帰ったんだと勘違いしていやがって」

「男所帯なんだ。長電話なんかしとるのを聞かれたら、変に怪しまれる。それくらい考えて行動しろ」

「わかったよ。まぁそういうことだ。じゃあな」

半ば強引に切られてしまった。

私は焦燥感と疑念に包まれてしまった。

まさか……いや、まさかだ。

本当にまさか、いやいや、

まさかアイツの夢って



まさか…現実なんじゃなかろうか




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