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機械生命体の暇つぶし  作者: マレ・プラネーテス
第一章 観測者
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【第三十九話】一次研究

両開きの隔壁が開き、三人は管理区域へ入った。


室内は光沢を抑えた薄い灰色で統一され、天井全体から広がる光によって、部屋の隅まで均一な明るさに保たれ、奥には空間を区切る透明な隔離壁と、その手前に作業卓が置かれていた。


三人が作業卓へ近づくころには、搬入前の非侵襲検査を終えた個体から、外部形状や体内にある器官の位置、大きさ、雌雄や成長段階など、判別できた情報が個体ごとに記録されていき、研究室への搬入状況と総数が表示されていた。


その一方で、三次元モデルでは、非侵襲検査で判別できた構造とは別に、可動部の操作時の反応や、外骨格が重なる部分の動き、翅の内側、切開や分離による直接確認の対象となる部位など、一次研究で取得する情報が色分けされ、画面端には追加情報の取得に必要な工程と、複数個体および異なる人格個体による比較が必要であることも併記されていた。


「対象は十二体。一次研究は二体を予定しているようですね。通常通りであれば、そこで得られた情報を反映して、三体目以降は自動化できそうです」


「非侵襲検査の結果を見る限り、既知の類型から大きく外れてはいない。今回も二体で問題なさそうだな」


「……それでも、二体は必要なのね」


三人がそれぞれ表示された情報を確認し終えると、作業卓を離れて壁際へ向かい、壁面にある小さな印へ触れると、収納棚が手前へ滑り出した。


袖付きの研究用防液具を取り出して装着を進めている間にも、非侵襲検査を終えた個体が一体ずつ研究室へ運び込まれ、三人が装着を終えて収納棚を戻すころには、予定されていた総数の搬入と配置も完了していた。


『対象個体の搬入がすべて完了しました。一次研究区域への入室以降に取得された各人格個体の操作および知覚情報は、一次研究記録として保存され、以降の情報も同記録へ追加されます』


アナウンスが終わると、三人は研究室へ向かい、透明な隔離壁に近づくとその一部が開き、室内へ入った。


室内には複数の作業台が間隔を空けて並び、室内の端には搬入を終えた個別標本ケースがまとめて配置され、壁際には収納部が続くほか、各作業台の上方には手元を複数の方向から照らすための照明が備えられていた。


作業台は広く平らで、外周には浅い溝があり、その脇には、それぞれ対応する個体の識別情報と、非侵襲検査の結果が三次元モデルとともに表示されている。


三人はそのうちの一台を囲むように立ち、表示内容を確認したセバスチャンが一次研究の開始を指示すると、室内の端で待機していた個別標本ケースの一つが動き出し、作業台の側面まで来ると、その直下の床面が柱状にせり上がり、高さが揃ったところで停止した。


続いて側方から伸びたアームが透明壁を保持して上方へ引き上げ、別のアームが個体の載った薄い移送板を支えながら引き出し、そのまま作業台の所定の位置へスライドさせた。


アームが退くと透明壁が元の位置へ戻り、空になったケースは作業台を離れ、壁際の収容口へ向かっていった。


『対象個体の移送完了を確認しました。これより一次研究を開始します』

『対象個体識別名、未設定。非侵襲検査による取得情報を基準に、外部構造の確認、可動域および操作時の反応、解剖による内部構造のデータを収集します』


「では、一体目は私が行いましょう」


セバスチャンが一歩作業台へ近づくと、アリアは個体へ視線を向けたまま、わずかに後ずさった。


『一次研究の開始条件が整ったことを確認しました』


わずかな間を置いて、作業台の下部から使用する器具を収めた収納部と保存容器を収めた区画がそれぞれせり出し、作業の妨げにならない位置で停止した。


セバスチャンは作業台の上へ移された個体へ視線を落とし、脇の表示面に映る三次元モデルと見比べた。


『非侵襲検査の結果、類似する既知生物との比較では、基本構造上の差異は小さいと判断されています』


『表示された手順に従い、外部構造、各部の可動範囲および操作時の反応を確認してください』


セバスチャンは非侵襲検査で得られた情報と実際の個体を照合しながら、各部の構造や可動範囲、操作した際の反応を順に確認していく。


工程は順調に進み、一通りの確認が終わると、続いて表示された手順に従い、解剖の妨げとなる部位を順に分離して用意された保存容器へ移していき、最後の部位を収めた。


『解剖前の準備工程の完了を確認しました。解剖槽を展開します。作業面から手を離してください』


セバスチャンの手が作業台から離れると、作業面の内側から壁面がせり上がって固定された個体を囲むように浅い解剖槽を形成し、続いて槽内へ解剖溶液が流れ込み、固定された個体を浅く浸す程度まで液面が上がっていった。


『解剖槽の展開および解剖溶液の充填を完了しました。続いて、内部構造の直接確認を開始してください』


セバスチャンは表示された手順に従い、解剖溶液に満たされた槽内で解剖を進めていく。


表示された工程を順調にこなすうち、用意されていた未使用の保存容器も次第に数を減らし、やがてすべての工程を終えた。


『一体目の一次研究データの収集を完了しました。解剖溶液を回収し、解剖槽の収納および作業台の洗浄を開始します。お疲れさまでした』


セバスチャンが作業台から離れると、槽内の解剖溶液が回収され、続いて展開していた解剖槽が作業面へ収納され、作業台全体の洗浄が始まると、隣の作業台の表示面が切り替わった。


『続いて、雌雄の異なる個体による比較を行います。準備が整い次第、表示面から作業開始を確定してください』


三人は洗浄の続く作業台を離れ、表示面の切り替わった隣の作業台へ向かい、マスターが表示面に触れて作業開始を確定した。


「次は俺がやろう」


「じゃあ、今回は私は見ているだけで済みそうね」


アリアはマスターへ視線を向け、わずかに肩の力を抜いた。


室内の端では、待機していた個別標本ケースの一つが動き出し、隣の作業台へ到着すると次の個体が作業面へ移され、マスターがその前へ進んだ。


『二体目の対象個体および一次研究開始準備の完了を確認しました。一次研究を開始します』

次回は、第39.5話の枝番となります。

読み飛ばしていただいても、ストーリー上問題のない内容となっています。

詳しい内容は伏せさせていただきますが、第39話の濃厚版です。

ご興味のある方は、ぜひお読みください。

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