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第三十三話 深海生物

三機は崩落跡から続く斜面を追い、さらに深い海へ降りていった。


周囲の海底に大きな生命反応はなく、先ほど確認した木の葉を立てたような形のものがところどころに見られる。深度が増して自然光による観測が難しくなる中、得られる情報に応じて探索方法を切り替えながら進み、やがて斜面からやや離れたところを、複数の反応がまとまって移動しているのを捉えた。


三機は反応の進行方向へ入らないよう外側へ回り込み、一定の距離を保ちながら後方から動きを追っていくと、まとまりから外れた個体から微弱な電気反応が検出された。先頭のアルファ機は群れのほかの個体との距離を保つよう位置を調整しつつ、電気反応を示した個体へ近づき、一匹ずつ収容していった。


「簡易解析にかける」


収容された個体はいずれも全長五十センチを超える細長い体を持ち、青みを帯びた暗い灰色の体表にはエラの後方から尾へ斑点が列をなし、その一部からは群れを追っていた際に捉えたものと同じ微弱な電気反応が繰り返し検出され、その反応は頭部に近い側から尾へ流れるように移ることもあれば、複数の斑点からほぼ同時に生じることもあった。


共有された解析結果を順に確認していく中で、アリアが呟いた。


「……へえ、この電気信号、群れの動きに何か関係していそうね」


「CUTBEへ戻り、ラボで詳しく解析できれば、背にある模様の構造や、電気信号との関係も判明しそうですね」


簡易解析を終えたアルファ機が群れの観測へ戻ると、魚体の輪郭も暗闇に紛れてほとんど見えない海中で、背に並ぶ斑点だけが青みを帯びたごく淡い冷光を放ち始めた。その光は周囲を照らすほどのものではなく、頭部に近い側から尾へ流れるように移ることもあれば、ときおり複数の斑点が同時に浮かび上がることもあった。


やがて、背に並ぶ淡い光だけがゆっくりと遠ざかり、三機が一定の距離を保ったままその後方を追っていると、進行方向からやや外れた海中に、それまでとは大きさの異なる生命反応がいくつか捉えられた。細長い生物たちはなお進路を保っていたが、やがて群れ全体がわずかに上昇し、大きな弧を描きながら旋回へ移っていった。


三機は群れの後方で速度を落とし、一定の距離を保ったまま停止した。


群れは旋回を保ったまま、その一部が輪を次第に狭めながら深度を下げ、上方に広がりを残した縦長の形へと変わっていった。斜面の先には、崩落によって島側まで食い込んだ海底谷が続き、周囲の海水もそこへ向かって緩やかに流れ込んでいた。


上方の大きな輪を回る個体が減り始めた頃、群れの外側にあった大きな生命反応も、それぞれ深度を下げていった。それらは互いに距離を空けたまま大きな輪を描き、数匹が三機へ近づくにつれて、暗闇の中から輪郭が次第に浮かび上がっていった。


「……ずいぶん頭でっかちな魚ね」


頭部と口は全長の半分近くを占め、その後ろに続く胴体は急激に細まり、尾へ向かって頼りなく伸びていた。巨大な口の内側には多数のヒゲ状の構造が並び、個体たちは尾を大きく振ることなく、口を開いたまま海底谷へ向かう流れに乗るように緩やかに進んでいた。


浅海域では岩場や海底へ定着した生命が多く見られたが、この深度では、異なる形態と行動を持つ移動性の生物が複数成立していた。


「安定化は、機能していたようだな」


「あれも回収するのよね?」


「ああ。もう少し行動を確認してから回収する」


旋回する群れの密度が下方へ偏り始めると、上層に残っていた数匹も遅れて旋回をやめ、深度を下げ始めた。その外側では、大型生物も群れの後を追うように、海底谷へ降りていった。


「もともとここに集まっていて、用が済んだのかしら」


そのうちの一匹が、口を開いたまま三機のいる方向へ緩やかに近づき、その存在を気にすることもなくすぐそばを通り過ぎようとした時、アルファ機は周囲の海水ごとその個体を収容した。収容された個体は全長三メートルを超え、アルファ機は簡易解析を進めながら、群れと残る大型生物を追うように移動を再開し、さらに深度を下げていった。


「口内の器官は、海水中の微粒子を濾し取るためのものですね。消化器官からも、同種の有機物が確認されています」


海底谷へさらに深度を下げていく中、セバスチャンは共有された解析結果を確かめるように言った。


「濾過摂食なのは分かったけど……それにしたって、顔と口が大きすぎるでしょ」


魚というにはあまりにも不格好で、巨大な濾過器官に細い推進部が付いたような、著しく不均衡な体型だった。


その間にも、細長い生物の群れは旋回を保ったまま縦へ伸び、背に並ぶ淡い光が、さらに深い海へ続く道しるべのような列を形づくっていった。


三機が淡い光の列を追ってさらに深度を下げていくと、やがて斜面の先に、堆積物に覆われ、生命反応もほとんど感じ取れない海底が広がり、その一帯には岩が幾つか露出し、岩肌では扇形に広がるものが水流に揺られていた。


列をなしていた細長い生物の先頭が、海底の広がる深度へ達し始めると、大型生物も次々と海底近くまで降り、それぞれが異なる方向へ這うように進み始めた。細い胴体と尾が水を押すたびに、後方で堆積物が舞い上がった。個体たちは大きな弧を描くようにゆっくりと進路を変え、周囲へ漂い広がった粒子を海水ごと巨大な口へ取り込みながら、一帯を泳ぎ回っていった。


やがて、細長い生物の大半も同じ深度まで降りてくると、底へ近づくことなく、それまでのような群れの動きも見せず、周囲へ散らばって思い思いに泳ぎ始めた。


「どうやら、ここが目的地のようだな」


「そうみたいね。大きい方は堆積物を巻き上げて何かを取り込んでいるようだけど、長い方は何をしに来たのかしら?」


「巻き上がった粒子を摂取している可能性もありますが、明確に取り込む動きはほとんど見られません。産卵など、別の目的でこの場所まで移動してきた可能性もありますね」


三機はその場に留まり、周囲へ散らばった二種の動きをしばらく観測していると、これまで細長い生物から捉えていたものに近い特徴を持つ、微弱な電気信号が検出された。


「これまでとは異なるパターンです。ただ、発信源は散らばった群れではなく、海底付近にあるようです」


「あの大きい方が出している可能性は?」


「いいえ。周囲の大型生物から、同様の反応は検出されていません」


「ここから少し離れた場所のようだな。確認に向かう」


共有された情報を確認したマスターがそう言うと、三機は散らばった細長い生物の上方までいったん上昇し、発信源へ向けて進み始めた。

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