第三十二話 海底の痕跡
海へ向かった三機が海中へ入ると、島の周囲から続く岩棚が広がり、上方では海面が恒星の光を受けて揺らめき、その光は海底まで届いていた。
光の当たる岩棚には、その揺らぎに合わせて形を変える影が落ち、岩の表面に張り付いた白濁した層は明るく照らされ、その縁や重なった部分には薄い影が浮かんでいた。
岩棚に沿って進んだ先では、海水の動きに合わせて岩場の隙間から細かな粒子が漏れ出し、白く濁った筋となって岩肌の上を流れていた。
粒子が周囲の海水へ散っていく中、三機は速度を落としてその岩場へ近づいていった。
「陸から見えたものより、ずっと濃いわね」
「浮遊している粒子の一部からも、岩場のものと同じ生命反応が確認できます。いくつか回収しておきますか」
「任せる」
マスターが答えると、イプシロン機は岩場から周囲の海水ごといくつかのサンプルを回収して二機へ合流し、三機はそのまま岩棚に沿って浅海域の確認を再開した。
白濁した群体が場所によって濃淡を変えながら広がる岩棚を進んでいくと、やがて岩棚は途切れ、その先では海底が光の薄れる海中へ落ち込んでいた。
岩棚を離れた三機が深度を下げていくにつれ、白濁した群体は次第に見られなくなり、海底は露出した岩場から細かな堆積物に覆われた斜面へと変わっていき、周囲で確認できる生命反応も減り、海中に漂っていたもののほとんどは、単独では形を捉えられないほど小さなものだった。
「浅瀬にあれだけいたから、もう少し何かいると思ったんだけど……来る前に、もう少し何が起きたのかくらい確認しておいた方がよかったかしら」
「それでは、直接見に来る意味が薄れる」
「……それもそうね」
三機が斜面を進むにつれ、上方から届く光は次第に弱まり、海中を漂う微細な粒子も、残されたわずかな光をかすかに反射しながら、海水の流れに乗ってゆっくりと位置を変え、一つ、また一つと闇の中へ消えていった。
やがて、光がほとんど届かなくなった海底を進んだ先に、地形の崩れた一帯が見えてきた。かつて環境調整モノリスが設置されていたその場所には、現在、モノリスの姿はなく、岩や堆積物が斜面に沿って下方へ流れ落ちた痕跡が残されていた。
「元は、ここにあったはずよね」
「はい。記録上の設置位置も、この付近です」
崩落を免れた海底には、木の葉をそのまま立てたようなものがまばらに突き出していた。
その表面には葉脈を思わせる細かな網目構造が広がり、網目の間に張られた膜は周囲の海水が透けて見えるほど薄く、海水の流れを受けるたびに全体がわずかにたわみ、表面に付着した微細な粒子が網目に沿ってゆっくりと移動していく。その周囲には、中央部から伸びた帯状の構造が幾重にも重なったものも見られ、ほかにも形状の異なるものが数種、海底にまばらに点在していた。
「……でも、確実に進んでるわね」
アリアはベータ機を移動させて辺りを見て回り、形状の異なるものを数点、基部と周囲の堆積物ごと収容すると、崩落地点を確認していた二機に合流した。
「周りのものも、いくつか回収しておいたわよ……それにしても、盛大に崩れたわね」
「このまま下へ向かう」
アリアが回収を終えたのを確認したマスターは、アルファ機を先に崩落跡へ進めた。
崩落跡は斜面となってさらに下方へ続き、深さを増すにつれてその輪郭は闇の中へ薄れていった。
わずかに遅れて、ベータ機とイプシロン機もその後を追った。




