第三十一話 岩壁の島
淡水湖を離れた三機は、大陸の上空を抜け、海上へ出ていた。
高度を維持したまま進むその視界には、見渡す限りの海が広がり、大きな波はなく、細かな波だけが恒星の光を受けてきらめいている。
やがて水平線の先に小さな影が見え始め、近づくにつれてその周囲にもいくつかの島影が浮かび上がっていく。
小さな島々の連なりが次第にはっきりしていく中、その一つに、海から切り立つ黒灰色の岩壁が見えてきた。
「見えてきたわね」
「このまま進んで、まず岩壁を確認する」
マスターが短く答えると、三機は岩壁へ向けて進路を取った。
島に近づくにつれ、一枚の壁のように見えていた黒灰色の岩壁には縦に走る陰影が浮かび上がり、視界の大半を占める頃には、柱のように伸びた岩が互いに押し合うように並び、海面から島の上部へ向かって立ち上がっていた。
岩壁では、寄せ返す潮が黒灰色の柱を濡らして暗く光らせ、隙間へ押し込まれた海水が白い泡の柱となって壁面に沿って噴き上がっていた。
「離れたところから見ていた時とは、ずいぶん印象が違うわね」
アリアが、黒灰色の岩壁を前にして言った。
「火山活動によって形成された岩体と思われます。現象自体は既知ですが、なかなかのものです」
岩壁の下部には、柱状の岩が弧を描くように削られた部分があり、寄せた波が奥で押し戻されて白い泡を広げたあと、波が引いた一瞬だけ、その下から内部の見通せない暗い窪みが見えた。
「岩壁の下、洞窟になっていそうね」
「現在の水位では全体を確認できませんが、水位が下がれば目視できるはずです。ただし、このUAUでは進入は難しいでしょう」
岩壁の確認を続けている間にも、波は数度、窪みの奥へ入り込んでは引き、白い泡の下に暗い奥行きをのぞかせていた。
「確かに、この機体では厳しそうね」
「後で小型探査機を入れる。まずは島の確認に移る」
マスターの言葉を受け、三機が岩壁からわずかに距離を取ってその表面に沿って上昇すると、高さの揃わない黒灰色の柱は途中で途切れながら無数の段差を作り、岩壁の縁へ近づくにつれて、柱の断面が連なるような割れ目の多い岩盤へとつながっていった。
そのまま縁を越えると、その断面の連なりを残した岩の地面が、視界の下から奥へ広がり、緩やかに下っていた。
草木も土もないその表面では、風化して砕けた岩片が割れ目や浅い窪みに散り、起伏の先で広く平らになった岩盤の中央に、モノリスが立っているのが確認できた。
三機がその平らな面へ向けて進んでいくと、遠目に見えていた通り、近づいても岩盤の上に大きな変化は見られなかった。
「分かってはいたけど、本当に何もないわね」
アリアが周囲の岩盤を確認している間、セバスチャンは地表の反応を確かめていた。
「深海側のモノリスと連携する形であれば、地表にも変化が出ていたかもしれません」
「勿論そうだけど、加減が難しいのよね」
アリアがそう返す間に、三機はモノリスの立つ平らな面へ到達し、速度を落として少し距離を置いたところで停止した。
近くで確認しても、モノリスは砕けた岩片に覆われることも、傾くこともなく、設置時と大きく変わることもなく立っていた。
「地上側のモノリスにも、少し手を入れる?」
「いや。今は、このままでいい」
マスターが短く答えると、三機はモノリス周辺の確認を終え、岩盤の起伏に合わせて高度を下げながら、島の低い側へ向かった。
その場を離れると、柱の断面を残したような割れ目の多い岩盤は次第に途切れ、露出した岩肌へと変わりながら、海岸へ近づくにつれて波の届く低い岩棚へ続いていった。
水位がもう少し上がれば海面の下へ隠れてしまいそうなその岩棚には、白く濁った帯状のものが張り付いていた。
それは岩の上に薄い層を重ねるように広がり、縁の一部だけを黒ずませながら、寄せ返す波に浸るたび、表面の細い糸状のものを水中でわずかに揺らしていた。
「淡水湖の群体とは異なり、堆積物を取り込みながら層を作っているようです」
セバスチャンは、海岸線の反応を確認しながら続けた。
「広がっているのは、まだ波の届く範囲に限られています」
白く濁った帯は、岩棚の低い位置に沿って続き、波の届かない高さにはほとんど反応が見られなかった。
「ここまで来ているなら、海中には多少期待できるかもしれない」
マスターが短く言うと、三機は岩棚を離れ、海へ向けて進路を取った。




