第二十八話 UAU出動準備
CUTBEは速度を落としながら進路を調整し、惑星の自転に合わせて、巨大な大陸を正面に捉える観測位置へ入った。
全天球観測の中では、青い海に囲まれた大陸が、三人の足元から視線の高さにかけて大きく広がっている。
天候は安定しており、大陸上空を覆う雲もなく、海岸線から内陸部まで、その全体をはっきりと確認できた。
アリアは大陸の輪郭を追い、その一角で視線を止める。
「あんな形の入り江、あったかしら」
セバスチャンも、半円形に抉られ、入り口だけがいびつに狭まった入り江へ目を向けた。
「あのようなものは、なかったと思いますが……」
そう答えると、セバスチャンは手元に操作パネルを展開し、設置時の地形記録と現在の観測情報を呼び出した。
セバスチャンが照合を進める間、アリアとマスターは大陸の輪郭から内陸部へと目を移していく。
ほどなく照合を終えると、セバスチャンは入り江へ視線を戻した。
「どうやら、この沿岸部に隕石が衝突したようですね」
「それなりの大きさがあったようだな。惑星環境への影響は?」
「衝突地点周辺では、地形と海流に大きな変化が生じています。ただし、惑星全体の環境を損なうほどの影響は確認されておりません」
アリアはセバスチャンが提示した情報へ目を走らせ、入り江へ視線を戻す。
その輪郭を眺めながら、わずかに口元を緩めた。
「この入り江なら、かえって面白い変化が見られるかもしれないわね」
マスターは内陸部へ向けていた視線をセバスチャンへ移した。
「設置したモノリス周辺の環境は、どうなっている」
「少々お待ちください」
セバスチャンは手元の操作パネルへ視線を落とし、各地のモノリスから送られた情報を順に照合していく。
「各地で微細な影響は確認されていますが、いずれも周辺環境を大きく変えるほどではありません」
セバスチャンは操作パネルへ指を走らせ、各地の観測記録を中空へ順に展開していく。
「島嶼部には津波が到達していますが、環境に大きな変化は残されていないようです」
報告に合わせて表示が一つずつ増え、その隣に淡水湖の観測記録が映し出された。
「淡水湖にも、衝突によって飛散した破片の一部が入り込んでいますが、こちらも大きな影響は確認されておりません」
「高原と深淵に設置したモノリスについては、特に問題はないようです」
セバスチャンは並べた表示の一つへ視線を移し、深海の観測記録を拡大した。
「ただし、深海の環境調整モノリスだけは、設置時の位置から移動しています」
「衝突後に生じた海底地形の変化と、その後の地震で周囲の斜面が崩れ、より深い場所まで滑り落ちたようです」
アリアは腕を組み、並んだ表示を順に見比べていく。
「つまり、問題なしってことね」
セバスチャンは深海の表示から目を離し、一度アリアへ視線を向けた。
「……運用上は、その認識で問題ありません」
そう答えると、そのままマスターへ視線を移した。
「それでは、各地の確認は自律運用のUAUに任せますか」
マスターはセバスチャンから、中空に並んだ表示へ視線を戻した。
「いや、今回もUAUへ同期して、直接観測に向かう」
その言葉に、アリアは腕を解き、マスターへ顔を向ける。
「じゃあ、私も同行していいかしら」
「構わない」
マスターは短く答えると、表示から視線を外した。
二人の会話の間、セバスチャンは顎に手を添えたまま、わずかに顔を伏せていた。
マスターが操作パネルへ手を伸ばしたところで、セバスチャンは顎から手を下ろすと同時に、顔を上げた。
「今回、私も同行してよろしいでしょうか」
アリアはセバスチャンへ顔を向け、わずかに首を傾けた。
「やっぱり、上から見ているだけじゃ物足りなかった?」
セバスチャンは小さく首を横へ振った。
「いえ、そういうわけではありませんが……想定とは異なる影響を受けた惑星を、私自身でも直接確認してみたくなりました」
「分かった。俺はアルファ機、アリアはベータ機へ同期する。セバスチャンはイプシロン機だ」
マスターは操作パネルを呼び出し、一拍置いて続けた。
「それとは別に、観測用としてUAUを二機、自律運用で投入する。三人の同期後、CUTBEの運用は自動制御へ移行する。異常が発生した場合は、CUTBE側から同期を解除し、全機を強制帰還させる」
そう言い終えると、そのまま五機の運用設定を進めていく。
「「了解」」
アリアが操作パネルに指を走らせると、セバスチャンもそれに続き、操作を開始した。
マスターの座席の左右で床面が順に開き、UAU同期用の座席がせり上がる。
二人は、それぞれの座席へ身を沈めた。
アリアとセバスチャンが座席についたのを確認すると、マスターは操作パネルへ手を伸ばす。
「同期を開始する」
マスターは三人それぞれの同期先と状態を確認しながら、操作を進めていく。
やがて設定を終えると、一拍置いて座席がわずかに後傾した。
頭部を固定する支持部が立ち上がり、それぞれの位置を定めていく。
同期処理が完了した頃、UAU格納区画では、継ぎ目のない壁面から五機が滑るように動き出していた。
アルファ機、ベータ機、イプシロン機。
それに、自律運用で観測を行うUAUが二機。
五機は静かに格納区画を進み、外部ハッチの手前で待機位置についた。
機体の状態確認が終わると、二重構造の隔壁が作動し、内側が左右へ、続いて外側が上下へと開いていく。
広がっていく隙間の向こうに、青い海と巨大な大陸が次第に姿を現していく。
やがて外側の隔壁が開ききると、その景色は視界いっぱいに広がった。




