第二十六話 箱庭への再訪
町区画での気分転換を終え、三人はメインルームへ戻っていた。
その後もしばらく恒星系内のいくつかの観測点を巡ったのち、再び、かつて虫惑星と呼んでいた惑星の周辺宙域へ戻ってきていた。
メインルームの空間には、その周辺宙域の観測情報が展開されていた。
「まさか、観測中に惑星環境を変えるほどの衝突が起きるとは思わなかったわ」
アリアは、展開された観測情報を見上げたまま、誰に向けるでもなく言葉をこぼした。
衝突後に散った破片群は、今もなお惑星周辺を漂い続けている。
その一部は軌道を落とし、時間を置いて再び大気へ降り注いでいた。
「しばらくは、この惑星も騒がしくなりそうね」
「あの規模であれば、全滅もあり得ました」
セバスチャンは破片群の分布を確認しながら応じる。
「ですが、どの惑星であっても、生命というものはなかなか逞しいものです」
「ええ、そうね。全滅はしなかった」
アリアは別の観測情報へ視線を移す。
「少しずつだけれど、また増えてきているわ」
マスターは空間に展開された観測情報を、しばらく眺めていた。
「このまま時間を置けば、また面白いものが見られるかもしれないな」
その時、展開されていた観測情報の脇に、小さなキューブ状の表示が浮かび上がった。
表面には、箱庭に設置したモノリスを示す刻印が浮かんでいる。
アリアは、その表面に浮かぶ刻印を確認すると、ほんのわずかに口元を緩める。
「……思ったより早かったわね」
「モノリスの安定化があるので、予測の範囲内かと」
セバスチャンがいつもの調子で淡々と応じると、アリアはゆっくりとセバスチャンへ視線だけを移した。
「どちらにせよ、通知が来たということは、見に行く価値があるということだ」
それだけで、この宙域を離れる理由としては十分だった。
「目標座標を算出。箱庭恒星系へ設定」
マスターの言葉に合わせて、展開されていた観測情報とは別に、箱庭恒星系の情報が浮かび上がり、目標座標が設定された。
「時空圧縮移動、開始」
周辺宙域の観測情報が一瞬だけ暗転し、次の瞬間には、到着先の情報へと切り替わっていた。
アリアとセバスチャンはそれを確認し、それぞれ現在位置の参照へ移った。
やがて、到着位置が箱庭恒星系の外縁部であることが確定する。
その確認を終えたセバスチャンは、そこでようやくマスターへ視線を向けた。
マスターだけは、展開されていく情報を見たまま、動きを止めていた。
「……久しぶりに出たわね」
アリアは、現在位置の表示から視線を外さないまま言った。
「マスターに、何かありましたか」
「いいわよ、放っておいて。そのうち戻ってくるから」
「何か不備が?」
「逆よ。何もなさすぎるの」
「何も、ですか」
アリアは、動かないマスターを一度だけ見てから、セバスチャンへ視線を向けた。
「セバスチャンが来てからは初めてだったわね」
アリアはそこで一度、空間に展開された星図へ視線を戻した。
「星が流れていく、とか。到着まで間がある、とか。そういう、いかにもな航行してる感じが欲しいのよ」
「……演出、ということでしょうか」
「言い方はともかく、だいたいそれね」
アリアはわずかに肩をすくめた。
「ワームホールだとか亜空間だとか、そう呼ばれていた移動方法は出口側に基準点となる設備が必要。それなしでは行き先の保証ができない。航行中に破綻した場合のリスクも大きい。結局どれも廃案。結果、今の時空圧縮移動が一番安全で確実」
アリアが言い終えたところで、マスターの反応が戻った。
「理屈は分かる」
「戻ってきたわね」
「だが、味気ない」
「知ってるわよ」
「現在位置は、箱庭恒星系外縁部です」
セバスチャンは、星図からマスターへ視線を向けた。
「これより、直接箱庭惑星へ向かわれますか」
「いや、ここからは通常航行で向かう」
マスターは、空間に展開された星図を見たまま答えた。
「途中、他の惑星にも立ち寄る」
「そうね。せっかく外縁に出たのだし、他の惑星を見てからでもいいわね」
アリアも星図へ視線を向ける。
「その間に何か見えるかもしれないもの」
空間に展開された星図には、恒星を中心に巡る複数の惑星軌道が示されていた。
その軌道の一つでは、モノリスを設置した惑星が強調表示されていた。
だが、進路を取ったのは、その強調表示とは別の方角だった。
CUTBEは恒星系内部へ向けて、通常航行を開始した。




