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第十四話 歪な生命

アルファ機は火山帯を越え、その外縁へと抜けた。


黒く酸化した溶岩台地はやがて途切れ、風に伏す草原へと変わる。

ところどころに岩肌が露出し、浅い土壌の上で繊維質の葉が揺れていた。


機体は高度を維持したまま、海へ向かう。


やがて地平の色が変わり、草原の先に灰青色の水平線が広がった。


沿岸が近づくにつれ、砂浜のない岸壁と岬が断続的に続いているのが見えてくる。

その一角では、柱状節理が海に向かって垂直に落ち、波がその根元で砕けていた。


機体は一時的に速度を落とす。


柱の隙間、海面付近に微弱な熱反応が複数検出された。


外骨格を持つ小型個体。

不規則な殻は岩片を纏い、柱の影に溶け込んでいる。


危険性は低いと判断される。


確認を終えた機体は海上へ進み、そのまま水面を越えて海中へと進入した。


青はまだ深くはない。

降下は中層付近に留まっていた。


海中には浮遊微粒子が漂い、

岩礁の影に節足系と思しき個体が見える。


一体はヒトデに似た放射状だが、対称性は崩れている。

別の個体は甲殻を持ちながら脚は四本しかなく、

殻の形状も左右で異なっていた。


数秒の観察。


「回収」


その意思を反映するように、アルファ機が静かに動き出す。


目標へある程度近づいたところで、機体の一部がわずかに開口した。

物理的なアームなどが現れるわけではない。


開口部が目標へ向いた瞬間、

そこにいたはずの生命体は消えていた。


「ねぇ、ちょっといいかしら」


アリアの声だった。


マスターは同期していた視界を切り離し、

本来の視覚へと戻す。


そこはいつもと変わらないメインルームで、傍にはアリアが立っていた。


マスターは何も言わない。

ただ、続きを促すように彼女を見る。


「……あなたね、表情ってものが無いんだから、

何か言いなさいよ。

戻ったのか、気づけないじゃない」


「……まぁ、それはいいとして。


ベータ機の方で面白いもの見つけたの。

ちょっと見に来てほしいのよ。


あと、それを見てからでいいんだけど……」


アリアはわずかに口元を緩めた。


「少し遊んでもいいかしら?」


マスターは短く頷いた。


「分かった。

ベータ機の所まで行こう」


再び視界を同期する。


視覚はアルファ機へと切り替わった。


さほど時間も経たないうちに、二機は合流する。

ベータ機の前方、大きな岩塊の前でアルファ機も静止した。


「どう?」


アリアが短く問いかける。


UAU同士では表情は分からない。

だがその声色から、深い笑みを浮かべていることは容易に想像できた。


「……なるほど」


マスターは岩塊を見つめたまま言う。


「それで、これをどうしたいんだ?」


「もう少し、それっぽくしちゃおうかなって」


「環境にも生物にも影響はないわ。

どうせ時間が経てば崩れてなくなるものだし」


ほんの少し楽しそうに、アリアは付け加える。


「ちょっとした遊び心よ」


「……その程度なら問題ないだろう」


ベータ機は姿勢を微調整し、岩塊の正面で静止する。


機体前面の一部が開き、

そこから細い触腕が展開された。


触腕は岩塊の表面をなぞるように動く。


削るというほどではない。

ほんのわずかに、陰影を整える程度の加工だった。


やがて触腕は静かに収納され、

ベータ機がわずかに後退する。


「終わったか」


「ええ、こんなものね」


短い確認の後、マスターが告げる。


「この後、サンプルを回収する」


「好きに回収していいの?」


「生態系に影響の出ない範囲で、だ。

目標は定めない」


マスターは岩塊へ視線を向ける。


「……ちょうどいい目印だ。

稼働時間内で、この岩を基点に戻る」


「了解」


二機はゆっくりと高度を上げ、

そのままそれぞれ別の方角へと飛び去った。


各地で、生物、植物、鉱物を問わず、

必要な範囲のサンプルが回収されていく。


やがて、しばらくの時間が過ぎた。


先に戻っていたアルファ機の前へ、

ベータ機が減速しながら降りてくる。


「何か問題はあったか?」


「問題はないわ。

……むしろ、なかなか面白い惑星だったわ」


「戻るぞ」


二機が飛び去った後、

その場には、わずかに手を加えられた岩だけが残されていた。


それは、どこか既視感を覚える顔のような雰囲気を纏っていた。

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