5.
「ハーツ商会さん、負傷者は出てない?」
日暮れ少し前にドース騎士団が到着した。
ドース騎士団にも目立った負傷者はいないようで、戦力は温存できているようだ。
レオナルド騎士団長の配下の者たちが手際よく、野営の設置を開始した。
「ええ、かすり傷ひとつありませんよ。ご心配なく。」
「はは、噂通り、強いんだね。」
「今回は雑魚ばかりだったので、たまたまですよ。」
営業スマイルで謙遜しておく。
「時として、ティアラちゃんと、ラピスちゃんはいずこに?」
「ああ、物品販売の準備をしています。騎士向けに販売しても構わないでしょうか?」
「いいよ。ハーツ商会の回復薬は効きが良いしな。原料は何だ?」
「まー、起業秘密ってヤツなんです。教えられません。」
あの、琥珀色の少し甘みのある飲み物が、水と魔物の搾り粕から出来ているのは、言えないな。
この世界、食品安全法とか無くてよかったよ。
レオナルドと話ながら、露店の準備をしているテントに向かう。
「兄さま、こちらですわ~。」
ティアラがブンブンと手を振っている。
今日は快晴だ、雨も無さそうなので、露店はテント前にシートを広げて、その上に商品を並べただけの簡易的な設置だ。
主力商品のドリンクに、お守り、薬、小物の武器など見栄えよく陳列されている、準備は終わっているようだ。
商品は綺麗にパッケージし、すべてにハーツ商会のロゴをあしらっている。
ブランド力を高め付加価値を着けるマーケティング戦略のためだ。
転生前の鈴木幸一は大学では経済学部を先行だった。
卒業後に勤めた、産業機器メーカーでは営業部への配属ではあったが、そこそこ大きい企業あるあるで、入社5年目にもなると「リーダー研修」と言う名の人事研修を強制的に受けさせられていた。
商品企画部が開催するマーケティング講座もそのひとつ。
ハーツ商会のブランディング、マーケティングはその時の知識を応用している。
「「じゃあ、販売を開始しま~す!」」
ティアラとラピスの声がハモる。
「きゅきゅっきゅきゅー」
店のマスコットはふわふわもふもふの姿に戻った子竜のりゅうだ。
「ハーツ商会オススメ、ドリンク、目薬、お守りの三点セットをお買い上げの方には、なんと!絶滅危惧種子竜を「なでなでしてもいいよ特典」が付いちゃいます!」
「きゅっきゅきゅきゅー!」
販売が始まると騎士たちが、露店に殺到した。
「3点セット、ひとつくれ。」
りゅうを「なでなでしてもいいよ特典」は、騎士には大人気の特典だ。
殺伐とした戦場で一時の癒しを得たいそうだ。
むさ苦しい男性の比率が高い騎士団の面々は、ゴツイ見た目には似合わず、かわいい物好きが多い。
過去には、妹たちとの握手特典を着けた事があったが、離れない騎士の手をラピスが粉々に折ってしまったことがあり、その時は賠償やらなんやらで大変なことになった。
撫でられる事が好きなりゅうにとっては、ご褒美にしかならないので、りゅうもノリノリだ。
『当然だな。りゅうの可愛らしさは、神が与えた唯一無二の癒し!妹達にさることながら、可愛いのジャンルが違うんだよ。モフモフは最高だ。柴犬もどきのあの表情で、上目遣いされたら、こいつを庇護しない奴なんて、獣以下だ。はっ、りゅうも生物的には獣か、嫌、りゅうは竜だから、獣ではないな。あー、なでなでに喜んでるな。気持ちよさそうにしている。良かったなりゅう、あー、商品を売るためとはいえ、他の奴に撫でられて気持ちよさそうにしてるのは、少し妬けるな。それにしても、かわいい。。。。。。。。。。。。。。。。。』
「兄さま、今はお仕事中ですよ。深く考えこんでいらっしゃるお姿も素敵ですけど、お客様が少し引いてしまわれるのは困ります。トルネード!」
ティアラが放った渦上の風圧がリデルの腹にめり込む。
「うぐっっ。痛っ。」
リデルは正気を取り戻した。
「あー、悪い。じゃあ、後は頼んだよ。俺と親父は今夜は寝ずの番になるから、今のうちに仮眠を取るね。夕食が出来たら、起こしてくれる?」
「リア兄、わかったよ。こっちは任せて。ゆっくり休んでイイよ。」
順調に商品が売れてゆくのを確認したリデルは、妹たちに露店を任せると、テントに入った。
すでに父が母の膝枕で仮眠を取っている。
リデルは、少し離れた処に転がり、毛布をかぶって、睡眠に入った。




