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小隊の指揮を執る、リデル・ハーツは漆黒の目と髪を持つ、整った顔立ちの20歳の青年だ。
的確で分かりやすい指示が出せているのは、その知識の多さ、メンバーからの信頼、状況把握能力の高さを備えているからだ。
中肉中背、華奢で中性的でどこか冷たい印象に見える青年だが、実際は、体は鍛えていて筋肉質で性格は穏やかで柔らかい。
リデルは、物心ついた時には、両親と旅をしながら、魔物と戦う生活をしていた。
3歳のとき、一人森に迷い死にかけた。
数匹の魔物に襲われ、両親が助けに駆けつけた時には瀕死の状態だった。
治療を施され、ベットに寝て高熱にうなされる中、日本という異国で28歳まで暮らしていた記憶と28歳の感覚が 蘇った。
鈴木幸一、ごくありふれた名のごくありふれたサラリーマン。
同僚と酒を飲んだ帰り、交差点に突っ込んできたトラックにぶつかり、あっけなく生涯を閉じてしまったようだ。
ようだとしているのは、ぶつかる直前から記憶がなく、そうなんだろうなと思っているからだ。
幸一は、そこそこの大学をでて、そこそこの産業機器メーカーに勤めていた。営業を担当していた。
年に数回、大口の契約をとり、残りは根回しと小口の契約、アフターフォローをする。可もなく不可もない成績も中の上ぐらいをキープ。中の上ぐらいの成績の営業だ。
プライベートでも、そこそこ美人の彼女がいて、休日を上手く合わせたり、出張を上手く調整して、出かけるなど、それなりに上手くやっていた。
旅行先は、「国宝の城は制覇すべきよ!」的な彼女の城好きに合わせ、戦国ゆかりの地が多く、おかげでマニアとは行かないものの、多少の戦国時代や武将についても、旅行の下調べ程度には雑学を得た。
真面目過ぎる性格でもないけど、気になることは調べ尽くしたくなる性格で、勉強は好きではないが、学力もそれなりに高かった。
幸一には、3才年上の姉がいた。親のことも家の事も基本姉貴に頼りっぱなしだった。長男としては、親戚の集まりに時々呼ばれて、叔父達と酒を飲むぐらいの事しかしていなかった。
それなりにこなし、可もなく不可もなく過ごし、なんとなくこのまま何事もなく、ありきたりな一生を終えるだろうと漠然と幸一は思っていた。
リデルの置かれている状況では、そんなことも言ってられない。
油断したら、すぐ命を落としそうな環境で、力のない者は、すぐに干されてしまう、弱肉強食の世界だ。その割りに両親は「のほほん」だ。
リデルが今指揮している小隊は、実は騎士団や軍隊ではなく、「ハーツ商会」という家族経営の会社の社員、つまり、リデルの家族、双子のティアラとラピス。ペットの子竜のりゅう。母と父にリデル、5人と一匹だ。
ハーツ商会は、両親だけで起業したときは、ただの運送屋だった。
「荷物を運ぶだけなら誰でもできるわね。」と安直に始めた両親だが、
「まーこの仕事、報酬が高いわ。」と曰くつきの仕事を母が引き当てることが多くなり、リデル達は命の危機に見舞われる日々となった。
運ぶ途中襲われるのを退治したり、国を跨いで届けるのに法律知識が必要だったり、買ってきて運んで来てくれという依頼に取引の交渉など、運送屋としての仕事からの逸脱は激しかった。
リデルは可愛い妹達を守るため、日本での知識をベースに、戦いと交渉と商業の知識を持ち、片っ端から対処した。
そうして、戦いもできて、交渉もできて、商品の売買もできる、いわゆる、万事屋ハーツ商会ができた。
そんな感じで、会社の管理運営維持はもっぱらリデルの仕事、気まぐれな父が気が向くと営業をして仕事を持ってくる。
父経由の仕事は、どこにつながりがあるのか? 王族や騎士団など大口の仕事で断れないものも多い。
今回の仕事も父が持ってきた。
「地の国 ドース」の騎士団長 レオナルド・ザッハ殿からの警備の依頼だ。
「戦いに向かう騎士団の進む道の安全確保」
まー、運送からは遥か逸脱しさらには、警護の範囲を逸脱した、「先行部隊」の請け負いだ。
ハーツ商会の面々は強い。だけど、リデル以外考えることが苦手だ。
なのでリデルが統率した小隊としてパッケージで請け負いのほうが効果が高いですよ~。
とお勧めしている。
おそらく最強の妹達とりゅうは、ブレインの兄無しで貸し出せば、味方の損傷も激しいだろう。
母と父も戦闘系ではなく、癒しや交渉といった能力が高く、パワー系の戦いには向かない。
ハーツ商会は仕事が始まる2週間ほど前に、仕事を受けた騎士団の所属する「地の国 ドース」に現地入りした。
「国土の8割を森や林、川や湖でなす、自然が豊かな緑濃き国のはずなのに、、」
空から見る景色は木々が枯れ、土地がやせ、川が濁っている。明らかに、国力が落ちていた。
この世界は、各国で国を保つエネルギーが異なる。
ドースは自然に宿る力を主として国の力としていて、木草花土からそのエネルギーをわけてもらって、国を維持しているはずだ。
「何か、この国で起きてるよね?親父。」
「そうだろうね。目に見えるぐらいの弱り具合だからね。」
「今回の仕事は、その関係?」
「ふふっ。どうだろうね~。」
あー、濁してるってことは関係あるってことだな。まー、報酬も高いし、今更、止めれる仕事でもないけどね。
そんなことを考えながら、リデルはドース騎士団からの仕事を開始した。




