18.
シュディング公爵家に潜入して、1週間ほど経つ、使用人たちとも挨拶を交わす程度にはなっており、屋敷内もさほど目立たず歩き回れるようになった。
魔力を飛ばして、容易に探る事も出来るのだが、魔力を探知できる者がいるとリデルが探っている事をつき止められてしまう。
秘密事も多い貴族の屋敷には、大抵1人はその手の魔法使いがいる。
だから、探りの魔法は無暗には使えない。
リデルは、聞き耳をたてて、下働きの者たちの会話を探りながら移動する。
「、、親の気持ち子知らずね。」
あの陰に誰かいるな?
廊下の先から女性の話声が聞こえてくる。
「、、、カトリーヌ様って、シャルロット様が伴ってきた侍女でしょ。顔ぐらい見せてあげればいいのに、反抗期って年には見えないけど、親に心配をかけるなんて、ねぇー。」
洗濯女中だろうか、洗濯かごを抱えた女性がふたり、廊下の影で話している。
仕事をさぼって、雑談中なのだろう。
あっ、カトリーヌの話題だ!
えっ?
カトリーヌをシャルロットが連れてきた? カトリーヌは、ストーン伯爵が直接屋敷に入れたはずだけど。
「、、そうよね。 旦那様を怒らせてほしくないわ。 こっちまで、とばっちりで、怒られたらたまらないわよ。」
シュディング公爵は、人使いも荒そうだし、使用人も不満が溜まるのだろう。
女性の口に蓋はできない。よっぽど忠義を集められる主人の館でもない限り、一週も滞在できれば、屋敷の内状は聞き耳を立てるだけで集まって来る。
カトリーヌはシャルロットが連れてきた?
ストーン伯爵の説明と食い違う。
まずは、この屋敷で、カトリーヌと呼ばれている人物を特定した方が良さそうだな。
この屋敷は広い。
リデルが基本、自由に歩き回ることが許されているは、来客用のエリアで、応接室や、客室、ちょっとしたパーティーができるサロンルーム。
息抜きにと、庭へ出る事が許されている。
シュディング公爵には、毎日のように誰かしら訪ねてきている。
来客エリアはすぐに使えるように、常に整えられており、下働きの者たちも往来が多い。
俺は、もう少し屋敷を歩き回り情報を集めることにする。
「やあ! 今日も忙しそうだね。」
すれ違う男性の使用人に、軽く挨拶をしてみる。
「リデルさま、ご用ですか?」
話しかけられた男性は、立ち止まて会釈をしてきた。
少し、話してみるか。
「いやっ。 今日は1段と忙しそうだなぁと思って。 来客が多いの?」
「そうですね。いつもより少し多いですかね。」
「ところでさ、少し気になっている事があるんだけど、聞いてもいい?」
「そうですね。答えられることであれば。。」
ここは、ダイレクトに聞いてみるか。
「今朝、シュディング公爵がカトリーヌとかいう侍女について、すごい研磨だったんだけど、何があったの? 僕も商売人なので、旦那様の機嫌を損ないたくないから、知っておきたいんだ。」
「ああ、その事ですか。カトリーヌ様は伯爵家のお嬢様で、花嫁修業のために侍女として、来ていらっしゃるのですがね、なぜか、ご実家にお帰りにならないのですよ。」
よし、このまま聞けそうだ。
「でも、それは、シュディング公爵を怒らせる程の事でもないと思うが。」
「ええ、でも、その伯爵が、カトリーヌ様を心配して、お会いしたい旨を旦那様に何度も懇願されているのですよ。旦那様にもお嬢様がいらっしゃいますから、父親に会いたがらない娘というのが気に入らないのでしょう。」
「そういうことでしたか。 ちなみに、カトリーヌ様はどのような方で?」
「シャルロット様とよく一緒にいる方ですよ。背が165cmほどで、女性にしては少しお高いでしょうか。少しがっちりで、どっしりした感じの方ですよ。」
あっ!!! あの、ムキムキの侍女か!
「あー、その方なら、見かけたことがあるな。」
「まー、リデルさまがさほど気にするほどの事情でもございませんよ。旦那様の前でカトリーヌ様の話題は出さない方が良いとは思われますがね。」
「そうだね。 ありがとう。 助かるよ。」
この話題は、さほど屋敷では秘密事項でもないのだろう。
伯爵の娘のちょっとしたわがままという程度の使用人たちのお茶請けの話題程度なのだろう。
「忙しいところ、呼び止めて悪かったね。 今日も頑張ってね!」
リデルは気さくな感じで、男性にお礼を述べると、その場を後にした。
『 あの、ムキムキがこの屋敷ではカトリーヌなのか。カトリーヌの姿絵とはまったくの別人だな。入れ替わっていると考えるのが妥当だろうな。』
少し部屋に戻って状況を整理するか。
情報収集を1通り終えたので、部屋に戻ることにした。
おやっ?
部屋のドアが空いている。
「ティアラ?」
執務室にティアラが見当たらない!!
「ティアラ!」
寝室のドアをバンッと乱暴にあける。
「ティアラ! ティアラ、何処にいる!!」
ティアラがいない!!
えっ?
何があった!! どこにいるんだ、ティアラ!!
-- 少し時間はさかのぼる --
「兄さま、急いで仕上げてって、言ってらしたわ! 頑張らなければ!」
ティアラは、机にお絵かき道具を並べながら気合いをいれている。
黄色がかった白い紙に下書きをはじめる。
「版画にする絵なので、インクがのりやすいことが大事ね! 線があまり細くならないように気を付けなくっちゃ。」
「ふふっ、かわいいわね。」
B案は、ティアラにとっても好みのテイストなので一段と気合が入る。
「ドースは、お花の国ですものね。お花は強調してしまいましょう!」
ふふん、ふふん、ふふん
ふふん、ふふん、ふふん
ふふん、ふふん、、、、
乗ってきたティアラは、鼻歌混じりで、軽快に仕上げていく。
バンッ!
「何かしら?」
ドアが突然開いた。
「あれ? 私にご用かしら?」
ティアラはペンを机に置き、ドアに顔を向けた。
「ティアラさん、お一人ですか? 」
「はい。今は、一人ですよ。」
「丁度いいわ。花でも見ながら一緒にお茶でもしませんか?」
「まーっ! うれしいですわ。」
ティアラは、つい即答したあと、はっとする。
「、、でも、兄さまに1人でこの部屋から外に出てはいけないと言われていますの。」
ティアラは、ダメダメという表情で答える。
「大丈夫ですよ。問題ないでしょう。私もご一緒するのですから、1人ではないですよ。」
「まぁ! そうね! 行きましょう。お花を見ながらお茶なんて素敵! 」
ティアラは、うきうきした表情で、手を引かれるままに、部屋を出た。




