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借金の保証人になった優しい田舎のおじさんのダンジョン配信  作者: 月瀬 リュカ


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6/20

第6話 最近、身体の調子がいい

肥料袋を持ち上げた瞬間、森健司は少しだけ首を傾げた。

「……軽くなったか?」

袋の横には、いつも見慣れている数字が印刷されている。二十キロ。中身が減っているわけではない。新品の袋だ。健司は右手に一袋、左手にも一袋持った。合計四十キロ。いつもなら当然重い。運べない重量ではないが、畑の端から端まで持っていけば腕も肩も疲れる。ところが今日は妙に楽だった。

「肥料変わった?」

袋を地面へ置いて確認する。いつもと同じ。メーカーも同じ。中身も同じ。

「まあいいか」

深く考えず、もう一度二袋を持つ。そのまま畑を歩いた。昨日、二度目の十万円を返済した。残る借金は二百八十万円。その直後、一瞬だけ身体が温かくなったような気がしたが、風呂に入ったあとだったし、疲れのせいだと思っていた。実際、朝起きたときには何ともなかった。腰も痛くない。腕も軽い。むしろ普段より調子がいいくらいだった。

「昨日早く寝たからかな」

畑の端へ肥料袋を置く。少し離れたところで母が草を抜いていた。

「健司」

「ん?」

「それ二つ持ってきたのかい?」

「うん」

「腰やるよ」

「大丈夫だよ」

「若くないんだから」

「母さんに言われたくないな」

四十六歳。世間的にはもう立派なおじさんだ。自分でも若いつもりはない。ただ、身体を使う仕事を毎日しているぶん、同年代より多少丈夫なのは昔からだった。ゴンは縁側の日陰で寝ている。その背中の近くに白い毛玉。モチだ。翼の怪我はだいぶ良くなった。今朝も庭を一メートルほど飛んでいた。昨日より明らかに羽ばたきが安定している。

「そろそろ一回ちゃんと診てもらった方がいいな」

健司が呟く。拾った日にギルドで簡単には見てもらったが、専門家ではない。テイム魔物も診られる診療所が町に一つある。昔から人間の怪我も診ている、小さな地域診療所だ。ダンジョンができてからは魔物を連れてくる探索者も増えたため、魔獣診療の資格を持つ医師が常駐するようになった。田舎なので、何かあれば大抵そこへ行く。人間も。犬も。テイム魔物も。細かいことを言えば診察の窓口は分かれているらしいが、地元の人間からすれば「朝比奈先生のところ」で全部通じる。

「モチ、あとで病院行くぞ」

白い毛玉が顔を上げる。ピィ。

「病院分かる?」

ピィ。

「分かってないな」

ゴンも顔を上げた。

「お前じゃないぞ」

ゴンはまた寝た。農作業を続ける。鍬を振る。土を起こす。いつもと同じ作業。なのに、やはり身体が軽い。一時間。二時間。普段なら一度麦茶を飲みに戻る頃になっても、まだ余裕がある。

「今日は涼しいからか?」

空を見る。晴れている。むしろ暑い。

「おかしいな」

そうは思う。ただ、体調が悪いわけではない。調子がいいことをわざわざ心配する必要もないだろう。健司はそのまま作業を続けた。少しすると母が畑から上がってきた。

「健司、休まないのかい?」

「もうそんな時間?」

「昼になるよ」

時計を見る。思ったより時間が経っていた。

「本当だ」

「ずっと鍬振ってたじゃない」

「今日は身体が楽なんだよ」

「そういう日に無理するんだよ」

「はいはい」

母に言われて家へ戻る。縁側へ座ると、ゴンが少しだけ身体を寄せてきた。モチはその横。健司が麦茶を飲んでいると、モチが膝へ飛び乗ろうとした。羽ばたく。ふわり。一瞬だけ浮く。そして――。健司の膝を通り越した。

「お」

モチ自身も驚いたようだった。そのまま縁側の柱へぶつかりそうになり、

「危ない」

健司が手を伸ばす。白い身体を空中で受け止めた。

「まだ下手だな」

ピィッ。少し抗議するような鳴き声。

「でも結構飛べたぞ」

母が台所から顔を出した。

「治ってきたんじゃないかい?」

「そうみたいだな」

モチを手のひらへ乗せる。怪我をしていた翼を広げる。傷はほとんど塞がっている。

「昼食ったら診てもらいに行くか」

母がそうめんを茹でていた。昼飯はそうめん。朝採ったキュウリとトマト。薬味にネギ。健司は二束分を食べた。

「今日よく食べるねえ」

「そう?」

「いつもより」

「腹減ってたみたい」

身体を動かしたからだろう。それくらいにしか思わなかった。食後。モチを小さな籠へ入れようとする。入らない。

「ほら」

ピィ。

「病院行くだけだから」

ピィッ。

「嫌なの?」

逃げる。飛べる距離が伸びている。縁側から居間。居間から廊下。まだ高さは出ないが、小さな鳥としては十分な速度だった。

「待てって」

健司が追う。モチが曲がる。健司も曲がる。今度は台所へ。

「こら。母さんのところ行くな」

母の肩へ着地した。

「あら」

母は全く驚かない。

「モチ、病院嫌なんだって」

「そうなのかい?」

「多分」

母がモチを見る。

「診てもらった方がいいよ」

ピィ。

「母さんが言うと大人しいな」

結局、籠には入らなかった。健司の肩へ乗せたまま軽トラックへ向かう。

「運転中は籠な」

ピィ。

「駄目」

助手席の籠へ入れる。今度は渋々収まった。町の診療所までは車で十五分ほど。二階建ての建物だった。入口は人間用と動物・テイム魔物用で分かれている。健司は右側へ。中へ入ると、小さな待合室に先客が一人いた。膝の上に猫型の魔物を乗せた老人。

「おう、健司」

「おう」

それだけ。誰なのか説明する必要もない。顔見知りだ。

「それ何だ」

「スノーエナガ」

「へえ」

老人がモチを見る。

「丸いな」

「丸い」

会話は終わった。しばらくすると診察室から女性が出てきた。白衣。髪は肩にかからない程度にまとめられている。三十代前半。朝比奈澪。この地域の診療所で働く医師で、ダンジョン発生後に設けられた魔獣診療資格も持っている。健司も何度か診てもらったことがある。畑で指を切ったとき。腰を痛めたとき。ゴンが若い頃に怪我をしたとき。大体ここだった。

「森さん」

「おう」

「久しぶりですね」

「俺、そんな病院来ないからな」

「来ない方がいいです」

澪の視線が健司の肩へ移る。

「それですね」

「拾った」

「もう聞いてます」

「誰から?」

「白花さん」

「また広がってる」

「配信も見ました」

「先生まで見てるの?」

「スノーエナガを素手で拾う人がいるって聞いたので」

「大人しかったぞ」

「結果論です」

「しずくにも似たようなこと言われた」

「みんな同じことを思ってるんです」

診察室へ入る。モチを台へ乗せる。

「じゃあ翼見ますね」

澪が手を伸ばす。モチが少し後ずさった。

「大丈夫」

優しい声。それでもモチは健司の方を見る。

「俺に聞かれても」

ピィ。

「診てもらえ」

健司が指を近づけると、その上へ乗った。澪が苦笑する。

「完全に森さんを安全地帯だと思ってますね」

「拾っただけなんだけどな」

「昨日今日でそこまで懐く個体は珍しいです」

「そうなの?」

「スノーエナガ自体は温厚ですけど、野生魔物ですから」

澪が少しずつ距離を詰める。健司の手に乗せたまま診察することになった。翼。傷。骨。魔力反応。簡単な検査。

「骨折はないです」

「よかった」

「傷もほぼ塞がっています。今日一日あまり無理に飛ばさず、明日も普通に飛べるようなら大丈夫でしょう」

「もう結構飛んでるぞ」

「止めてください」

「止まらないんだよ」

澪がモチを見る。

「元気になった証拠ではありますけどね」

モチは健司の手のひらで丸くなっている。

「あと餌」

「ブルーベリー」

「問題ないです。果物なら糖分が多すぎない程度に。小型の虫や種子も食べます」

「畑に虫いっぱいいるぞ」

「農薬使ってない場所ならいいですけど、勝手に食べさせないでください」

「はい」

「それと――」

澪がカルテを見る。

「今後どうします?」

「今後?」

「野生へ戻すのか、テイム個体として登録するのか」

健司はモチを見る。

「治ったら帰るだろ?」

ピィ。

「本人は?」

「分からん」

澪が少し笑った。

「スノーエナガは群れを作る魔物です。一度仲間とはぐれて、人間や他の動物と生活圏を作ると、そのまま定着する個体もいます」

「うちに?」

「可能性はあります」

「ゴンの背中気に入ってるみたいだしな」

「配信で見ました」

「先生も見てたの?」

「はい」

「みんな暇だな」

「患者さんに言われたくないです」

健司は笑った。

「まあ、本人が帰らないならいてもいいよ」

「じゃあ正式なテイム登録は、もう少し様子を見てからですね」

「それで」

診察が終わる。会計。健司が財布を出す。金額を見る。

「思ったより安いな」

「軽傷ですから」

「借金あるから助かる」

澪の手が止まった。

「借金?」

「三百万」

「……何したんですか」

「保証人」

澪はしばらく健司を見た。

「森さん」

「なに?」

「昔からそういうところありますよね」

「何が」

「頼まれると断れないところ」

「そんなことないぞ」

「ゴンのときもそうでした」

「ゴン?」

「元々、知り合いが飼えなくなったから引き取ったんでしょう?」

「そうだっけ」

「そうです」

「まあ、今いるからいいだろ」

澪がため息をつく。

「今度は魔物まで拾ってるし」

「怪我してたからな」

「そのうち家が動物だらけになりますよ」

「土地はある」

「そういう問題じゃありません」

どこかで聞いた言葉だった。郷田にも似たことを言われた気がする。診療所を出る。モチを助手席の籠へ入れる。

「先生に怒られたな」

ピィ。

「お前のせいじゃないか」

ピィ。

「まあいいか」

その足でギルドへ向かった。今日は最初からダンジョンへ行くつもりだった。診察が長引けばやめるつもりだったが、まだ昼を少し過ぎたところ。モチはギルドへ連れていく。受付でしずくに預かってもらえばいい。建物へ入る。

「森おじさん!」

しずくがすぐにモチを見る。

「モチ!」

「俺より先にそっちか」

「診察どうでした?」

「もうほとんど治ってるって」

「よかった」

モチを受付台の上へ置く。しずくがそっと指を伸ばす。モチは少し警戒した。だが昨日ほどではない。指先を軽くつつく。

「触れた!」

「よかったな」

「森おじさん、今日潜るんですよね?」

「うん」

「モチどうします?」

「ここで預かってもらえる?」

「もちろん」

しずくが嬉しそうすぎる。

「仕事しろよ」

「します!」

ドローンも借りる。タイトル。今日はしずくが入力した。

【借金残り280万円】森おじさん、第二階層を覗きに行く

「残高書くの?」

「分かりやすいじゃないですか」

「まあいいけど」

配信開始。すぐに人が入ってくる。百。二百。

《森おじさんきた》

《今日はモチは?》

《病院どうだった》

「治ってきてるよ。今しずくに預けてる」

《しずくちゃん有能》

《モチ映して》

「俺これからダンジョンなんだけど」

《分かってる》

「本当に?」

コメントを見ながら第一階層へ入る。昨日までと違い、今日は第二階層の入口まで行く予定だ。剣を抜く。最初のゴブリン。一撃。次。一撃。三体。ほとんど止まらない。

「……なんか今日、さらに楽だな」

《また強くなってない?》

《身体の動き軽すぎ》

《昨日牙犬で少し息上がってたよね》

「今日は朝から身体の調子いいんだよ」

《なんで》

「よく寝た」

《睡眠最強》

《農業じゃないの?》

「それもあるかもな」

健司本人は冗談半分だった。だが実際、身体は軽かった。剣を振る。踏み込む。走る。どの動作にも余裕がある。第一階層奥。昨日牙犬と戦った場所。一体。今日は先に気づいた。牙犬もこちらを見る。低く唸る。

《昨日のやつ》

《森おじさん慎重に》

健司は剣を構える。牙犬が走る。速い。昨日もそう思った。今日は違った。

「……遅くなった?」

もちろん牙犬の速度は変わっていない。健司の身体が変わった。だが本人には分からない。飛び込んでくる。半歩ずれる。昨日より余裕がある。剣を一閃。牙犬の肩へ深く入る。着地。振り向こうとする前に、二撃目。倒れた。

「昨日より簡単だったな」

《いや森おじさんが速い》

《明らかに動き違う》

《元Dとかいうレベル?》

「体調だろ」

《全部体調で片付けるな》

魔石と牙を回収。さらに先へ。第二階層へ続く階段。昔とほとんど変わっていない。

「懐かしいな」

《来たことある?》

「昔はDだったからな」

《どこまで行ってたの?》

「もっと下」

《じゃあ経験あるじゃん》

「十年以上前だけど」

階段を下りる。空気が変わった。第一階層より湿気が多い。壁には薄い苔。照明も少ない。健司はそこで一度止まった。

《行かない?》

「少し見る」

第二階層。入口から五十メートル。百メートル。昔の記憶を頼りに進む。道そのものは似ている。だがダンジョンは少しずつ地形が変わることもある。油断はしない。音。左。健司が止まる。岩陰から二体の牙犬。

「二体か」

昨日なら引き返していた。自分でもそう思う。今日は――。

「いけるかな」

《無理しないで》

《逃げてもいいぞ》

「駄目なら逃げる」

二体が左右へ分かれる。一体だけ見てはいけない。健司は後ろへ下がる。壁を背負う。昔からの動き。一体目が来る。避ける。斬る。浅い。二体目。横から飛び込む。健司は剣を戻す。間に合う。刃で牙を逸らす。身体ごと押し返す。

「おお」

自分でも驚いた。牙犬の身体は軽くない。それを片腕で押し返した。

《パワーおかしくない?》

《今押し返した?》

「農業」

《出た》

一体目がもう一度来る。健司は踏み込む。首元。一撃。倒す。二体目が跳ぶ。今度は正面。避けずに横へずらす。剣。二撃。終了。静かになった。健司は少し息を吐く。だが、苦しくない。

「二体でもいけたな」

《余裕あるじゃん》

《Fランクとは》

《第二階層来たばっかりですよね?》

「昔知ってるところだから」

《そういう問題かな》

健司も少しだけ不思議だった。昨日までと違う。明らかに身体が軽い。だが悪いことではない。

「まあ、調子いい日はあるだろ」

それで終わった。無理はしない。二体倒せたからといって、さらに奥へは行かない。第二階層の入口付近だけ探索。素材を回収。そして戻る。途中で昼食。塩むすび。

《今日も安定》

「母さん、これしか作らないからな」

《具入れてもらわないの?》

「塩だけでうまいぞ」

《羊羹も持ってこよう》

「溶けるだろ」

《羊羹は簡単には溶けない》

「そうなの?」

《森おじさん羊羹好きなのに知らないのw》

「食べる専門だから」

配信を見ている人数は千人を超えていた。健司は数字を見るたびに不思議になる。

「千人って、うちの地区より多くない?」

《比較対象w》

《田舎すぎる》

「この辺、本当に人少ないからな」

ダンジョンを出る。査定。今日は第二階層の牙犬が複数。素材も昨日より状態がいい。78,200円配信応援。18,640円合計。九万円を超えた。

「もう十万円じゃん」

健司が呟く。しずくが受付から言う。

「今日だけでほぼですね」

「農業入れたら超えてるな」

「また返すんですか?」

「いや」

しずくが少し意外そうにする。

「返さないんです?」

「毎回十万できたらすぐ返してたら、生活費なくなるだろ」

「ちゃんと考えてた」

「どういう意味だよ」

「森おじさん、勢いで全部返しそうだから」

「そこまで馬鹿じゃない」

「保証人」

「それ言われると弱いな」

今日は返済しない。今月の農業経費もある。燃料代。肥料。飼料。機械の整備。金は残しておく必要がある。借金は返せるときに返す。焦らない。

「二百八十万は逃げないからな」

「逃げてほしいですけどね」

「本当だな」

モチを迎えに行く。受付の奥。小さな箱の上に座っていた。しずくが横で仕事をしている。

「大人しくしてた?」

「すごく」

モチが健司を見る。ピィ。そのまま飛んだ。短い距離。健司の肩。着地。

「お」

しずくが拍手する。

「飛べた!」

「結構良くなってるな」

「森おじさん見た瞬間飛びましたよ」

「帰りたかったのかな」

「たぶん森おじさんのところに行きたかったんです」

「同じじゃない?」

「微妙に違います」

よく分からない。ギルドを出る。軽トラックへ乗る。今日はモチが籠から出たがったので、信号で止まるたび戻すことになった。

「運転中は駄目だって」

ピィ。

「事故ったら先生に怒られるぞ」

ピィ。

「俺も困る」

家に着く。ゴンが来る。モチが肩から飛んだ。今度は三メートルほど。ゴンの背中へ着地。

「上手くなったな」

ピィ。ゴンは何も気にしていない。母が家から出てくる。

「あら、帰ったのかい」

「ただいま」

「白いのも帰ってきたねえ」

「モチな」

「そうだったね」

畑を見る。鶏へ餌。水を替える。今日も家に戻ればいつもと同じ。だが一つだけ、健司自身が気づいていないことが違っていた。重い餌袋を持つ。軽い。昨日までより。確実に。それでも健司は、

「最近調子いいな」

それだけだった。遠く離れた都市では、A級パーティーの盾役が自分の身体を何度も確認していた。腕力。踏ん張り。持久力。どれも以前よりわずかに落ちている。病院へ行っても異常はない。怪我もない。上原も同じだった。剣の技術が落ちた。理由は不明。

「おかしいだろ」

盾役が言う。

「俺もそう思ってる」

「二人同時だぞ?」

「分かってる」

「何かされたんじゃないのか?」

上原は黙った。その可能性は考えている。呪い。特殊な魔物。ギフト。ダンジョン内部の罠。どれもあり得る。だが原因が分からない。まさか。田舎でトマトを採り、秋田犬を散歩させ、塩むすびを食べている幼馴染が原因だとは――。考えるはずもなかった。その頃、健司は縁側で羊羹を切っていた。今日は少し厚め。母が茶を淹れる。ゴンが寝ている。その背中にはモチ。庭の端では亀がゆっくり歩いていた。

「今日、二体いっぺんに牙犬倒したよ」

健司が母へ言う。

「そうかい」

「昔より身体動くかもしれん」

「畑仕事してるからじゃないかい?」

健司は少し笑った。

「やっぱりそうだよな」

母の一言で納得した。羊羹を一口。茶を飲む。借金残高、二百八十万円。急がない。農業をやる。ダンジョンへ行く。配信する。稼いだら、また返す。それでいい。自分が返済するたび、遠くの誰かから何かが失われていることなど。森健司は、まだ何も知らなかった。


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