第6話 最近、身体の調子がいい
肥料袋を持ち上げた瞬間、森健司は少しだけ首を傾げた。
「……軽くなったか?」
袋の横には、いつも見慣れている数字が印刷されている。二十キロ。中身が減っているわけではない。新品の袋だ。健司は右手に一袋、左手にも一袋持った。合計四十キロ。いつもなら当然重い。運べない重量ではないが、畑の端から端まで持っていけば腕も肩も疲れる。ところが今日は妙に楽だった。
「肥料変わった?」
袋を地面へ置いて確認する。いつもと同じ。メーカーも同じ。中身も同じ。
「まあいいか」
深く考えず、もう一度二袋を持つ。そのまま畑を歩いた。昨日、二度目の十万円を返済した。残る借金は二百八十万円。その直後、一瞬だけ身体が温かくなったような気がしたが、風呂に入ったあとだったし、疲れのせいだと思っていた。実際、朝起きたときには何ともなかった。腰も痛くない。腕も軽い。むしろ普段より調子がいいくらいだった。
「昨日早く寝たからかな」
畑の端へ肥料袋を置く。少し離れたところで母が草を抜いていた。
「健司」
「ん?」
「それ二つ持ってきたのかい?」
「うん」
「腰やるよ」
「大丈夫だよ」
「若くないんだから」
「母さんに言われたくないな」
四十六歳。世間的にはもう立派なおじさんだ。自分でも若いつもりはない。ただ、身体を使う仕事を毎日しているぶん、同年代より多少丈夫なのは昔からだった。ゴンは縁側の日陰で寝ている。その背中の近くに白い毛玉。モチだ。翼の怪我はだいぶ良くなった。今朝も庭を一メートルほど飛んでいた。昨日より明らかに羽ばたきが安定している。
「そろそろ一回ちゃんと診てもらった方がいいな」
健司が呟く。拾った日にギルドで簡単には見てもらったが、専門家ではない。テイム魔物も診られる診療所が町に一つある。昔から人間の怪我も診ている、小さな地域診療所だ。ダンジョンができてからは魔物を連れてくる探索者も増えたため、魔獣診療の資格を持つ医師が常駐するようになった。田舎なので、何かあれば大抵そこへ行く。人間も。犬も。テイム魔物も。細かいことを言えば診察の窓口は分かれているらしいが、地元の人間からすれば「朝比奈先生のところ」で全部通じる。
「モチ、あとで病院行くぞ」
白い毛玉が顔を上げる。ピィ。
「病院分かる?」
ピィ。
「分かってないな」
ゴンも顔を上げた。
「お前じゃないぞ」
ゴンはまた寝た。農作業を続ける。鍬を振る。土を起こす。いつもと同じ作業。なのに、やはり身体が軽い。一時間。二時間。普段なら一度麦茶を飲みに戻る頃になっても、まだ余裕がある。
「今日は涼しいからか?」
空を見る。晴れている。むしろ暑い。
「おかしいな」
そうは思う。ただ、体調が悪いわけではない。調子がいいことをわざわざ心配する必要もないだろう。健司はそのまま作業を続けた。少しすると母が畑から上がってきた。
「健司、休まないのかい?」
「もうそんな時間?」
「昼になるよ」
時計を見る。思ったより時間が経っていた。
「本当だ」
「ずっと鍬振ってたじゃない」
「今日は身体が楽なんだよ」
「そういう日に無理するんだよ」
「はいはい」
母に言われて家へ戻る。縁側へ座ると、ゴンが少しだけ身体を寄せてきた。モチはその横。健司が麦茶を飲んでいると、モチが膝へ飛び乗ろうとした。羽ばたく。ふわり。一瞬だけ浮く。そして――。健司の膝を通り越した。
「お」
モチ自身も驚いたようだった。そのまま縁側の柱へぶつかりそうになり、
「危ない」
健司が手を伸ばす。白い身体を空中で受け止めた。
「まだ下手だな」
ピィッ。少し抗議するような鳴き声。
「でも結構飛べたぞ」
母が台所から顔を出した。
「治ってきたんじゃないかい?」
「そうみたいだな」
モチを手のひらへ乗せる。怪我をしていた翼を広げる。傷はほとんど塞がっている。
「昼食ったら診てもらいに行くか」
母がそうめんを茹でていた。昼飯はそうめん。朝採ったキュウリとトマト。薬味にネギ。健司は二束分を食べた。
「今日よく食べるねえ」
「そう?」
「いつもより」
「腹減ってたみたい」
身体を動かしたからだろう。それくらいにしか思わなかった。食後。モチを小さな籠へ入れようとする。入らない。
「ほら」
ピィ。
「病院行くだけだから」
ピィッ。
「嫌なの?」
逃げる。飛べる距離が伸びている。縁側から居間。居間から廊下。まだ高さは出ないが、小さな鳥としては十分な速度だった。
「待てって」
健司が追う。モチが曲がる。健司も曲がる。今度は台所へ。
「こら。母さんのところ行くな」
母の肩へ着地した。
「あら」
母は全く驚かない。
「モチ、病院嫌なんだって」
「そうなのかい?」
「多分」
母がモチを見る。
「診てもらった方がいいよ」
ピィ。
「母さんが言うと大人しいな」
結局、籠には入らなかった。健司の肩へ乗せたまま軽トラックへ向かう。
「運転中は籠な」
ピィ。
「駄目」
助手席の籠へ入れる。今度は渋々収まった。町の診療所までは車で十五分ほど。二階建ての建物だった。入口は人間用と動物・テイム魔物用で分かれている。健司は右側へ。中へ入ると、小さな待合室に先客が一人いた。膝の上に猫型の魔物を乗せた老人。
「おう、健司」
「おう」
それだけ。誰なのか説明する必要もない。顔見知りだ。
「それ何だ」
「スノーエナガ」
「へえ」
老人がモチを見る。
「丸いな」
「丸い」
会話は終わった。しばらくすると診察室から女性が出てきた。白衣。髪は肩にかからない程度にまとめられている。三十代前半。朝比奈澪。この地域の診療所で働く医師で、ダンジョン発生後に設けられた魔獣診療資格も持っている。健司も何度か診てもらったことがある。畑で指を切ったとき。腰を痛めたとき。ゴンが若い頃に怪我をしたとき。大体ここだった。
「森さん」
「おう」
「久しぶりですね」
「俺、そんな病院来ないからな」
「来ない方がいいです」
澪の視線が健司の肩へ移る。
「それですね」
「拾った」
「もう聞いてます」
「誰から?」
「白花さん」
「また広がってる」
「配信も見ました」
「先生まで見てるの?」
「スノーエナガを素手で拾う人がいるって聞いたので」
「大人しかったぞ」
「結果論です」
「しずくにも似たようなこと言われた」
「みんな同じことを思ってるんです」
診察室へ入る。モチを台へ乗せる。
「じゃあ翼見ますね」
澪が手を伸ばす。モチが少し後ずさった。
「大丈夫」
優しい声。それでもモチは健司の方を見る。
「俺に聞かれても」
ピィ。
「診てもらえ」
健司が指を近づけると、その上へ乗った。澪が苦笑する。
「完全に森さんを安全地帯だと思ってますね」
「拾っただけなんだけどな」
「昨日今日でそこまで懐く個体は珍しいです」
「そうなの?」
「スノーエナガ自体は温厚ですけど、野生魔物ですから」
澪が少しずつ距離を詰める。健司の手に乗せたまま診察することになった。翼。傷。骨。魔力反応。簡単な検査。
「骨折はないです」
「よかった」
「傷もほぼ塞がっています。今日一日あまり無理に飛ばさず、明日も普通に飛べるようなら大丈夫でしょう」
「もう結構飛んでるぞ」
「止めてください」
「止まらないんだよ」
澪がモチを見る。
「元気になった証拠ではありますけどね」
モチは健司の手のひらで丸くなっている。
「あと餌」
「ブルーベリー」
「問題ないです。果物なら糖分が多すぎない程度に。小型の虫や種子も食べます」
「畑に虫いっぱいいるぞ」
「農薬使ってない場所ならいいですけど、勝手に食べさせないでください」
「はい」
「それと――」
澪がカルテを見る。
「今後どうします?」
「今後?」
「野生へ戻すのか、テイム個体として登録するのか」
健司はモチを見る。
「治ったら帰るだろ?」
ピィ。
「本人は?」
「分からん」
澪が少し笑った。
「スノーエナガは群れを作る魔物です。一度仲間とはぐれて、人間や他の動物と生活圏を作ると、そのまま定着する個体もいます」
「うちに?」
「可能性はあります」
「ゴンの背中気に入ってるみたいだしな」
「配信で見ました」
「先生も見てたの?」
「はい」
「みんな暇だな」
「患者さんに言われたくないです」
健司は笑った。
「まあ、本人が帰らないならいてもいいよ」
「じゃあ正式なテイム登録は、もう少し様子を見てからですね」
「それで」
診察が終わる。会計。健司が財布を出す。金額を見る。
「思ったより安いな」
「軽傷ですから」
「借金あるから助かる」
澪の手が止まった。
「借金?」
「三百万」
「……何したんですか」
「保証人」
澪はしばらく健司を見た。
「森さん」
「なに?」
「昔からそういうところありますよね」
「何が」
「頼まれると断れないところ」
「そんなことないぞ」
「ゴンのときもそうでした」
「ゴン?」
「元々、知り合いが飼えなくなったから引き取ったんでしょう?」
「そうだっけ」
「そうです」
「まあ、今いるからいいだろ」
澪がため息をつく。
「今度は魔物まで拾ってるし」
「怪我してたからな」
「そのうち家が動物だらけになりますよ」
「土地はある」
「そういう問題じゃありません」
どこかで聞いた言葉だった。郷田にも似たことを言われた気がする。診療所を出る。モチを助手席の籠へ入れる。
「先生に怒られたな」
ピィ。
「お前のせいじゃないか」
ピィ。
「まあいいか」
その足でギルドへ向かった。今日は最初からダンジョンへ行くつもりだった。診察が長引けばやめるつもりだったが、まだ昼を少し過ぎたところ。モチはギルドへ連れていく。受付でしずくに預かってもらえばいい。建物へ入る。
「森おじさん!」
しずくがすぐにモチを見る。
「モチ!」
「俺より先にそっちか」
「診察どうでした?」
「もうほとんど治ってるって」
「よかった」
モチを受付台の上へ置く。しずくがそっと指を伸ばす。モチは少し警戒した。だが昨日ほどではない。指先を軽くつつく。
「触れた!」
「よかったな」
「森おじさん、今日潜るんですよね?」
「うん」
「モチどうします?」
「ここで預かってもらえる?」
「もちろん」
しずくが嬉しそうすぎる。
「仕事しろよ」
「します!」
ドローンも借りる。タイトル。今日はしずくが入力した。
【借金残り280万円】森おじさん、第二階層を覗きに行く
「残高書くの?」
「分かりやすいじゃないですか」
「まあいいけど」
配信開始。すぐに人が入ってくる。百。二百。
《森おじさんきた》
《今日はモチは?》
《病院どうだった》
「治ってきてるよ。今しずくに預けてる」
《しずくちゃん有能》
《モチ映して》
「俺これからダンジョンなんだけど」
《分かってる》
「本当に?」
コメントを見ながら第一階層へ入る。昨日までと違い、今日は第二階層の入口まで行く予定だ。剣を抜く。最初のゴブリン。一撃。次。一撃。三体。ほとんど止まらない。
「……なんか今日、さらに楽だな」
《また強くなってない?》
《身体の動き軽すぎ》
《昨日牙犬で少し息上がってたよね》
「今日は朝から身体の調子いいんだよ」
《なんで》
「よく寝た」
《睡眠最強》
《農業じゃないの?》
「それもあるかもな」
健司本人は冗談半分だった。だが実際、身体は軽かった。剣を振る。踏み込む。走る。どの動作にも余裕がある。第一階層奥。昨日牙犬と戦った場所。一体。今日は先に気づいた。牙犬もこちらを見る。低く唸る。
《昨日のやつ》
《森おじさん慎重に》
健司は剣を構える。牙犬が走る。速い。昨日もそう思った。今日は違った。
「……遅くなった?」
もちろん牙犬の速度は変わっていない。健司の身体が変わった。だが本人には分からない。飛び込んでくる。半歩ずれる。昨日より余裕がある。剣を一閃。牙犬の肩へ深く入る。着地。振り向こうとする前に、二撃目。倒れた。
「昨日より簡単だったな」
《いや森おじさんが速い》
《明らかに動き違う》
《元Dとかいうレベル?》
「体調だろ」
《全部体調で片付けるな》
魔石と牙を回収。さらに先へ。第二階層へ続く階段。昔とほとんど変わっていない。
「懐かしいな」
《来たことある?》
「昔はDだったからな」
《どこまで行ってたの?》
「もっと下」
《じゃあ経験あるじゃん》
「十年以上前だけど」
階段を下りる。空気が変わった。第一階層より湿気が多い。壁には薄い苔。照明も少ない。健司はそこで一度止まった。
《行かない?》
「少し見る」
第二階層。入口から五十メートル。百メートル。昔の記憶を頼りに進む。道そのものは似ている。だがダンジョンは少しずつ地形が変わることもある。油断はしない。音。左。健司が止まる。岩陰から二体の牙犬。
「二体か」
昨日なら引き返していた。自分でもそう思う。今日は――。
「いけるかな」
《無理しないで》
《逃げてもいいぞ》
「駄目なら逃げる」
二体が左右へ分かれる。一体だけ見てはいけない。健司は後ろへ下がる。壁を背負う。昔からの動き。一体目が来る。避ける。斬る。浅い。二体目。横から飛び込む。健司は剣を戻す。間に合う。刃で牙を逸らす。身体ごと押し返す。
「おお」
自分でも驚いた。牙犬の身体は軽くない。それを片腕で押し返した。
《パワーおかしくない?》
《今押し返した?》
「農業」
《出た》
一体目がもう一度来る。健司は踏み込む。首元。一撃。倒す。二体目が跳ぶ。今度は正面。避けずに横へずらす。剣。二撃。終了。静かになった。健司は少し息を吐く。だが、苦しくない。
「二体でもいけたな」
《余裕あるじゃん》
《Fランクとは》
《第二階層来たばっかりですよね?》
「昔知ってるところだから」
《そういう問題かな》
健司も少しだけ不思議だった。昨日までと違う。明らかに身体が軽い。だが悪いことではない。
「まあ、調子いい日はあるだろ」
それで終わった。無理はしない。二体倒せたからといって、さらに奥へは行かない。第二階層の入口付近だけ探索。素材を回収。そして戻る。途中で昼食。塩むすび。
《今日も安定》
「母さん、これしか作らないからな」
《具入れてもらわないの?》
「塩だけでうまいぞ」
《羊羹も持ってこよう》
「溶けるだろ」
《羊羹は簡単には溶けない》
「そうなの?」
《森おじさん羊羹好きなのに知らないのw》
「食べる専門だから」
配信を見ている人数は千人を超えていた。健司は数字を見るたびに不思議になる。
「千人って、うちの地区より多くない?」
《比較対象w》
《田舎すぎる》
「この辺、本当に人少ないからな」
ダンジョンを出る。査定。今日は第二階層の牙犬が複数。素材も昨日より状態がいい。78,200円配信応援。18,640円合計。九万円を超えた。
「もう十万円じゃん」
健司が呟く。しずくが受付から言う。
「今日だけでほぼですね」
「農業入れたら超えてるな」
「また返すんですか?」
「いや」
しずくが少し意外そうにする。
「返さないんです?」
「毎回十万できたらすぐ返してたら、生活費なくなるだろ」
「ちゃんと考えてた」
「どういう意味だよ」
「森おじさん、勢いで全部返しそうだから」
「そこまで馬鹿じゃない」
「保証人」
「それ言われると弱いな」
今日は返済しない。今月の農業経費もある。燃料代。肥料。飼料。機械の整備。金は残しておく必要がある。借金は返せるときに返す。焦らない。
「二百八十万は逃げないからな」
「逃げてほしいですけどね」
「本当だな」
モチを迎えに行く。受付の奥。小さな箱の上に座っていた。しずくが横で仕事をしている。
「大人しくしてた?」
「すごく」
モチが健司を見る。ピィ。そのまま飛んだ。短い距離。健司の肩。着地。
「お」
しずくが拍手する。
「飛べた!」
「結構良くなってるな」
「森おじさん見た瞬間飛びましたよ」
「帰りたかったのかな」
「たぶん森おじさんのところに行きたかったんです」
「同じじゃない?」
「微妙に違います」
よく分からない。ギルドを出る。軽トラックへ乗る。今日はモチが籠から出たがったので、信号で止まるたび戻すことになった。
「運転中は駄目だって」
ピィ。
「事故ったら先生に怒られるぞ」
ピィ。
「俺も困る」
家に着く。ゴンが来る。モチが肩から飛んだ。今度は三メートルほど。ゴンの背中へ着地。
「上手くなったな」
ピィ。ゴンは何も気にしていない。母が家から出てくる。
「あら、帰ったのかい」
「ただいま」
「白いのも帰ってきたねえ」
「モチな」
「そうだったね」
畑を見る。鶏へ餌。水を替える。今日も家に戻ればいつもと同じ。だが一つだけ、健司自身が気づいていないことが違っていた。重い餌袋を持つ。軽い。昨日までより。確実に。それでも健司は、
「最近調子いいな」
それだけだった。遠く離れた都市では、A級パーティーの盾役が自分の身体を何度も確認していた。腕力。踏ん張り。持久力。どれも以前よりわずかに落ちている。病院へ行っても異常はない。怪我もない。上原も同じだった。剣の技術が落ちた。理由は不明。
「おかしいだろ」
盾役が言う。
「俺もそう思ってる」
「二人同時だぞ?」
「分かってる」
「何かされたんじゃないのか?」
上原は黙った。その可能性は考えている。呪い。特殊な魔物。ギフト。ダンジョン内部の罠。どれもあり得る。だが原因が分からない。まさか。田舎でトマトを採り、秋田犬を散歩させ、塩むすびを食べている幼馴染が原因だとは――。考えるはずもなかった。その頃、健司は縁側で羊羹を切っていた。今日は少し厚め。母が茶を淹れる。ゴンが寝ている。その背中にはモチ。庭の端では亀がゆっくり歩いていた。
「今日、二体いっぺんに牙犬倒したよ」
健司が母へ言う。
「そうかい」
「昔より身体動くかもしれん」
「畑仕事してるからじゃないかい?」
健司は少し笑った。
「やっぱりそうだよな」
母の一言で納得した。羊羹を一口。茶を飲む。借金残高、二百八十万円。急がない。農業をやる。ダンジョンへ行く。配信する。稼いだら、また返す。それでいい。自分が返済するたび、遠くの誰かから何かが失われていることなど。森健司は、まだ何も知らなかった。




