第4話 ゴンの散歩配信
森健司が目を覚ましたとき、枕元に白いものがいた。
「……ん?」
ぼんやりした頭のまま顔を横へ向ける。白い。丸い。小さい。昨日ダンジョンで拾ってきたスノーエナガが、布団の端にちょこんと座っていた。
「お前、なんでここにいるんだ」
ピィ。
「昨日は籠の中にいたよな?」
返事はない。寝る前、健司は段ボール箱に古いタオルを敷き、即席の寝床を作ってやった。飛べないとはいえ、怪我をしている翼を無理に動かさない方がいい。だから居間の隅へ置いておいたはずだった。健司は身体を起こした。スノーエナガも身体を起こす。
「どうやって来たんだ?」
ピィ。
「歩いたの?」
白い毛玉は首を傾げた。健司も首を傾げる。まあいい。家の中を荒らしたわけでもない。
「まだ寝てていいぞ」
布団から出る。スノーエナガも跳ねるようについてくる。
「……ついてくるのか」
廊下へ出る。またついてくる。小さな足で、ぴょん、ぴょん、と進む。飛べないので遅い。健司が普通に歩けば置いていってしまう。仕方なく速度を落とした。居間へ入る。ゴンがすでに起きていた。健司を見る。その後ろからやってきた白い毛玉を見る。スノーエナガもゴンを見る。昨日と同じように、お互いしばらく見つめ合った。
「仲良くなった?」
ゴンは返事をしない。スノーエナガが一度だけ、
「ピィ」
と鳴いた。ゴンは興味を失ったように立ち上がり、縁側へ向かった。その後ろを白い毛玉が追う。
「お前、ゴン好きだな」
縁側へ出ると、朝の空気はまだ涼しかった。庭の向こうから鶏の鳴き声が聞こえる。健司が鶏小屋へ向かう。当然ゴンも来る。そしてスノーエナガも来る。
「今日は三人か」
鶏小屋を開ける。中から鶏たちが次々と出てきた。スノーエナガが驚いたように身体を膨らませる。
「同じ鳥だぞ」
ピィッ。
「いや、お前よりでかいけど」
鶏の一羽が近づいてきた。首を伸ばす。スノーエナガへ顔を寄せる。白い毛玉が後ろへ下がった。鶏も一歩進む。さらに下がる。最後にはゴンの前脚の間へ逃げ込んだ。
「怖いのか」
健司は笑った。ゴンは気にする様子もなく座っている。その前脚の間から、スノーエナガが顔だけ出して鶏を見ていた。
「ダンジョンの魔物が鶏に負けてどうする」
ピィ。鶏たちへ餌をやる。その間、スノーエナガは少し離れたところから見ていた。昨日、しずくから聞いた話では果実や小さな木の実を食べるらしい。健司は家へ戻り、冷蔵庫からブルーベリーを何粒か取ってきた。
「食うか?」
手のひらに一粒乗せる。スノーエナガが近づく。黒い目でブルーベリーを見る。健司を見る。またブルーベリーを見る。
「毒入ってないぞ」
嘴でつついた。小さく穴が開く。もう一度。三度目でようやく食べ始めた。
「食うじゃん」
ピィ。気に入ったようだった。二粒目。三粒目。四粒目を出そうとしたところで、母が家から出てきた。
「あら、もう餌やってるのかい」
「鶏は終わった」
「そっちじゃないよ」
母がスノーエナガを見る。
「白いの」
「昨日拾ったやつ」
「そうだったねえ」
母は縁側へ腰を下ろした。スノーエナガを眺める。
「丸いねえ」
「丸いな」
「お餅みたいだねえ」
健司が白い毛玉を見る。
「餅?」
白い。丸い。確かに餅っぽい。
「名前決めてなかったんだよな」
「名前?」
「こいつの」
母は少し考える。
「モチでいいじゃない」
「そのままだな」
「分かりやすいだろ」
「まあな」
健司はしゃがんだ。
「おい、モチ」
スノーエナガが顔を上げた。
「……反応した」
もう一度。
「モチ」
ピィ。
「決まりだな」
こうして、ほとんど母の思いつきだけでスノーエナガの名前はモチになった。朝飯を食べてから、健司は畑へ出た。モチは縁側に置いた小さな籠の中。翼を怪我しているため、できるだけ動かさない方がいい。――はずなのだが。健司がトマトを収穫していると、どこからか小さな鳴き声が聞こえた。ピィ。
「ん?」
振り返る。畑の入口。白い毛玉。
「……なんでいるんだ」
健司は籠を置き、モチのところまで歩いた。
「飛べないのに、よくここまで来たな」
家から畑までは大した距離ではない。それでも小さな鳥にとっては結構な距離だろう。両手ですくい上げる。
「安静って言われただろ」
ピィ。
「分かってないな」
畑の端に置いてある木箱へタオルを敷き、その上に乗せる。
「ここにいろ」
モチは大人しく座った。健司がトマトを採る。振り返る。いる。キュウリを採る。振り返る。まだいる。肥料袋を持ち上げる。振り返る。いない。
「……おい」
周囲を見る。すぐ見つかった。モチはゴンの背中に乗っていた。ゴンは畑の脇で寝ている。
「そこならいいか」
本人たちがいいなら健司が口を出すことでもない。とはいえ、怪我をした鳥を一日中ゴンの背中に乗せておくのもどうかと思う。健司は納屋を探し、昔収穫した豆を干すのに使っていた浅い竹籠を一つ引っ張り出した。底へ使い古しの手拭いを折って敷き、畑の端の日陰へ置く。これなら風も通るし、健司が作業している間も目が届く。
「ほら。お前の休憩所」
モチを竹籠へ入れると、白い身体がちょうど丸く収まった。二歩ほど離れて振り返る。モチは大人しくしている。さらに十歩離れて振り返っても、まだいる。健司は安心して支柱の結び直しへ戻った。しばらくして母が畑へ来ると、竹籠を覗き込んだ。「ずいぶん立派な寝床作ったねえ」と言うので、健司は「治るまでだよ」と返した。母は何も言わず、ただ笑ってキュウリの葉の裏を確かめ始めた。その笑い方が少し気になったが、健司は深く考えなかった。
昼までの間にモチは二度竹籠から抜け出した。一度目はゴンの背中。二度目は健司が置いた収穫籠の横だった。どちらも遠くへ行くわけではない。どうやら健司かゴンの姿が見える場所にいたいらしい。
「お前、意外と寂しがりなのか?」
ピィ、と返事だけはいい。健司は白い頭を指先で一度撫で、今度は竹籠ごと自分の作業場所の近くへ移した。これなら勝手に歩いてきても距離は短い。農作業というのは、野菜だけでなく天気や虫や動物の様子まで見ながらやるものだ。見張るものが一つ増えたくらいなら、まだ大したことではなかった。作業の途中、近所の女性が畑の脇を通りかかり、ゴンの背中に乗るモチを見て足を止めた。「健司ちゃん、また何か飼い始めたの」と聞かれ、健司は「怪我してるから預かってるだけ」と答えた。女性は「そう言ってゴンもずっといるじゃない」と笑って去っていった。
健司はしばらくその背中を見送った。ゴンを引き取ったときも、最初は一時的なつもりだったような気がする。昔のことなので細かくは覚えていない。ただ、今さらゴンがいない生活など考えられなかった。「お前は治ったら帰るんだぞ」とモチへ言うと、白い毛玉はゴンの背中で目を細めた。まるで聞いていない顔だった。作業を続けた。昼近くになり、日差しが強くなってきたところで畑仕事を切り上げる。収穫した野菜を納屋へ運び、水分を取る。今日ダンジョンへ行くか少し迷った。モチのこともある。だが家には母がいる。ゴンもいる。ずっと見ていなければならないほど重傷でもない。
「昼から少し潜るか」
そう考えたところで、スマートフォンが鳴った。しずくからだった。
「もしもし」
『森おじさん、今日配信します?』
「今から行こうと思ってた」
『じゃあドローン取っときますね』
「頼む」
『あと、昨日の動画すごいですよ』
「何が?」
『再生数』
「何人?」
『昨日のアーカイブ、もう三千超えてます』
健司は少し黙った。
「三千?」
『はい』
「俺がモチ拾ってるやつ?」
『モチ?』
「ああ。名前決まった」
『何になったんですか?』
「モチ」
電話の向こうが静かになった。
「しずく?」
『……かわいい』
「そう?」
『誰がつけたんです?』
「母さん」
『さすがです』
何がさすがなのか分からない。
『それでですね。スノーエナガを助けた場面と、片手でゴブリン倒したところが切り抜かれてます』
「切り抜きって昨日も言ってたやつ?」
『配信の一部分だけ短い動画にしたものです』
「誰が作ってるの?」
『視聴者じゃないですか?』
「知らない人が?」
『そういうものです』
知らない人が自分の映像を切って別の動画にする。健司にはまだよく分からない。
「怒った方がいい?」
『悪意ある編集じゃなければ、むしろ宣伝になりますよ』
「ならいいか」
健司はあっさり納得した。
『森おじさん、そういうところ本当に気にしないですね』
「困ることされたら言うよ」
『ちなみにフォロワーも四百人超えました』
「昨日四十七人じゃなかった?」
『モチ効果ですね』
「俺じゃなくて?」
『半分くらいはモチかもしれません』
「強いな、モチ」
縁側を見る。白い毛玉がゴンの横で座っている。
「俺より稼ぐかもしれんな」
『あり得ます』
「じゃあダンジョン行かなくてもいい?」
『それは借金返せないでしょ』
「そうだった」
電話を切る。準備をする。剣。防具。水筒。回復薬。母がまた塩むすびを二つ用意してくれた。
「健司」
「なに?」
「モチも連れていくのかい?」
「連れてかないよ」
「そうかい」
「怪我してるしな」
母がモチを見る。
「じゃあ私が見てるよ」
「頼む」
ゴンにも声をかける。
「モチ見ててくれ」
ゴンは健司を見る。モチが横からゴンの前脚へ寄りかかる。
「お前ら、もう仲いいな」
軽トラックへ乗る。エンジンをかける。しかし、そこで健司は少し考えた。昨日コメントで、
――ゴンの散歩を配信してほしい。と言われていた。今日ダンジョンへ行けば帰りは夕方になる。散歩はそのあと。
「……ついでに配信するか」
どうせドローンを借りる。帰りにそのまま使えばいい。ギルドへ到着。受付へ行くと、しずくがすぐにこちらを見た。
「森おじさん」
「おう」
「モチは?」
「家」
「連れてきてないんですか?」
「怪我してる鳥をダンジョンに連れてくるわけないだろ」
「そうじゃなくて、ギルドに」
「家に置いてきた」
「見たかった……」
「今度な」
しずくが少し残念そうにしながらドローンを出した。
「今日、最初から結構人来ると思いますよ」
「そう?」
「昨日の切り抜きから流れてくる人いると思うので」
配信を開始する。タイトル。
【借金返済】森おじさん、今日もダンジョンへ
視聴者。十二人。二十人。三十七人。健司がダンジョン入口へ着く頃には七十人になった。
「多いな」
《森おじさんきた》
《モチは?》
《モチ見せて》
《ゴンは?》
《今日は毛玉いないの?》
「俺の配信じゃなかった?」
コメント。
《森おじさんも見てるよ》
《ついでに》
「ついでかよ」
笑いながらダンジョンへ入る。今日も第一階層。剣を抜く。一体目のゴブリン。昨日までなら、姿を確認して一度構えていた。今日は身体が勝手に動いた。ゴブリンの短刀を外へ流す。一歩踏み込む。斬る。一撃。
《やっぱうまい》
《これFランクなの?》
《元Dってこんな強い?》
「昔より動けてる気はするな」
《なんで》
「農業」
《また農業》
《全て農業で説明するおじさん》
「身体使う仕事だからな」
それ以外に理由がない。二体目。三体目。剣を振れば振るほど馴染んでくる。郷田の剣が、まるで何年も使い込んできた自分の道具のように感じられる。
「不思議だな」
《何が?》
「剣」
《また?》
「昨日よりさらに扱いやすい」
《毎日レベルアップしてる?》
「そんなもの見えないぞ」
この世界にステータス画面などない。ギフトやスキルは存在する。だが数字が空中へ表示されるようなことはない。自分が何を持っているのかも、専門的な鑑定を受けなければ細部までは分からない。健司は昔、《肩代わり》というギフトを持っていると鑑定された。それだけ。戦闘スキルについて詳しく調べてもらったことはない。
「昔の感覚戻ってるだけだろ」
本人はそう結論づけた。一時間ほど探索。魔石。素材。今日は少しだけ奥へ行く。四体のゴブリンに囲まれたときも、慌てなかった。一体を先に倒す。壁際へ移動し、背後を取られないようにする。二体目。三体目。最後。全部倒したところで、コメントが一気に流れた。
《森おじさん普通に強い》
《Fランク詐欺》
《元Dでもブランク十年以上だろ》
《農業最強説》
健司は魔石を拾いながら答える。
「昔Dだからな」
《Dでも4体同時こんな余裕?》
「ゴブリンだぞ」
《その基準がおかしい》
よく分からない。自分としては、まだ強い敵と戦ったつもりはなかった。昼になり、いつもの塩むすび。
《きた》
《塩むすびタイム》
「これ待ってる人いるの?」
《いる》
《今日の具は?》
「塩」
《安定》
《期待を裏切らない》
「母さんが作るからな」
《モチ何食べてる?》
「ブルーベリー」
《かわいい》
《ゴンと仲良くなった?》
「背中乗ってるぞ」
コメント速度が上がる。
《写真!》
《見たい》
《帰ったら配信》
「今日、散歩配信するつもり」
《マジ!?》
《神》
《ダンジョンより楽しみ》
健司は塩むすびを食べながら眉を寄せた。
「俺、今ダンジョンなんだけど」
《知ってる》
《でもゴンとモチ》
「人気負けてるな」
午後になる前に探索を切り上げる。今日の素材査定。四万八千円。応援額。七千円少々。合わせれば五万円を超える。
「結構いったな」
しずくが明細を見ながら言う。
「昨日よりかなり増えましたね」
「毎日これくらいなら返せるな」
「農業もあるんですよね?」
「ある」
「無理しないでくださいよ」
「疲れたら休む」
「森おじさん、体力ありそうだから自分で気づかなそう」
「それはないだろ」
ギルドを出る。帰りに郷田の店へ寄った。
「おう、配信者」
いきなり言われた。
「何それ」
「見たぞ」
「見てるの?」
「昨日のやつな」
郷田が笑う。
「お前、スノーエナガ拾ってたな」
「モチな」
「もう名前つけたのかよ」
「母さんが」
「お前ん家、また生き物増えたな」
「怪我治るまでだぞ」
「そう思ってるのお前だけじゃないか?」
「どういう意味?」
「知らん」
郷田は笑った。家へ戻ると、ゴンが門のところまで来た。その背中。白い毛玉。
「本当に乗ってる」
健司が近づく。モチが、
「ピィ」
と鳴いた。
「ただいま」
ゴンを撫でる。そのままモチにも指を近づける。小さな嘴で軽くつつかれた。
「痛くないな」
鶏へ餌をやる。畑を見回る。日が少し傾いたところで、ゴンの散歩へ行く準備をした。ギルドから借りたドローンはまだ返していない。レンタルは一日単位。なら使っていい。
「ゴン、散歩行くぞ」
ゴンが立ち上がる。モチも動く。
「お前は留守番」
ピィ。
「飛べないだろ」
モチがゴンを見る。次の瞬間。ぴょん。ゴンの背中へ乗った。健司は黙った。ゴンを見る。モチを見る。
「……そのまま行く気?」
ゴンが歩き始めた。モチは落ちない。
「まあ、近所だけだからいいか」
配信開始。タイトル。少し迷う。最終的に、
【散歩】森おじさんとゴンとモチ
にした。視聴者。開始直後から百人。
「なんでダンジョンより多いんだよ」
コメントが一気に流れる。
《きたあああ》
《ゴン!》
《モチ乗ってるw》
《かわいい》
《秋田犬+スノーエナガは反則》
《森おじさん映らなくていいから横から撮って》
「俺の配信だぞ」
ドローンが少し横へ移動した。健司ではなく、ゴンを中心に映し始めた。
「お前までそっち行くの?」
《AI有能》
《需要を理解してる》
田んぼの脇の道を歩く。ゴン。その背中にモチ。横を歩く健司。夕方の風。遠くの山。田んぼ。古い家。何も起きない。ただ歩くだけ。それなのに視聴者は増え続けた。二百人。三百人。
《癒やされる》
《こういうのでいいんだよ》
《昨日魔物斬ってた人と同一人物とは思えない》
《森おじさん家の周り景色いいな》
「田んぼしかないぞ」
《それがいい》
「都会の人は変わってるな」
近所のおじいさんが向こうから歩いてきた。
「おう、健司」
「おう」
おじいさんがドローンを見る。
「それ何だ」
「配信」
「はいしん?」
「ネットで見られてる」
「テレビか」
「まあ、似たようなもん」
おじいさんがカメラへ顔を近づける。
「映ってんのか?」
《映ってますw》
《こんにちは》
《地元のおじいちゃん》
「これ文字出てるぞ」
「コメント」
「誰が書いてる」
「知らない人」
「変なの」
そのまま歩いていった。コメント欄が笑いで埋まる。
《田舎すぎるw》
《最高》
《おじいちゃん強い》
「普通だろ」
《普通じゃない》
健司には何が面白いのか分からない。さらに歩く。ゴンが道端の匂いを嗅ぐ。モチが背中から周囲を見ている。突然、モチが小さく羽ばたいた。ほんの少しだけ身体が浮いた。すぐゴンの背中へ戻る。
「お」
健司が足を止めた。
「今飛んだな」
ピィ。
「翼、良くなってきた?」
もう一度飛ぼうとする。だが健司が手を出した。
「今日はやめとけ」
モチを抱える。
「治ってからな」
コメント。
《森おじさん優しい》
《お父さんみたい》
「俺、子供いないぞ」
《そういう意味じゃないw》
モチをゴンの背中へ戻す。散歩を続けた。四百人。五百人。健司は数字を見て驚く。
「五百人?」
《バズってる》
《モチかわいい》
《ゴンかわいい》
「俺は?」
《森おじさんもかわいい》
「四十六のおっさんに言うな」
帰宅。庭へ入る。鶏たちが寄ってくる。
《鶏いるの!?》
《動物園じゃん》
《亀は?》
「亀?」
《前映ってた》
「よく見てるな」
探す。庭石の近く。いた。ドローンが勝手に寄っていく。
《亀きた》
《今日もいるw》
《この家なんなんだ》
「普通の家だよ」
配信終了前。今日の散歩配信だけで応援額が一万円を超えていた。健司は数字を二度見した。
「散歩しただけだぞ?」
《ゴンとモチの餌代》
《借金返済に》
《またやって》
「……ダンジョンより稼いでない?」
コメント。
《気づいたか》
健司はしばらく考えた。剣を持って魔物と戦った。魔石を拾った。汗もかいた。それより、ゴンと散歩した方が配信収入は多い。
「世の中分からんな」
庭の向こうでは、母が洗濯物を取り込んでいる。ゴンは縁側へ横になった。その横にモチ。鶏が庭を歩く。亀もいる。健司は頭を掻いた。借金残高、二百九十万円。まだまだ先は長い。だが。ダンジョンだけで返さなくてもいいのかもしれない。
「まあ、稼げるなら何でもいいか」
健司はそう言って、家へ入った。




