第3話 白い毛玉を拾った
朝の仕事を終えた森健司は、縁側に腰を下ろして麦茶を飲んでいた。日が高くなるにつれ、畑の土からじわじわと熱が上がってくる。午前中のうちに水やりと収穫を済ませて正解だった。足元ではゴンが腹を地面につけて寝ている。
「暑いな」
声をかけても、ゴンは耳を少し動かしただけだった。年を取った秋田犬にとって、夏の暑さは若い頃より堪えるのだろう。最近は日中になると、庭の木陰か縁側の下でほとんど寝ている。
「水飲めよ」
健司が水入れを近くへ置くと、ゴンはゆっくり顔を上げた。庭の向こうでは鶏たちも日陰へ集まっている。さらにその奥。例の亀は今日もいた。朝に見た場所とは少し違う。
「お前だけ元気だな」
亀はゆっくり進んでいる。どこへ向かっているのかは知らない。というより、そもそも誰が飼っている亀なのかも健司は知らなかった。いつの頃からか庭で見るようになった。冬になると姿を消し、暖かくなるとまた現れる。だから健司の中では、もう庭の一部みたいなものだった。
「健司」
家の中から母の声がした。
「なに?」
「これ、持ってくかい?」
母が縁側へ出てくる。手には小さな籠。中にはキュウリとナスが入っていた。
「どこに?」
「郷田さんのとこ」
「今日はギルドだよ」
「そうかい」
母は籠を見る。
「じゃあ白花さんとこに持っていきな」
「ギルドに野菜持ってくの?」
「食べるだろ」
「まあ食べるだろうけど」
健司は少し考えた。別に邪魔になる量でもない。
「じゃあ持ってくか」
「キュウリは昨日採ったやつだからね」
「分かった」
母が家へ戻る。五分もしないうちに、また出てきた。
「健司」
「今度はなに?」
「これ、郷田さんのとこ持っていきな」
手にはまた野菜。健司は笑った。
「今日はギルドだって」
「ああ、そうだったねえ」
最近こういうことが増えた。それでも母は母なりに、毎日畑へ出て、料理もしている。無理をさせなければいい。健司は麦茶を飲み干し、立ち上がった。
「じゃあ行ってくる」
ゴンが顔を上げる。
「今日は駄目だぞ」
昨日のダンジョン配信で、視聴者からゴンを見せてほしいと言われた。だが今日はダンジョンへ行く。さすがに連れていけない。
「帰ったら散歩な」
ゴンの頭を撫でる。それで納得したのかどうかは分からないが、ゴンはまた縁側へ顎を置いた。軽トラックへ乗る。助手席には母から持たされた野菜。荷台には空の収穫籠が二つ。ダンジョンへ行く車とは思えない。だが健司にとっては、これが普通だった。ギルドへ着くと、受付にしずくがいた。
「森おじさん、おはようございます」
「おう」
「今日は早いですね」
「暑くなる前に畑終わらせてきた」
「今日も配信ですか?」
「そのつもり」
「おお」
しずくが少し嬉しそうな顔をする。健司は持ってきた籠を受付台へ置いた。
「これ」
「なんですか?」
「母さんから」
中を見る。
「キュウリ?」
「あとナス」
「なんでギルドに野菜を?」
「知らん。母さんが持ってけって」
しずくは笑った。
「じゃあ、ありがたくもらいます」
「余ってるから遠慮しなくていいぞ」
「森おじさん家、畑広いですもんね」
「土地だけはある」
「いいなあ」
「草刈り大変だぞ」
「それは嫌です」
「だろ」
受付の脇に籠を置いてから、しずくが端末を操作する。
「そういえば昨日の配信、アーカイブ見られてましたよ」
「アーカイブ?」
「配信の録画です」
「録画されてるの?」
「されてますよ」
「聞いてないぞ」
「説明しました」
「そうだっけ」
「しました」
健司は首を傾げた。しずくが画面をこちらへ向ける。昨日の配信。再生回数。312回
「三百人?」
「リアルタイムで見てた人だけじゃないですから。終わったあとに見る人もいます」
「俺がゴブリン倒して、おにぎり食ってただけだぞ」
「そのおにぎりのところ、コメント結構ついてます」
「なんで?」
「『本当に塩むすびだけ食べてる』とか」
「塩むすびだからな」
「あと『借金返済おじさん』って言われてます」
「嫌な呼ばれ方だな」
「タイトルに借金返済って入れたの森おじさんですよ」
「しずくが入れたんだろ」
「提案したのは森おじさんです」
「そうだったか」
しずくが笑う。
「フォロワーも増えてますよ」
「何人?」
「四十七人」
健司は少し驚いた。
「そんなに?」
「昨日最大二十三人だったのに、終わってから増えたみたいですね」
「知らない人が四十七人も俺を見るの?」
「そういうものです」
「世の中、暇な人多いな」
「視聴者に怒られますよ」
「悪い悪い」
レンタル用のドローンを借りる。昨日と同じ黒い球体。健司が手に取ると、しずくが少し考えたあと言った。
「今日は配信タイトルどうします?」
「昨日と同じでいいんじゃない?」
「同じでもいいですけど……」
「じゃあ、『今日も借金返済』」
「分かりました」
少しして画面に表示される。
【借金返済】森おじさん、今日もFランクダンジョンへ
「そのままだな」
「分かりやすい方がいいです」
配信を開始する。最初の視聴者。一人。三人。五人。昨日より増えるのが早い。
《森おじさん来た》
《今日はゴンいないの?》
《犬見に来た》
「ダンジョン配信だぞ」
《ゴンは?》
「家で寝てる」
《解散》
「帰るなよ」
自分でも少し笑ってしまった。昨日までは、知らない人間へ話しかけること自体が不思議だった。今日は少し慣れている。ダンジョンへ入る。昨日と同じ第一階層。健司は剣を抜き、軽く手の中で確かめた。やはり馴染む。昨日の最初とはまるで違う。剣の重心が自然に分かる。柄のどこを握れば振りやすいのか。足をどこへ置けば身体がぶれないのか。考えなくても身体が動く。
「不思議だな」
《何が?》
コメントを見て答える。
「剣。昨日よりずっと使いやすい」
《元Dだから感覚戻ってきた?》
「多分な」
《ブランク十年以上で戻るの早くね?》
「農業してたから身体は動かしてたし」
《万能ワード農業》
《農業すげえ》
健司には、それ以外に説明が思いつかなかった。曲がり角の先。足音。二体。健司は止まる。ゴブリンが姿を見せた。剣を構える。一体目が走る。短刀が振られるより早く、健司の剣が動いた。踏み込み。横薙ぎ。首元へ刃が入る。返す動きで二体目へ向く。ゴブリンが短刀を突き出した。剣の腹で逸らす。そのまま斬り下ろす。二体目も倒れた。数秒。健司は剣を見た。
「……前より上手くなってるな」
《前よりって昨日だろ》
《急成長おじさん》
《これFランク?》
「ゴブリンだからな」
魔石を拾う。昨日なら一体ずつ慎重に相手をしていた。今は二体でも余裕がある。だが、健司は深く考えなかった。昔Dランクだった。感覚が戻っている。そういうものなのだろう。奥へ進む。視聴者は二十人を超えた。昨日の最大人数に近い。
《今日おにぎりある?》
「あるぞ」
《やった》
「何がやったなんだよ」
《具は?》
「塩」
《また塩w》
「母さんが作ったからな」
《お母さんいるんだ》
「いるよ」
《森おじさん46だよね?》
「そう」
《お母さん元気?》
「畑出てるくらいには」
《いいね》
健司は少しだけ笑った。なんでもない会話だ。だが、昨日まで知らなかった人間が母のことやゴンのことを知っている。変な感覚だった。ダンジョンの奥へ進む。この辺りは昨日通っていない。道が少し狭くなっている。照明用魔導具の間隔も広い。
「この先、ちょっと暗いな」
《行くの?》
「少しだけ」
《森おじさん慎重》
「帰れなくなったら困るからな」
《借金残して死ねないもんな》
「それもある」
《そこなのw》
足元の岩を越える。しばらく魔物は出なかった。代わりに、小さな羽根が落ちていた。白い。健司は立ち止まった。
「鳥?」
しゃがみ込む。手に取る。真っ白な羽毛。普通の鳥より柔らかい。
《なんか落ちてる?》
「羽根だな」
《魔物の?》
「分からん」
周囲を見る。壁際。岩。細い横穴。羽根がもう一枚。さらに先にも。
「なんかいるな」
健司はゆっくり歩く。ドローンも後ろからついてくる。横穴の奥。小さな鳴き声がした。ピィ。
「ん?」
もう一度。ピィ、ピィ。
《鳥?》
《なんか鳴いた》
《かわいい声》
健司は剣を抜かなかった。声が小さすぎる。危険な魔物の気配ではない。岩の陰を覗く。そこに白い塊があった。
「……なんだこれ」
手のひらより少し大きい。丸い。真っ白。鳥なのは分かる。だが身体のほとんどが羽毛に埋もれていて、ほぼ毛玉にしか見えない。黒い小さな目。短い嘴。そして片方の翼が不自然に下がっていた。
《かわいいいいいい》
《何これ!?》
《毛玉》
《シマエナガみたい》
《魔物?》
健司はしゃがみ込んだ。白い鳥がこちらを見る。逃げようとした。だが翼を動かした瞬間、痛そうに身体を縮める。
「怪我してるのか」
ピィ。
「待て待て。何もしない」
手を伸ばす。鳥が少し後ろへ下がる。岩壁。逃げ場がない。健司はそれ以上近づかなかった。
「無理に捕まえるのもな」
《助けてあげて》
《森おじさんお願いします》
《絶対連れて帰って》
「まだ何の魔物か分からんぞ」
《かわいいから大丈夫》
「その理屈危ないだろ」
コメントを見ながら少し困る。すると鳥がもう一度動こうとした。翼が震える。身体が傾き、そのままころんと横へ転がった。
「おいおい」
健司は思わず手を出した。両手で受け止める。軽い。驚くほど軽い。そして柔らかい。
「……すごいな」
《触った》
《もふもふ》
《羨ましい》
《アップにして》
「カメラ、勝手にやるんじゃないの?」
ドローンが少し近づいた。
「本当に近づいた」
《AI優秀》
白い鳥は健司の手の上で震えている。暴れない。怖がっているようだが、それ以上に弱っている。健司は翼を見る。傷がある。血はほとんど止まっているが、羽根の一部が乱れていた。
「これじゃ飛べないな」
鞄から小型の救急用品を出す。自分用だ。魔物に使っていいのか分からない。だが傷そのものは普通の鳥と大きく変わらないように見える。
「消毒して大丈夫なのかな」
《ギルドに聞け》
《しずくちゃんに電話》
「配信で名前出すなよ」
《昨日普通に呼んでた》
「そうだっけ?」
片手でスマートフォンを取り出す。ギルドへ電話。受付につながる。
「もしもし」
『探索者ギルドです』
「しずく?」
『森おじさん?』
「今ダンジョン」
『配信見てますよ』
「じゃあ話早いな。これ何?」
『今確認してます』
少し待つ。配信コメントはすごい速度で流れている。健司には追えない。
『分かりました』
「何?」
『スノーエナガです』
「スノーエナガ?」
『小型の鳥型魔物。F級指定ですね。基本的に大人しくて、人を襲うことはほとんどありません』
「へえ」
鳥を見る。確かに襲ってきそうには見えない。
『冷気系の微弱な魔力を持ってます。でも単体では戦闘能力ほぼないです』
「なんでダンジョンにいるんだ?」
『普通は群れで生活してます。この個体は何かに襲われたのかもしれません』
「怪我してる」
『見えてます』
「連れて帰っていい?」
電話の向こうで少し沈黙。
『森おじさん、もう飼う気なんですか?』
「いや、治るまで」
コメントが爆発した。
《治ったら返す気ないやつ》
《絶対飼う》
《森おじさん家へようこそ》
「勝手に決めるな」
『テイム登録すれば連れ出せますけど、まずギルドへ持ってきてください。診てもらった方がいいです』
「分かった」
『あと、素手で触ってますけど』
「大人しいぞ」
『森おじさん……』
「何?」
『いえ。気をつけて帰ってください』
電話を切る。スノーエナガを見る。
「帰るか」
ピィ。返事なのかどうか分からない。健司はタオルを一枚出し、簡単な巣のようにして鞄の上へ乗せた。しかし手を離そうとすると、スノーエナガが健司の指へ小さな足をかけた。
「ん?」
離れない。
「ここにいた方がいいの?」
ピィ。
《懐いてるw》
《もうテイム成功してない?》
《森おじさん持って帰れ》
仕方なく、片手に乗せる。軽いので問題はない。だが剣を使えなくなる。
「これじゃ戦えんな」
《帰ろう》
「そうする」
予定より早い。まだ昼にもなっていない。だが怪我した魔物を抱えたまま探索を続ける気にはなれなかった。引き返す。途中でゴブリンの気配がした。健司は足を止める。正面。一体。片手にはスノーエナガ。剣を抜くには一度どこかへ置かなければならない。
「困ったな」
ゴブリンがこちらへ気づいた。走ってくる。健司は周囲を見る。置ける場所。ない。コメント。
《逃げて》
《毛玉守れ》
《森おじさん後ろ!》
健司は一歩下がった。ゴブリンが短刀を振り上げる。その瞬間。健司の右手が腰の剣へ伸びた。左手のスノーエナガを胸元へ寄せる。右手だけで剣を抜く。一歩。身体を捻る。振る。片手の剣が、ゴブリンの短刀より先に届いた。首元へ一閃。ゴブリンが倒れる。健司は剣を止めた。
「……片手でもいけたな」
コメントが一瞬止まる。そして流れ始めた。
《は?》
《今の何》
《速》
《Fランク???》
《毛玉抱えて片手で倒したぞ》
《森おじさん強くない?》
「ゴブリンだぞ」
《そういう問題じゃない》
《剣うますぎ》
健司は鞘へ剣を戻した。スノーエナガを見る。
「驚いたか?」
ピィ。
「俺もちょっと驚いた」
自分でも、どうやって動いたのかよく分からなかった。考える前に身体が動いた。昔の経験。農業で落ちていない身体。それが合わさったのだろう。健司はそう思った。それ以外の理由など知らない。そのままダンジョンを出る。配信の視聴者数を見る。86人
「増えてる」
《毛玉効果》
《スノーエナガ見に来た》
《切り抜きから来た》
「切り抜き?」
《もう動画上がってる》
「早くない?」
《ネットは早い》
健司にはよく分からない世界だった。ギルドへ戻る。入口でしずくが待っていた。
「森おじさん!」
「おう」
「見せてください!」
「俺?」
「スノーエナガです!」
「そうだよな」
しずくが健司の手の上を見る。
「かわいい……」
声が小さくなった。
「触る?」
「いいんですか?」
「本人に聞いて」
「本人って」
しずくが指を伸ばす。スノーエナガが少し警戒する。すぐに健司の手の中へ身体を寄せた。
「あ」
「嫌だって」
「森おじさんには懐いてるのに」
「さっき拾っただけだぞ」
「それで懐くのがおかしいんですよ」
ギルド内に連れて行く。簡単な確認をしてもらう。翼の怪我は軽い。数日安静にすれば飛べるようになる可能性が高い。
「じゃあ、治るまで家で預かる」
「テイム登録します?」
「テイム?」
「飼育というか、正式に従魔として登録するなら必要です」
「治ったら仲間のところに帰るだろ」
健司が言うと、スノーエナガが手の中から顔を上げた。
「な?」
ピィ。しずくが笑う。
「それ、帰る返事には聞こえませんけど」
「鳥語分かるの?」
「分かりません」
「じゃあ同じだろ」
ひとまず保護個体として手続きをする。配信はまだ続いていた。
《名前つけよう》
《もち》
《しろたま》
《大福》
《ユキ》
コメントが流れる。
「名前?」
《必要》
「治ったら帰るぞ」
《絶対帰らない》
《もう森おじさんの鳥》
健司は白い毛玉を見る。名前。まだ必要ないだろう。そう思った。だが、呼ぶとき不便ではある。
「白いから……シロでいいか」
コメント欄。
《雑》
《犬みたい》
《もっとかわいい名前にして》
「難しいな」
スノーエナガが健司の指を軽くつついた。
「腹減った?」
しずくが資料を見る。
「果実とか、ダンジョン産の小さな木の実を食べるみたいですね。普通の果物も食べる個体はいるそうです」
「うち果物あるぞ」
「何があります?」
「今ならスイカ」
「いきなり大きいですね」
「あとブルーベリー」
「そっちから試してください」
「分かった」
ギルドを出る。配信を終了する前に、今日の結果を見る。最大視聴者。103人応援。5,620円
「五千円?」
《毛玉の餌代》
《治療費に》
《スノーエナガ基金》
健司は少し困った。
「こんなにもらっていいの?」
《いい》
《明日も見せて》
《ゴンとの対面配信お願いします》
「ゴン?」
そうだった。家にはゴンがいる。鶏もいる。
「鳥同士、大丈夫かな」
《鶏は鳥だけど違うw》
「まあ、ゴンは大人しいから大丈夫だろ」
配信を終える。軽トラックへ乗る。スノーエナガは助手席。タオルを畳み、その上に乗せた。発進する。信号で止まるたびに、助手席を見る。白い毛玉がじっとこちらを見ている。
「お前、本当に帰る気ある?」
ピィ。
「まあ、治ってから考えるか」
家へ着く。軽トラックの音を聞いて、ゴンがゆっくり門まで来た。
「ただいま」
いつものように頭を撫でる。そのあと助手席のドアを開けた。
「今日は客いるぞ」
スノーエナガを手へ乗せる。ゴンが止まった。白い毛玉も止まった。互いを見る。
「仲良くしろよ」
ゴンが鼻を近づける。スノーエナガは少し身体を膨らませた。だが逃げない。ゴンが匂いを嗅ぐ。一度。二度。それだけ。興味を失ったように健司の横を通り過ぎ、縁側へ戻っていった。
「そんなもんか」
健司も後を追う。すると、スノーエナガが健司の手から小さく跳ねた。飛べない。だが短い距離だけ羽ばたく。そして――。ゴンの背中へ着地した。ゴンが振り返る。スノーエナガが動かない。ゴンも動かない。数秒。ゴンはそのまま縁側へ歩いていった。白い毛玉を背中へ乗せたまま。
「……いいのか?」
ゴンは答えなかった。家の中から母が出てくる。
「あら」
ゴンの背中を見る。
「白いのが乗ってるねえ」
「ダンジョンで拾った」
「そうかい」
母は特に驚かなかった。
「怪我してるから、しばらく家に置く」
「餌は?」
「ブルーベリー食べるらしい」
「冷蔵庫にあるよ」
「あるの?」
「昨日採ったじゃない」
「ああ、そうだった」
母が家へ戻る。健司はゴンを見る。その背中。スノーエナガ。庭。鶏。亀。また一匹、変なのが増えた。
「まあ、いいか」
健司は縁側へ腰を下ろした。三百万円の借金はまだ二百九十万円残っている。今日も返済できるほど稼いだわけではない。それでも配信を始め、少し収入が増えた。剣も昨日より扱いやすい。そして、白い毛玉を一匹拾った。慌ただしいようで、家へ戻ればいつもの田舎だった。母がいる。ゴンがいる。鶏がいる。庭には亀がいる。そこへ今日から、スノーエナガが加わった。
「名前、どうするかな」
健司が呟く。ゴンの背中から、
「ピィ」
と小さな声が返ってきた。




