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借金の保証人になった優しい田舎のおじさんのダンジョン配信  作者: 月瀬 リュカ


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37/38

第37話 昔のDランクまで、あと少し


朝、鶏小屋を覗いた健司は、昨日より小さな頭が一つ増えていることに気づいた。

「三羽目か」

昨日の昼までに二羽。夜のうちに、もう一羽が殻から出ていたらしい。親鶏の羽の下から、黄色い頭が三つ見えたり隠れたりしている。残る卵は三個。そのうち一つには、すでに小さな亀裂が入っていた。

「順番に出てくるな」

健司は扉の外から眺めるだけにした。後ろではゴンが座り、その背中にはモチが乗っている。

「お前、最近ここ来るの早くない?」

「ピィ」

「ヒヨコ気になる?」

「ピィ!」

「近づくなよ」

健司が指を向けると、モチは首を傾げた。

「見るだけ」

「ピィ」

「分かった?」

モチはゴンの背中から飛んだ。健司の頭の周りを一周して戻る。

「回れじゃない」

「ピィ!」

「だから勝手に芸してもブルーベリー出ないって」

もう一周しそうになったので、健司は手を出した。

「おいで」

モチは素直に腕へ乗る。

「こっちはちゃんとできるな」

ブルーベリーを一粒渡した。

「芸は言われたときだけ」

「ピィ」

「本当に分かってるかな」

ゴンは二人のやり取りに興味がないのか、ゆっくり伏せた。健司はゴンの頭を撫でてから、自宅の畑へ向かった。雨が上がってから二日。土の状態もだいぶ戻っている。ナス、トマト、キュウリ。それぞれを見ていく。最近は《土魔法Ⅰ》を覚えたせいで、畑を見ると「ここなら魔法でできるか」と考えるようになっていた。

ただ、実際にやってみると、だいたい鍬やスコップの方が早い。

「ここは……」

畑の端。浅い溝。昨日より少し崩れている。

「これくらいなら魔法だな」

手を向ける。土がゆっくり動く。崩れたところだけ寄せる。十秒ほど。

「よし」

こういう細かい修正なら便利だった。わざわざ納屋まで道具を取りに戻らなくていい。

《修繕Ⅰ》の方も、昨日鶏小屋の蝶番を直したときに役立った。

強くなったというより、暮らしの中でちょっと便利になった。健司にはそのくらいがちょうどよかった。朝食へ戻ると、母親が味噌汁をよそいながら言った。

「三羽になったよ」

「見た」

「もう見たの?」

「畑行く前に」

「早いねえ」

「母さんも見たんだろ?」

「さっき」

「同じじゃん」

健司はご飯を食べる。スマートフォンには長谷川から連絡が入っていた。

《主管・排水・照明設備の本接続が完了しました》

《本日午前に最終運転試験を行います》

《問題がなければ、明日から通常運用へ戻せます》

「農園、もう直りそうだって」

「良かったね」

「思ったより早かったな」

「三百万だもんね」

「二百九十八万だよ」

母親が健司を見る。

「二万円しか違わないよ」

「二万円は大きいぞ」

「はいはい」

すっかり呆れられていた。健司は残高も確認する。

《借入残高 2,800,000円》

二百八十万円。二回、十万円ずつ返した。一回目で《土魔法Ⅰ》。二回目で《修繕Ⅰ》。偶然とは思いにくい。しかし、誰から移ってきたのかは今も分からない。

「今日は返さないの?」

母親が聞いた。

「毎日返す金ないよ」

「昨日ダンジョンで稼いだんでしょ?」

「昨日は家にいたよ」

「ああ、ヒヨコだったね」

「そう」

「いっぱい見てた人いたんでしょ?」

「二万人超えたらしい」

「二万人?」

母親が少し驚いた。

「そんなに?」

「俺も驚いた」

「ヒヨコ三羽しかいないのに」

「昨日は二羽だよ」

「もっと少ないね」

「そこ?」

母親は首を傾げた。

「二万人も何を見るの?」

「俺も知りたいよ」

「ゴン?」

「多分」

「モチ?」

「それも」

「ヒヨコ?」

「それも」

「健司?」

「最後かよ」

母親が笑った。昨日の配信収益はまだ確定していない。投げ銭も広告収入も、すぐその場で全部振り込まれるわけではない。だから入ってくる前の金を当てにして返済するつもりもなかった。

「今日はどうするの?」

「ギルド行ってくる」

「農園?」

「様子見て、入れなかったら普通にダンジョンかな」

「また魔物?」

「仕事だからな」

「怪我しないでね」

「危なかったら帰るよ」

「それならいいね」

母親は納得した。今日のおにぎりは二つ。

「何入ってる?」

「梅とおかか」

「二種類?」

「昨日そうめんだったから」

「関係ある?」

「ないよ」

「そうだよな」

一つずつ種類が違うらしい。

「豪華だな」

「また?」

「二種類あるぞ」

「健司って本当に安上がりだね」

「褒められてる?」

「どうだろうねえ」


◇


ギルドに着くと、しずくが健司の顔を見るなり端末を手招きした。

「森おじさん、ちょっとこっち来てください」

「何?」

「いいから」

「借金?」

「違います」

「農園?」

「それも違います」

「じゃあ何」

受付前まで行く。しずくが画面を健司側へ向けた。

「これ」

表示されていたのは、探索者記録だった。

《森健司》

《現ランク:E》

そこまでは知っている。その下。

《Dランク昇格審査 申請可能》

「……これ何?」

「読めば分かるじゃないですか」

「Dランク?」

「はい」

「もう?」

しずくが少し呆れた。

「『もう』って言いますけど、森おじさん、元々Dランクだったんですよ」

「昔はな」

「再登録後も活動実績かなり積んでます」

「農園ばっかりじゃない?」

「農園以外も入ってます」

しずくが記録を開く。Eランク区域での探索。複数回の帰還、魔物討伐、採取、安全記録。ダンジョン農業区画の現地協力。危険な魔物を無理に討伐せず、区画から誘導した記録まで入っている。

「大口陽花の件も?」

「当然です」

「倒してないぞ」

「倒すことだけが評価じゃありません」

「そうなの?」

「特にDランク以上はそうです。危険判断ができない人を上へ上げたくないですから」

「それはそうだな」

「森おじさんの場合、むしろ危険判断が評価されてます」

「逃げてるだけだけど」

「それをちゃんとできない探索者が多いんです」

健司は画面を見る。

「昔のDランクって考慮される?」

「多少は。ただし自動復帰はしません。十年以上空いてますし」

「だよな」

「でも再登録してからの記録を見ても、もう申請自体は可能です」

「申請したらすぐD?」

「まさか」

「だよな」

「簡単な実地確認があります」

しずくが別の画面を開く。

「Dランク昇格候補者は、指定された探索区域で一回、行動記録を取ります。別にボスを倒す試験とかじゃありません」

「何見るの?」

「探索能力、安全判断、戦闘、撤退判断、装備、帰還まで。総合です」

「普通に潜るだけ?」

「ほぼ」

「試験官ついてくる?」

「今はドローン記録と遠隔確認が多いです」

「配信していい?」

「区域によりますけど、基本的には可能です」

健司は少し考えた。

「Dになると何か変わる?」

しずくが一瞬黙った。

「普通、そこから聞きます?」

「ランク自体は昔もDだったから」

「入れる区域が増えます。依頼の報酬も上がります。採取できる資源も増えます。あと、ダンジョン農園の管理上も少し便利ですね」

「農園?」

「旧試験農業区画より奥側の保守区域、一部Dランク以上が条件になってます」

「ああ」

「今は研究部の特別許可で入ってますけど、毎回申請が必要な場所があります」

「Dならいらない?」

「全部ではないですけど、かなり減ります」

健司の反応が変わった。

「じゃあ取っとくか」

「そこなんですね!」

「便利になるんだろ?」

「報酬上がる方には反応しないんですか?」

「そっちも大事」

「後から付け足した」

「借金二百八十万あるぞ」

「それはそうですけど」

しずくが申請画面を開く。

「じゃあ、本当に申請します?」

「危ない試験じゃない?」

「危険だったら帰っていいです」

「試験中でも?」

「むしろ帰るべき状況で帰らない方が評価下がります」

「それならいい」

「森おじさん向きすぎる……」

「何が?」

「いえ」

健司は申請に同意した。画面が切り替わる。

《Dランク昇格実地確認 申請受付》

「いつ?」

「最短で三日後」

「農園の復旧終わったあとだな」

「ちょうどいいですね」

「じゃあそれで」

「緊張しないんですか?」

「昔Dだったし」

「十年以上前ですよ」

「試験で強い魔物倒せって言われないなら」

「そこだけなんですね」

しずくは笑った。


◇


「Dランクの試験受けることになった」

配信を始めてすぐ、健司がそう言うと、コメント欄が一気に流れた。

《おおお》

《ついに》

《元D復帰》

《早い》

「まだ受かってないよ」

《試験いつ》

「三日後くらい」

《今日は?》

「普通にEランク」

《試験対策》

「しない」

《しろw》

「普段通りできないと意味ないだろ」

《正論》

《装備新調しない?》

「今ので問題ない」

《土魔法特訓》

「畑でやってる」

《違うそうじゃない》

「同じ魔法だぞ」

今日の農園は最終運転試験中なので、昼までは立ち入りできない。健司はそれまで近くのEランク区域へ入ることにした。

「稼げる範囲で稼ぐ」

《借金返済》

「そう」

《今日は返す?》

「稼ぎ次第」

《スキルガチャ》

「ガチャじゃない」

《次何出るかな》

「それ目当てで返さないって」


◇


ダンジョンへ入る。今日は以前にも通ったことのある区域。岩場と土の道が混じっている。大雨の影響はここにも少し出ていた。壁から水が染み出している場所が多い。

「足元滑るな」

健司は歩く速度を落とした。

《土魔法で固めたら?》

「全部?」

《道》

「何百メートルあると思ってるんだ」

《Ⅰだもんな》

「そういうこと」

少し先で、二人組の探索者が立ち止まっていた。若い男二人。片方が壁際に置かれた案内標識を触っている。

「どうした?」

健司が声をかける。

「あ、森さん?」

「知ってる?」

「配信見てます」

「ありがとう」

男が指差す。

「この標識、倒れてて」

金属製の支柱が根元から傾いている。

《右:第二採取区》

《左:帰還路》

本来なら壁へ固定されているものだった。

「雨で緩んだ?」

「たぶん」

健司がしゃがむ。見る。触る。

《修繕Ⅰ》のおかげなのか、原因がなんとなく分かった。

「固定具が一本抜けてるな」

「直せます?」

「部品ないと完全には無理」

健司は周囲を見る。落ちたボルトが少し離れたところにあった。

「これか」

拾う。変形している。

「これは使わない方がいい」

《修繕スキル》

「分かるだけで新品出てこないからな」

土台がぐらついている。健司は《土魔法Ⅰ》で根元の土だけ軽く寄せた。支柱を仮に立たせる。

「応急ならこれでいい」

自分の携帯工具から固定用バンドを出す。壁の別の金具へ繋ぐ。完全修理ではない。でも倒れて道を塞ぐ状態ではなくなった。

「ギルドに報告しとく」

「ありがとうございます」

「帰還路の標識だからな。逆に行ったら面倒だろ」

《修繕Ⅰめっちゃ使う》

「こういうのには便利だな」

《戦闘より活躍してる》

「俺はこっちの方がいいよ」

標識の位置情報を記録し、ギルドへ送る。そのまま進む。しばらくすると、健司の足が止まった。

「……水の音するな」

《どこ》

「前」

曲がり角の先。小さな地下水路がある。普段なら飛び石を使って渡れる場所だった。しかし今日は水量が増えている。石の半分が水に沈んでいた。

《行ける?》

健司はしばらく見る。

「行けると思う」

《じゃあ行く?》

「行かない」

《出たw》

「今日は水多い。滑ったら濡れるだけじゃ済まんかもしれない」

《迂回?》

「ある」

地図を見る。十分ほど遠回り。

「十分快適に歩く方選ぶ」

《試験でもこれやりそう》

「やるよ」

《評価高そう》

「知らん」

遠回りした先で、《角兎》が二体出た。これは普通に倒す。最初の一体、剣、一撃。二体目が横へ跳ぶ。健司は足元の土をほんの少し持ち上げた。着地点がずれる。

「今」

剣を振る。倒れた。

《土魔法慣れてきた》

「ちょっとだけな」

《強くなってる》

「魔法がうまくなってるだけ」

《それを強くなってると言う》

「そう?」

本人にはあまり実感がなかった。

《土魔法Ⅰ》はⅠのまま。

大きな岩を動かせるわけでもない。しかし、地面へ少し干渉するだけで、戦い方の選択肢は増えた。転ばせる。足をずらす。踏み込みを遅らせる。それだけで十分だった。午前中は大きな戦闘もなく終わった。魔石、薬草、小型素材。欲張らず、持てる分だけ。

「そろそろ戻る」

《まだ午前》

「農園の試験終わる時間だから」

《結局畑》

「今日はそっちも仕事」


◇


昼前にギルドへ戻ると、しずくが健司を呼び止めた。

「森おじさん」

「何?」

「さっきの標識の報告、ありがとうございます」

「もう修理行く?」

「管理班が向かいました」

「ならよかった」

「あと、今日の探索記録なんですけど」

「もう見たの?」

「Dランク昇格申請したので、自動的に候補者記録へ入ってます」

「試験まだだぞ」

「試験だけで決めるわけじゃないんです」

「そうなの?」

「普段の活動も見ます」

しずくが画面を見ながら笑う。

「増水した水路を迂回」

「うん」

「破損標識を応急補修して報告」

「うん」

「不要な戦闘なし」

「うん」

「角兎二体討伐。負傷なし」

「うん」

「……森おじさん、試験も今日と同じでいいと思います」

「本当に?」

「むしろ変なことしないでください」

「しないよ」

《試験対策:普段通り》

配信コメントが見えていた。

「それなら楽だな」

しずくが少し真面目な顔になる。

「昔Dランクだったことを抜きにしても、今の森おじさんならDランクは十分視野に入ってます」

「そう?」

「はい」

「じゃあ昔まで戻れるか」

「戻れますよ」

「十年以上かかったな」

「そのうちほとんど探索者やってないじゃないですか」

「そうだった」

「ブランク期間を数えないでください」


◇


農園へ着いたころ、ちょうど設備の最終試験が終わったところだった。長谷川が笑顔で迎える。

「森さん、問題ありませんでした」

「全部?」

「主管、排水、魔力灯、管理通路の補強。全項目合格です」

「じゃあ直った?」

「はい」

健司は管理通路を見る。崩落した場所には新しい補強材が入っている。配管も交換済み。以前より少しだけ無骨になったが、しっかりして見える。

「二百九十八万」

長谷川が笑う。

「そこなんですね」

「俺の借金だからな」

《値札を見る農家》

「高い買い物だぞ」

《買ったのは通路》

「俺のじゃないけど」

《さらに悲しい》

「言うな」


◇


農園へ入る。三十六株。全株生きている。応急対応を続けている間に枯れた株はなかった。

「よかったな」

健司は一番手前の株を見る。葉も広がっている。茎も太くなった。崩落騒ぎがなければ、もっとじっくり変化を見ていただろう。

「明日から普通に戻せる?」

「はい。ただし数日は設備監視を強めます」

「それがいいな」

「旧種子保管庫への通路も安全確認が終わりました」

「開けられる?」

「開けられます」

《種部屋》

《忘れてた》

「俺は忘れてないよ」

《五年+数日待った種》

「もうちょっと待てるだろ」

《また種に言ってる》

健司はすぐ開けようとはしなかった。

「今日はやめとく」

長谷川が意外そうに見る。

「よろしいんですか?」

「もう昼過ぎてるし」

「安全確認は済んでいます」

「明日でもあるだろ」

《待てる男》

「急いで開ける理由ないからな」

それより三十六株の状態を確認する。水、照明、土を順に確認した。設備が戻ったなら、それをきちんと見る方が先だった。


◇


昼食は農園の休憩場所。

「今日は二種類」

《豪華》

「梅とおかか」

《R+R》

「足すな」

一つ目。

「梅」

《普通》

「普通がいいんだよ」

二つ目。

「おかか」

《昨日酢昆布だったから安心感》

「酢昆布も悪くなかったぞ」

《母ちゃんに伝えて》

「また入れられるだろ」

《それが狙い》

「やめろ」

モチはいない、ゴンもいない、ヒヨコも家。

《今日は森おじさんしかいない》

「だから俺の配信だって」

《Dランク候補》

「まだE」

《もうすぐD》

「受かればな」

《受かったら祝い羊羹?》

健司は少し考えた。

「それいいな」

《そこ食いつく》

「栗羊羹でも買うか」

《自分で祝い》

「誰が買ってくれるんだよ」

《母ちゃん》

「母さんは普通の羊羹買ってくると思う」

《十分》

「十分だな」


◇


家へ帰ると、玄関へ入る前に母親が庭から呼んだ。

「健司」

「何?」

「また生まれたよ」

鞄を置く前に鶏小屋へ向かう。親鶏の下。黄色い頭が四つ。

「四羽になった?」

「なった」

残る卵は二個。一個には亀裂。もう一個はまだ変化なし。

「順調だな」

ゴンが鶏小屋の前に伏せている。モチは少し離れた柵の上。

「お前、ちゃんと離れてるじゃん」

「ピィ」

「偉い」

ブルーベリーを一粒。モチが食べる。

「今日は回らなくていいぞ」

そう言った直後、回った。

「だから言ってない」

母親が笑う。

「芸するの好きなんじゃない?」

「ブルーベリー好きなだけだと思う」

「同じじゃない?」

「違うだろ」

健司は鶏小屋の前にしゃがんだ。

「母さん」

「何?」

「Dランクの試験受けることになった」

「D?」

「探索者のランク」

「ああ。昔もDじゃなかった?」

「そう」

「じゃあ戻るの?」

「受かれば」

「良かったね」

「まだだよ」

「受かるんでしょ?」

「分からないって」

母親はあまり心配していない。

「危ないことするの?」

「普通にダンジョン歩くだけらしい」

「じゃあ大丈夫でしょ」

「その評価どうなんだ」

「危なくなったら帰るんでしょ?」

「帰る」

「なら大丈夫」

健司は少し笑った。

「しずくにも同じようなこと言われた」

「そう」

「俺の評価ってそれなのかな」

「帰ってくるの大事だよ」

「まあな」

鶏小屋では、四羽目のヒヨコが親鶏の羽の下から顔を出した。ゴンが静かに見ている。モチも柵の上から首を伸ばしている。健司はその様子を眺めた。借金は二百八十万円。農園は復旧した。ヒヨコは四羽。そして、三日後にはDランクの実地確認。十年以上前に手放したランクへ、ようやく戻れるかもしれない。

健司自身は、それほど感慨深いわけではなかった。

「Dになったら、農園の奥も入りやすいんだよな」

母親が聞く。

「そこ?」

「便利だろ」

「健司らしいね」

「そうかな」

健司は立ち上がった。家の畑を見る。明日の朝も、まずはあそこからだった。


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