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借金の保証人になった優しい田舎のおじさんのダンジョン配信  作者: 月瀬 リュカ


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18/19

第18話 約束の一週間

約束した一週間が過ぎた。森健司は、畑から戻ると縁側へ腰を下ろした。帽子を脱ぎ、首へ掛けていたタオルで額を拭く。今日も暑い。ゴンは縁側の下の日陰で完全に伸びている。その背中にはモチ。白い羽毛を丸く膨らませていた。

「お前、暑くないの?」

ピィ。

「白いから平気?」

ピィ。

「適当に返事してるだろ」

健司は麦茶を飲んだ。冷たい。うまい。午前中はトマト、ナス、キュウリを収穫して直売所へ持っていく分をまとめた。配信はしていない。毎日カメラを回す必要はない。農家には農家の仕事がある。そして今日は、もう一つやることがあった。スマートフォン。金融会社。開く。保証債務残高 520,000円変わっていない。数日前からずっと五十二万円。最後の一人。久我玲奈。A級探索者。魔法使い。上原たち五人の中で、まだ自分の負担分を払っていない唯一の人物。岩崎からは何度か連絡が来た。説得している。上原も話している。水野も。榊も。しかし久我は払わない。そして一週間。終わった。

「……仕方ないか」

健司はスマートフォンを置いた。ゴンが一度だけ目を開く。

「待ったよな?」

ゴン。目を閉じる。

「一週間」

ピィ。

「そうだよな」

誰に確認しているのか、自分でも分からない。ただ約束した。一週間は待つ。それ以上は待たない。借金。自分の名前。保証人。支払い義務。今月は余裕がある。十万円払っても農業経費には影響しない。生活費も残る。装備修理も問題なし。なら返す。それだけ。家の中から母の声。

「健司」

「なに?」

「スイカ切ったよ」

「食べる」

借金返済の直前にスイカ。健司らしい。居間。皿。赤いスイカ。母が一切れ。健司も一切れ。モチがついてくる。

「お前は駄目」

ピィ。

「食べられるか分からん」

母。

「少しくらい」

「分からんものはやめとこう」

「そう?」

ゴンには種を除いた少量だけ。健司の手のひらから食べる。

「お前はちょっとだけな」

母が笑う。

「甘いね」

「ゴンに?」

「モチにも」

「母さんもだろ」

「私は普通だよ」

「ブルーベリー毎日出してるじゃん」

「あれは果物だから」

理由になっていない。スイカを食べながら健司が言う。

「今日、十万円返すよ」

母。

「あの借金?」

「うん」

「あと五十二万円だったでしょう?」

「そう」

「最後の人、払わなかったの?」

「払わなかった」

母。少し残念そうな顔。

「あら」

「一週間待ったから」

「そう」

「十万円だけ」

「全部じゃないの?」

「全部はちょっと怖い」

「怖い?」

健司はギフトのことを母には細かく説明していない。最近、借金を返すと変なことが起きる。そのくらい。

「一度にいっぱい返すと、どうなるか分からないから」

母は少し考える。

「じゃあ少しずつでいいんじゃない?」

「そうする」

「無理しないでね」

「うん」

健司はスイカを食べ終えた。スマートフォン。金融会社。返済。金額。100,000円指。止まる。この十万円。払えばまた何かが起きる可能性が高い。最初。

《剣術Ⅰ》。

次。

《身体強化Ⅰ》。

三回目。

《気配察知Ⅰ》。

そして上原たちが直接返したときは何も起きなかった。条件。ほぼ間違いない。自分が他人の借金を肩代わりして返したとき。

《肩代わり》が動く。

今、残っている共犯者は久我一人。なら次に誰から来るのか。考えたくなくても分かってしまう。久我の主力。

《火炎魔法Ⅲ》。

「……火か」

母。

「何?」

「いや」

畑と火。絶対相性が悪い。

「火事だけは気をつけないとな」

「何の話?」

「何でもない」

母が不思議そうな顔。健司は画面を見る。100,000円。

「払うか」

押す。確認。もう一度。押す。処理中。数秒。完了。

《返済を受け付けました》

残高はすぐには反映されない。そして。来た。胸の奥。ほんの少し温かい。熱いではない。体内を細い何かが通る。以前、三回。同じ。健司は目を閉じた。数秒。消える。

「……来たな」

母。

「何が?」

「多分、あれ」

「痛いの?」

「痛くない」

「ならいいけど」

母はスイカの皿を片付ける。健司は自分の手を見る。変化はない。指。普通。熱くもない。火も出ない。

「どうやって分かるんだ?」

《剣術》は剣を持てば分かった。

《身体強化》は荷物を持てば分かった。

《気配察知》は周囲で分かった。

火炎魔法。もし本当に来ているなら、どうする。健司には魔法を使った経験がほとんどない。昔Dランク探索者だった頃も剣と採取が中心。

「……やめとこ」

家で試すものではない。畳。木造。古い家。火。最悪。

「母さん」

「何?」

「俺、ちょっと外行く」

「畑?」

「畑じゃないところ」

「どこ?」

「空き地」

母。さらに不思議。

「何するの?」

「火が出るか見る」

沈黙。母。

「健司」

「うん」

「家の近くでやらないでね」

「だから空き地」

「消防車来るようなことしないでね」

「しないよ」

「本当に?」

「多分」

「多分は駄目だよ」

正論。結局、火を出す実験は中止。

「ギルド行くか」

そこなら魔法訓練場がある。安全。消火設備。人。何かあっても対応できる。軽トラック。準備。モチが飛んでくる。

「今日はギルド」

ピィ。

「籠」

モチが自分から入る。以前より抵抗しなくなった。ゴンは寝たまま。

「ゴンは留守番」

尻尾が一回。母。

「晩ご飯までには帰る?」

「帰る」

「火、気をつけてね」

「まだ出るって決まってないよ」

「出るかもしれないんでしょう?」

「まあ」

「じゃあ気をつけて」

「はいよ」

田舎道。軽トラック。健司は運転しながら何度か右手を見る。当然、何もない。

「火炎魔法か」

もし本当にそうなら。剣。身体。索敵。そして魔法。元Dランク。今Eランク。能力だけ見ればかなり変わってきた。でも本人は、あまり嬉しくない。

「使い道あるかな」

ピィ。籠から声。

「畑で草焼く?」

ピィ。

「駄目だな」

火炎魔法で雑草処理。絶対に何か間違っている。ギルド。自動ドア。受付。しずく。

「森おじさん」

「おう」

視線。籠。

「モチ!」

「今日はいるぞ」

しずく。嬉しそう。

「モチー」

籠を開ける。モチがしずくの肩へ。

「本当に俺より嬉しそうだな」

「そんなことないですよ」

「顔」

「業務中です」

「そういうことにしとく」

健司は受付へ。少し声を落とす。

「しずく」

「はい?」

「返した」

笑顔。消える。

「……十万円?」

「うん」

「今日が期限でしたっけ」

「一週間」

「久我さん、払わなかったんですか」

「残高変わらなかった」

「それで」

健司は胸へ手。

「来た」

しずく。さらに真剣。

「あの感覚?」

「うん」

「何が?」

「まだ分からん」

「簡易鑑定します?」

健司。即。

「三千円」

「まだ言う」

「高い」

「必要経費ですよ!」

「でも」

「でもじゃありません」

健司。考える。借金は残り四十二万円になるはず。今の状況。

「……やるか」

しずく。驚く。

「え」

「何?」

「素直」

「俺だって必要なら払うよ」

「羊羹何本って言わないんです?」

「もう計算した」

「したんだ……」

鑑定室。以前と同じ透明な石。椅子。端末。健司が右手を置く。

「二回目割引ない?」

「ありません」

「常連」

「常連になる施設じゃないです」

「スタンプカード」

「ありません!」

光。手。腕。身体。数十秒。終了。しずく。端末を見る。止まる。

「あった?」

「……ありました」

「やっぱり」

画面。保有ギフト。

《肩代わり》

確認技能。

《剣術Ⅰ》

《身体強化Ⅰ》

《気配察知Ⅰ》

そして一番下。

《火炎魔法Ⅰ》

健司。見る。

「火だ」

しずく。

「火ですね」

「いらないな」

「第一声それですか!?」

「だって農家だぞ」

「ダンジョンでは使えます!」

「剣ある」

「遠距離攻撃ですよ!」

「燃えたら素材駄目にならない?」

「そういう問題じゃ……いや素材によっては問題ですけど」

健司は画面を見る。

《火炎魔法Ⅰ》。

やはり来た。

「久我さん」

しずく。小さく。

「ですよね」

「多分」

「《火炎魔法》持ちなんですか?」

「岩崎さんから聞いた」

「ランクは?」

「Ⅲ」

しずく。息。

「じゃあ今」

「Ⅱになってるかもな」

完全移転。一段。一段。健司。少し顔を曇らせる。

「待ったんだけどな」

「一週間」

「うん」

「森おじさんが悪いわけじゃないです」

「そうなんだけど」

「返済義務は森おじさんに来てる」

「うん」

「払うって言ってくれれば待ったんでしょう?」

「うん」

「一週間ありました」

「そうだな」

しずく。

「久我さんが選んだ結果ですよ」

健司は紙を見る。そう。選べた。払う。払わない。一週間。その結果。健司が返した。ギフトが動いた。

「まあ、今さら戻せないしな」

「本鑑定なら戻す方法が」

「高い」

「そこは即答なんですね」

「完済したら考える」

「あといくらです?」

スマートフォン。更新。残高。420,000円。

「四十二万」

「本当にもう少し」

「最初三百万だったのにな」

「早かったですね」

「向こうが返したから」

「能力を失いたくなくて、ですけどね」

「理由は何でもいいよ」

健司。本音。

「借金なくなれば」

それで生活、畑、家を守れる。

「で」

「はい?」

「これどうやって使うの?」

しずく。

「あ」

《火炎魔法Ⅰ》。

「魔法訓練場行きましょう」

「無料?」

「そこ大事です?」

「大事」

「登録探索者は無料です」

「よし」

しずく。

「顔変わった」

地下。訓練場。防火。石壁。標的。消火設備。数人。探索者。端。魔法用区画。健司。立つ。しずく。少し離れる。モチ。しずくの肩。

「モチはもっと離した方がいい?」

「そうですね」

後方へ。

「森おじさん、魔法使ったことは?」

「ほぼない」

「魔力を意識できます?」

「昔ちょっと習った」

手。前。

「こう?」

「たぶん」

「たぶん?」

「私、魔法職じゃないです」

「先生呼んだ方がよくない?」

「まず火が出るか確認だけ」

「燃えたら?」

「ここ燃えません」

「ならいい」

標的。十メートル。健司。右手。意識。火。魔力。昔、初歩の魔石への魔力操作は習った。久しぶり。

「うーん」

何も出ない。しずく。

「もう少し集中」

「してる」

「火をイメージ」

「火」

何も。

「焚き火とか」

健司。焚き火。昔。落ち葉。

「燃やすなって言われるやつ」

「違います!」

「じゃあガスコンロ」

「何でもいいです!」

健司。コンロ。カチッ。青い火。

「……」

指先。熱。

「お」

小さい。ポッ。炎。指先から十センチほど。

「出た」

しずく。

「出ました!」

炎。すぐ消える。健司。手を見る。

「ライター?」

「魔法です!」

「弱いな」

「Ⅰですし、初めてですから!」

もう一度。意識。今度は少し理解。ボッ。炎の塊。拳より小さい。飛ぶ。標的へ届かず途中で消える。

「……短いな」

「練習すれば伸びます」

「これ戦闘で使える?」

「今は無理ですね」

「やっぱりいらない」

「すぐ捨てようとしない!」

周囲の探索者が何人か見る。Eランク。四十六歳。おじさん。初歩火魔法。何度も。ポッ。ボッ。消える。健司は真剣。しずくは笑いを堪えている。

「笑ってる?」

「笑ってません」

「顔」

「頑張ってください」

「何か馬鹿にされてるな」

五回。十回。少しずつ距離が伸びる。一メートル。二。三。標的にはまだ遠い。

「疲れる」

健司は腕を下ろす。身体ではない。内側。魔力。慣れない。

「これ身体強化と違って疲れるな」

「魔力消費です」

「農作業より疲れる」

「比較対象そこ?」

「俺には分かりやすい」

休憩。ベンチ。水。モチが戻る。健司の頭。

「熱くなかった?」

ピィ。

「お前の近くでは使わないから」

しずく。

「家でもやめてください」

「母さんにも言われた」

「当然です」

「畑でも?」

「乾燥してる時は絶対駄目」

「草焼きに」

「駄目です」

「やっぱり?」

「当たり前です」

健司は水を飲む。

《火炎魔法Ⅰ》。

今、自分の中にある。本当に能力が増えた。これで四つ。返済四回。スキル四つ。疑う余地はもうない。

「これ」

「はい」

「十万円ごとなんだな」

「少なくとも今のところ」

「じゃあ残り四十二万を俺が払ったら」

二人。黙る。単純計算。十万円。四回。あと四つ。端数二万円。どうなる。不明。

「やめた方がいいですね」

「俺もそう思う」

「一気に四十二万は」

「怖い」

「誰から何が来るかも分からない」

「向こうが払えば何も起きない」

「はい」

「なら残り払ってくれるの待つ」

「久我さん、今回のでさすがに……」

その時。スマートフォン。着信。知らない番号。

「誰だ?」

しずく。

「出ます?」

「うん」

通話。

「もしもし」

数秒。無音。女。

『森健司?』

声。強い。健司。すぐ察する。

「久我さん?」

しずくの目が見開く。

『……そうよ』

「こんにちは」

『……』

「どうしたの?」

久我。一瞬言葉が詰まる。

『あんた、今日返済した?』

「したよ」

向こうの呼吸。

『いくら』

「十万」

『……』

「約束の一週間だったから」

久我。声。低い。

『私の《火炎魔法》が落ちた』

健司。目を閉じる。やはり。

「Ⅲから?」

『Ⅱになった』

完全に一致。

「そうか」

『そうかじゃないわよ!』

しずくにも聞こえるくらいの声。久我。

『返して!』

「返し方知らない」

『あんたのギフトでしょう!』

「二十年以上使い方知らなかったんだよ」

『そんなの知らない!』

「俺も知らなかった」

『返しなさいよ!』

健司。少し黙る。怒鳴らない。

「久我さん」

『何よ』

「俺、一週間待ったよ」

『……』

「岩崎さんから聞いてた?」

『聞いてた』

「上原からも?」

『……聞いた』

「俺、期限過ぎたら返済するって言ったよね」

『だからって!』

「借金、俺のところに残ってたから」

『五十二万くらい――』

久我。止まる。自分で言ってしまった。五十二万くらい。健司。

「うん」

『……』

「五十二万くらいなら、払ってくれればよかったんじゃない?」

沈黙。長い。久我は何も言わない。健司も待つ。しずくも黙る。モチ。ピィ。電話の向こう。久我。小さな声。

『……むかつく』

「ごめん」

『謝らないでよ!』

「じゃあ謝らない」

『そういうところよ!』

健司。困る。何が正解か分からない。

「俺、火炎魔法欲しくて返したわけじゃないよ」

『でも取ったじゃない』

「借金返しただけ」

『……』

「返し方分かったら返す」

『本当に?』

「うん」

『信じろって?』

健司。少し苦笑。

「信じなくていいよ」

『……』

「俺も上原信じて保証人になったから」

電話。完全に静か。しずくの目が少し丸くなる。健司は嫌味を言ったつもりはない。ただ本当だった。信じる。難しい。今回、学んだ。

「だから信じなくていい」

『……』

「返す方法見つかったら連絡する」

久我。かすれた声。

『残り』

「うん?」

『四十二万よね』

「今は」

『……私が払う』

健司。少し驚く。

「全部?」

『払う』

「無理しなくていいよ」

『あんたに言われたくない!』

「分かった」

『今日中に払う』

「金融会社へ直接頼む」

『分かってる!』

「俺に送るとまた何か起きるかもしれないから」

『分かってるって言ってるでしょ!』

「じゃあ頼む」

久我。荒い息。そして。

『……火炎魔法』

「うん」

『使った?』

健司。

「さっき」

『……』

「三メートルくらいで消えた」

沈黙。しずく。口元を押さえる。

『は?』

「まだ標的まで届かない」

『私の《火炎魔法》が!?』

「Ⅰだから」

『……』

「ライターよりは強い」

『……返して』

「方法分かったらね」

『絶対よ』

通話が切れる。健司。スマートフォンを見る。

「怒ってたな」

しずく。

「森おじさん」

「何?」

「最後ちょっと面白がってませんでした?」

「何を?」

「ライター」

「本当だぞ」

「そうですけど」

健司。立つ。

「もう一回練習するか」

「まだやるんです?」

「返すにしても、今使えるのは俺だから」

「……まあ」

「危ない時に使えた方がいい」

これは正しい。欲しかった能力ではない。でも持っている。ダンジョン。命。使えるものは使える方がいい。訓練場。再び。標的。右手。炎。ボッ。四メートル。消える。

「伸びた」

「早いですね」

「農業のおかげ?」

「絶対違います」

「魔力も農業で」

「鍛えられません!」

「そう?」

「そこまで万能じゃありません!」

周囲。笑い。健司。もう一度。五メートル。小さな火球。標的にはまだ届かない。だが感覚は少しずつ分かる。魔力。火。圧縮。飛ばす。

「面白いな」

ぽつり。しずく。聞き逃さない。

「気に入ってるじゃないですか」

健司。止まる。

「……ちょっとだけ」

ピィ。モチ。鳴く。

「でも家では使わない」

「絶対ですよ」

訓練終了。今日は配信しなかった。借金。ギフト。久我。これはまだ視聴者へ全部話すことではない。帰り。軽トラック。夕方。途中でコンビニ。羊羹。一本。手に取る。値段。

「鑑定代の方が高いな」

結局買う。家。

「ただいま」

母。

「おかえり」

ゴン。玄関。モチ。先に飛ぶ。母。

「火出た?」

「出た」

「火事にならなかった?」

「ならないよ」

「よかった」

「三メートルくらい」

「それ、すごいの?」

「分からん」

「じゃあよかったね」

簡単。夕飯。焼き魚。冷ややっこ。きんぴら。味噌汁。ご飯。健司。二杯。食後。買ってきた羊羹。母。

「羊羹あったのに」

「鑑定で三千円使ったから」

「だから?」

「何となく食べたくなった」

「変なの」

切る。二人。茶。スマートフォン。金融会社。まだ420,000円。

「まだだな」

母。

「何が?」

「残り」

「最後の人払うって?」

「今日中に」

「じゃあ待てばいいね」

「うん」

テレビ。天気。明日。晴れ。農作業。朝から。健司。羊羹。食べる。九時。九時半。十時。スマートフォン。通知。金融会社。健司。開く。数字。一瞬意味が分からない。もう一度見る。保証債務残高 0円

「……ゼロ」

母。

「何?」

健司。画面。見たまま。

「借金」

「うん」

「なくなった」

母。茶を持ったまま。

「あら」

それだけ。健司。笑う。

「三百万」

「あったねえ」

「なくなった」

「よかったじゃない」

「うん」

ゴン。寝る。モチ。ゴンの背。母。茶。テレビ。畑。家。何も変わらない。でも数字はゼロ。催促状。三百万。あの日始まった借金返済。終わった。健司はしばらく画面を見て、ぽつり。

「……明日から配信タイトルどうしよう」

母。

「畑でいいんじゃない?」

健司。笑う。

「それ、ダンジョン配信じゃないな」

借金。完済。それでも畑はある。ダンジョンもある。ゴンもモチもいる。そして、なぜか四つも増えたスキルも。森健司の日常は、まだ終わらなかった。


あとがき

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

三百万円の借金は無事完済しました。

ですが、物語はまだ終わりません。

森おじさん、もう一度借金を背負うことになります。

今度は騙されて背負う借金ではありません。

引き続き、森健司の田舎暮らしとダンジョン探索を楽しんでいただければ嬉しいです。

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