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借金の保証人になった優しい田舎のおじさんのダンジョン配信  作者: 月瀬 リュカ


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17/19

第17話 あと五十二万円

朝。森健司は、いつものように畑へ出る前に金融会社のページを開いた。天気予報。直売所からの連絡。借金残高。最近はその三つを確認してから一日が始まる。表示された数字を見て、健司はしばらく動かなかった。保証債務残高 520,000円

「……五十二万?」

昨日の夜は百四万円だった。そのあと上原から電話があり、本人が五十二万円を払ったと聞いた。残る二人。斥候役の榊。魔法使いの久我。そして今、さらに五十二万円減っている。

「榊さんかな」

ちょうど一人分。残り、一人。五十二万円。最初に届いた催促状。三百万円。それが。五十二万円。健司は何度か画面を見直した。

「……終わりそうだな」

思わず声に出た。足元ではゴンが座っている。少し離れたところでは、モチが庭の土をつついていた。

「あと五十二万だってさ」

ゴン。無反応。

「三百万あったんだぞ」

尻尾が一度だけ動く。

「もうちょっと喜んでもいいんじゃない?」

ピィ。モチが飛んできた。肩。

「お前は喜んでる?」

ピィ。

「多分何も分かってないな」

家。台所。母が朝食の準備をしている。健司はスマートフォンを持ったまま入った。

「母さん」

「何?」

「あと五十二万」

母が味噌汁をよそいながら振り返る。

「何が?」

「借金」

「ああ」

少し考える。

「あんなにあったのに?」

「三百万」

「もう五十二万?」

「うん」

「あらまあ」

母はそれだけ言って、味噌汁を置いた。

「じゃあもうすぐだね」

「そうだね」

「よかったね」

「うん」

朝食。ご飯。卵焼き。味噌汁。漬物。健司は食べながら、もう一度数字を見る。五十二万円。自分が払った三十万円。上原たちが払った残り。最初に全員で十万円。岩崎。水野。上原。そしておそらく榊。五十二万円ずつ。計算は合う。残ったのは久我。魔法使い。岩崎が言っていた。最後まで払いたくないと言っている人。

「一人だけか」

母。

「何?」

「いや、あと一人払えば終わるみたい」

「じゃあその人が払えばいいじゃない」

「そうなんだけどな」

「払わないの?」

「まだ」

母は少し不思議そうにした。

「お金ないの?」

「A級だから、多分ある」

「じゃあどうして?」

健司。箸。止める。

「払いたくないんじゃない?」

母。さらに不思議。

「でも自分のお金なんでしょう?」

「そう」

「変なの」

「うん」

この数日。何度目か。結局、母の結論が一番正しい。食後。健司は岩崎へメッセージを送った。

《残り52万になってた。榊さん?》

十分ほどして返信。

《はい。昨夜、榊が支払いました。残るのは久我だけです》

続けて。

《説得しています。もう少し待ってください》

健司。画面。

「待つよ」

約束。一週間。まだ期限ではない。急ぐ必要はない。ただ。五十二万円。自分でも払える。最近のダンジョン収入。配信。農業。直売所。生活費や農業経費を残しても、十万円ずつなら返せる。完済までなら。あと六回も必要ない。自分が五十二万円をまとめて払えるか。それは別。できなくはない。でも。

《肩代わり》。

十万円ごと。一つ。もし。五十二万円を一度に払ったら。どうなる。一つなのか。五つなのか。端数二万円は。

「……怖いな」

自分で言って、首を振る。考えない。上原たちに払わせればいい。それで終わる。

「健司」

母。

「畑行かないの?」

「行く」

スマートフォンを閉じる。仕事。今日は収穫と、雨で緩んだ支柱の補修。朝の空気。少し湿っている。トマト。ナス。キュウリ。昨日までの雨の影響。一つずつ見る。モチ。健司の後ろを飛ぶ。支柱へ止まる。

「今日は食うなよ」

ピィ。

「直売所が待ってるから」

モチは首を傾げる。

「昨日も売り切れたらしい」

ピィ。

「分からんか」

ゴンは畑の端。日陰。いつもの場所。健司は籠へトマトを入れる。赤。形。傷。柔らかさ。売るもの。家で食べるもの。分ける。

「これは駄目」

少し割れ。別籠。モチ。即座にそちらを見る。

「お前、分かってるだろ」

ピィ。

「あとで」

収穫。一時間。身体。軽い。やはり《身体強化Ⅰ》は大きい。コンテナ。持つ。運ぶ。腰。楽。だが、以前ほど素直に喜べない。誰の能力か分かったから。岩崎。A級探索者。盾役。元々《身体強化Ⅲ》。現在Ⅱ。その一段が自分へ来た。

「……返せたらいいんだけどな」

ギフト。簡易鑑定ではそこまで分からない。本鑑定。何万円。健司は思い出す。

「……そこに何万も出すのはな」

借金。五十二万円。まずそっち。完済。それから。必要なら調べる。健司らしい順番だった。収穫した野菜を軽トラックへ積む。直売所へ着くと、いつもの職員が入り口から手を振った。

「健司ちゃん!」

「今日はあるよ」

「トマト?」

「トマトとナス。キュウリも少し」

「米は?」

「米は急に生えない」

「分かってる!」

荷台からコンテナ。職員が一箱。健司は二箱。

「お前、本当に力強くなったな」

「スキル」

「この前からそれ言うな」

「本当だよ」

「農家にもスキルあるのか?」

「探索者の」

「ああ、そっちか」

倉庫。検品。重量。伝票。店内には平日の午前なのに若い客が何人かいた。少し前なら珍しかった。そのうち一人の女性が、健司を二度見した。スマートフォンを確認し、もう一度見る。

「あの……森おじさん?」

「はい」

女性が少し嬉しそうな顔。

「本物だ」

「本物です」

後ろにいた小学生くらいの男の子が健司を見上げる。

「ゴンは?」

「ああ、今日は家」

男の子。明らかに残念。

「モチは?」

「モチも家」

さらに残念。健司。

「俺だけでごめんな」

女性が笑った。

「すみません」

「いや、俺も分かる」

「何が?」

「多分みんな俺よりゴンとモチ見たいから」

男の子。即座に頷く。

「うん」

「そこは否定してくれてもいいぞ」

周囲が笑う。女性がトマトを手に取った。

「これ、森さんのですか?」

ラベル。生産者。森健司。

「それ俺」

「じゃあこれにします」

「味は普通だよ」

職員。横から。

「おい!」

「何?」

「売れなくなること言うな!」

「普通にうまいって意味」

「最初からそう言え!」

女性。笑いながら籠へ。男の子。

「モチが食べたやつ?」

「同じ畑」

「じゃあ食べる」

「トマト嫌い?」

「ちょっと」

「モチも食ったから」

「食べる」

母親らしい女性。

「助かります」

健司。

「俺、何もしてないけど」

「モチ効果ですね」

「やっぱり俺じゃない」

笑い。客が離れる。職員は腕を組んで健司を見る。

「これだよ」

「何?」

「配信続けろ」

「直売所のため?」

「地域のため」

「大きく言ったな」

「売上上がってんだからいいだろ」

確かに。自分の野菜。他の農家の米。味噌。漬物。いろいろ動いた。

「ダンジョンより役に立ってるかもな」

「ダンジョンで死ぬより野菜売れ」

「死ぬ前提で言うな」

納品を終え、そのまま郷田の店へ寄る。前に見た《鎧蜥蜴》。一度観察し、戦わず帰った相手。どう倒すか聞いておきたかった。店へ入る。郷田。

「今日は何だ」

「相談」

「金取るぞ」

「友達だろ」

「客ならな」

「じゃあ客」

「何買う」

「まだ買わない」

「帰れ」

いつもの。健司はカウンターへ。

「鎧蜥蜴」

郷田の顔が少し真面目になる。

「会ったのか」

「見ただけ」

「戦った?」

「逃げた」

「正解」

即答。

「やっぱり?」

「今のお前の剣だと背中から斬ってもまともに通らん」

「そう見えた」

「頭も硬い」

「腹?」

「柔らかい」

「低いよな」

「そこが面倒だ」

郷田は奥から短い槍を一本持ってくる。太い。先端だけ細い。

「対装甲用の短槍」

「高そう」

「買う前提で値段聞け」

「いくら?」

値段。健司。

「帰る」

「待て!」

「高い」

「新品だ!」

「中古ない?」

「何でも中古で済ませようとするな」

「借金あるから」

「お前、最近稼いでるだろ」

「あと五十二万」

郷田。止まる。

「何が?」

「借金」

「三百万は?」

「あと五十二万」

郷田。しばらく健司を見る。

「……は?」

「減った」

「減りすぎだろ!」

「向こうが返してる」

「上原?」

「パーティー全員。一人残ってるけど」

郷田。カウンターへ両手。

「お前、何した」

「何も」

「何もしてねえのに二百四十八万返ってくるか?」

「いろいろあった」

「そのいろいろを話せ!」

健司は少し迷った。郷田は古い友人。昔の探索者仲間でもある。借金の最初から知っている。

「誰にも言うなよ」

「内容による」

「言うなよ」

「分かった」

健司は簡単に話した。

《肩代わり》。

十万円。

《剣術Ⅰ》。

《身体強化Ⅰ》。

《気配察知Ⅰ》。

上原。岩崎。榊。実際に向こうが一段階失った。自分へ移った。郷田は最初、黙って聞いた。途中から完全に無言。最後。

「……お前、とんでもないギフト持ってたんだな」

「二十年以上役立たずだったぞ」

「条件が条件だからだろ!」

「借金肩代わりしないと発動しないみたい」

「そんなもん普通は試さねえよ」

「だよな」

郷田は額を押さえる。

「で、上原たちは能力失いたくないから返してる?」

「多分」

「……ざまあねえな」

「そう言うなよ」

郷田は健司を見る。

「お前、本当に怒ってる?」

「怒ってる」

「見えねえ」

「岩崎さんにも言った」

「それで」

郷田。少し声を落とす。

「向こう、最初から?」

「全員知ってた」

郷田の顔から冗談が消える。

「全員?」

「うん」

「上原一人じゃなく?」

「うん」

「お前に押しつけるつもりで?」

「そう」

健司はさらに言った。

「畑売れば何とかなるって話してたらしい」

郷田。無言。長い。

「……そいつら」

「郷田」

「何だ」

「何もしなくていいぞ」

「まだ何も言ってねえ」

「顔」

郷田。舌打ち。

「お前が怒らねえから俺が腹立つんだよ」

「怒ってるって」

「それで羊羹食って寝てんだろ」

「寝るだろ」

「そこだよ!」

健司。少し笑う。

「でも、残り五十二万まで返してる」

「返すのが普通だ」

「うん」

「騙した時点で駄目だ」

「うん」

「許すなよ」

健司。少し考える。

「許すかどうかは、全部終わってからかな」

郷田。息。吐く。

「甘い」

「そう?」

「甘い」

「羊羹くらい?」

「お前は一生羊羹食ってろ」

「それは嬉しい」

「褒めてねえ」

空気が少し戻る。健司は短槍を見る。

「で、これ」

郷田。

「話戻すのかよ」

「鎧蜥蜴」

「買わなくていい」

「さっき売ろうとしてたじゃん」

「お前は今の剣でいい」

「通らないんだろ?」

「戦い方の問題」

紙。簡単な蜥蜴の絵。

「正面からやるな」

「うん」

「背中も斬るな」

「うん」

「壁際に誘導する。突進させる。止まったところで側面」

「脚?」

「前脚の付け根」

線。

「ここ」

「斬れる?」

「刃が入れば」

「腹まで届く?」

「角度次第」

「危なくない?」

「危ない」

健司。

「じゃあやめる」

郷田。

「まだ説明途中だ!」

「危ないなら戦わなくても」

「お前な!」

「素材高い?」

郷田。止まる。

「……そこ聞くか」

素材価格。鎧鱗。魔石。状態次第。数万円から十万円近く。健司。少し考える。

「一匹倒せたら大きいな」

「急に目の色変えるな」

「農機具代になる」

「借金じゃねえのかよ」

「どっちも」

戦うなら逃げ道確保。広いところでやるな。壁を使う。ただし尾がある。後ろも危険。横も噛みつきと脚。

「全部危ないな」

「魔物だからな」

「要するに、当たらなきゃいい」

郷田。

「一番言っちゃいけない結論出すな」

「違う?」

「違わねえけど!」

結局、何も買わない。

「相談料」

「取る?」

「今度将棋一局」

「それ相談料なの?」

「負けたら羊羹」

「郷田が?」

「お前が!」

「勝ったら?」

「俺が茶出す」

「割に合わないな」

「帰れ!」

午後。ギルド。白花しずく。

「森おじさん」

「おう」

「残り五十二万円ですよね」

「知ってるの?」

「配信コメントで話題になってます」

「まだ配信してないけど」

「昨日の残高から、森おじさんが何も言ってないのに誰かがって」

「怖いな」

「視聴者、返済額かなり覚えてますから」

「俺より詳しい人いるよな」

「今日は?」

「鎧蜥蜴」

しずく。止まる。

「戦うんですか?」

「会えたら考える」

「前、逃げましたよね」

「郷田に聞いた」

「何て?」

「逃げ道確保。壁使う。前脚の付け根」

「ちゃんとした攻略ですね」

「あと当たらなきゃいい」

「そこだけ忘れてください」

ドローン。

「無理しないでくださいよ」

「無理なら帰る」

配信。

【Eランク】昨日見た鎧蜥蜴をもう一度見に行く

開始。コメント。

《残り52万!》

《あと一人》

《ほぼ完済》

「早いよ」

《何が》

「借金の話」

《気になる》

「今日は鎧蜥蜴」

《借金配信なのに》

「ダンジョン配信でもある」

《農業配信》

「それも」

第一階層。通過。第二階層。以前の道。気配。牙犬。一体。避ける。魔力苔。少し採取。深く。広い道。

「この辺」

気配。一つ。大きい。

「いた」

コメント。

《きた》

《鎧蜥蜴》

《逃げろ》

《今日は戦うんだろ》

「まだ決めてない」

姿。灰色。板状の鱗。太い尾。低い身体。距離。二十メートル。健司。周囲。左。壁。右。狭い道。後ろ。戻れる。前方。鎧蜥蜴。一体。他の気配。なし。

「条件は悪くないな」

《やる?》

「ちょっとだけ」

剣。抜く。鎧蜥蜴。頭。上がる。こちらへ。ゆっくり。五メートル。三。急。速い。

「速っ」

突進。健司。横。避ける。身体強化。前より余裕。鎧蜥蜴。壁寸前。止まる。

「ぶつからないのか」

《賢い》

《猪と違う》

「そう簡単じゃないな」

尾。横薙ぎ。健司。後退。空気。鳴る。

「これは痛い」

《当たったらやばい》

《帰ろう》

「もうちょい見る」

攻撃しない。観察。鎧蜥蜴。方向転換。遅い。前後。速い。横。鈍い。

「横か」

健司。回る。魔物。追う。尾。また。健司。距離。取る。前脚。動く。付け根。鱗。薄い。

「郷田の言った通りだな」

《いける?》

「一回だけ」

鎧蜥蜴。突進。健司。左へ。すれ違う。一度目。振らない。まだ。二度目。見る。三度目。踏み込み。横。剣。下から。前脚の付け根。ガッ。硬い。浅い。

「入ったけど浅い」

鎧蜥蜴。暴れる。尾。健司。後退。危ない。

「これ以上は」

魔物。前脚。少し血。だが普通に動く。

「今日はやめる」

《え》

《あと少し》

「あと少しが一番危ない」

距離。取る。狭い道。入る。鎧蜥蜴。追う。身体。幅。入りにくい。止まる。健司。さらに戻る。

「倒せそうではある」

《次回?》

「装備考える」

《短槍買おう》

「高い」

《またそれ》

「金は大事」

探索。帰る。途中。魔力苔。牙犬。一体だけ。安全。査定。三万七千円ほど。応援。二万一千円。しずく。

「鎧蜥蜴、どうでした?」

「倒せそう」

「なら次?」

「どうしようかな」

「慎重ですね」

「知らない相手に一回で勝たなくてもいいだろ」

「その考え方、若い探索者に聞かせたいです」

「講習は嫌だぞ」

「まだ言ってません」

「顔」

しずく。笑う。帰宅。夕方。畑。ゴン。モチ。母。いつもの。夕飯。食後。羊羹。茶。スマートフォン。金融会社。520,000円。変化なし。

「まだか」

期限はまだ。焦らない。通知。岩崎。

《久我とは今日も話しました。まだ返答はありません》

健司。返信。

《約束の日までは待つよ。無理に揉めなくていい》

既読。

《ありがとうございます》

健司は画面を閉じる。母。

「まだ一人?」

「うん」

「払わないの?」

「まだね」

「あと五十二万なんでしょう?」

「うん」

「健司が払えるの?」

「十万ずつなら」

母。

「じゃあ大丈夫だね」

健司。少し笑う。

「そうだな」

もし久我が払わない。期限が来る。健司は返す。誰かの能力がまた移る可能性は高い。その誰か。残っている共犯者。久我。

《火炎魔法》。

岩崎から聞いた。健司はその名前を思い出し、すぐ頭から追い出した。欲しがらない。考えない。自分に必要な能力でもない。農家に火炎魔法。

「絶対いらんな」

母。

「何が?」

「火」

「畑で?」

「いや」

「燃やしたら駄目だよ」

「うん。絶対駄目」

――その頃。

久我玲奈は、一人でダンジョンの訓練場にいた。杖。前方。訓練用標的。

「《ファイアランス》」

炎。槍。飛ぶ。標的。爆発。高火力。

《火炎魔法Ⅲ》。

自分の価値。A級探索者。攻撃魔法。パーティーの主砲。これがあるから稼げる。これがあるからA級。

「……五十二万円」

小さく呟く。杖。もう一度。炎。五十二万円。払える。だが、払えば負けた気がする。最初から森健司へ押しつけるために作った借金。その計画。全員。同意。それなのに。岩崎。払った。水野。払った。上原。払った。榊。払った。自分だけ。

「馬鹿じゃないの」

もう一度。炎。標的。燃える。スマートフォン。横。森健司。今日の配信。鎧蜥蜴。再生。男。魔物を見る。少し戦う。危ない。そして。

『今日はやめる』

逃げる。コメント。

《あと少し》

『あと少しが一番危ない』

久我。眉。寄せる。

「……腹立つ」

強くなれる。スキルを奪える。相手が弱くなる。普通なら利用する。自分なら利用する。借金を十万円ずつ返す。能力を集める。なのに男は待つ。自分たちが払うのを。

「偽善者」

呟く。だが、配信の男は善人を演じているようにも見えない。ただ畑をやり、犬と鳥の世話をし、ダンジョンへ行き、危なければ帰る。自分たちが払えば、それで終わり。そう思っているだけ。久我はスマートフォンを伏せた。支払い画面。520,000円。指。近づく。止まる。

「まだ期限じゃない」

あと数日。それまで考える。でも。画面の数字。五十二万円。もう自分一人。その事実だけが、昨日までよりずっと重く見えていた。


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