第17話 あと五十二万円
朝。森健司は、いつものように畑へ出る前に金融会社のページを開いた。天気予報。直売所からの連絡。借金残高。最近はその三つを確認してから一日が始まる。表示された数字を見て、健司はしばらく動かなかった。保証債務残高 520,000円
「……五十二万?」
昨日の夜は百四万円だった。そのあと上原から電話があり、本人が五十二万円を払ったと聞いた。残る二人。斥候役の榊。魔法使いの久我。そして今、さらに五十二万円減っている。
「榊さんかな」
ちょうど一人分。残り、一人。五十二万円。最初に届いた催促状。三百万円。それが。五十二万円。健司は何度か画面を見直した。
「……終わりそうだな」
思わず声に出た。足元ではゴンが座っている。少し離れたところでは、モチが庭の土をつついていた。
「あと五十二万だってさ」
ゴン。無反応。
「三百万あったんだぞ」
尻尾が一度だけ動く。
「もうちょっと喜んでもいいんじゃない?」
ピィ。モチが飛んできた。肩。
「お前は喜んでる?」
ピィ。
「多分何も分かってないな」
家。台所。母が朝食の準備をしている。健司はスマートフォンを持ったまま入った。
「母さん」
「何?」
「あと五十二万」
母が味噌汁をよそいながら振り返る。
「何が?」
「借金」
「ああ」
少し考える。
「あんなにあったのに?」
「三百万」
「もう五十二万?」
「うん」
「あらまあ」
母はそれだけ言って、味噌汁を置いた。
「じゃあもうすぐだね」
「そうだね」
「よかったね」
「うん」
朝食。ご飯。卵焼き。味噌汁。漬物。健司は食べながら、もう一度数字を見る。五十二万円。自分が払った三十万円。上原たちが払った残り。最初に全員で十万円。岩崎。水野。上原。そしておそらく榊。五十二万円ずつ。計算は合う。残ったのは久我。魔法使い。岩崎が言っていた。最後まで払いたくないと言っている人。
「一人だけか」
母。
「何?」
「いや、あと一人払えば終わるみたい」
「じゃあその人が払えばいいじゃない」
「そうなんだけどな」
「払わないの?」
「まだ」
母は少し不思議そうにした。
「お金ないの?」
「A級だから、多分ある」
「じゃあどうして?」
健司。箸。止める。
「払いたくないんじゃない?」
母。さらに不思議。
「でも自分のお金なんでしょう?」
「そう」
「変なの」
「うん」
この数日。何度目か。結局、母の結論が一番正しい。食後。健司は岩崎へメッセージを送った。
《残り52万になってた。榊さん?》
十分ほどして返信。
《はい。昨夜、榊が支払いました。残るのは久我だけです》
続けて。
《説得しています。もう少し待ってください》
健司。画面。
「待つよ」
約束。一週間。まだ期限ではない。急ぐ必要はない。ただ。五十二万円。自分でも払える。最近のダンジョン収入。配信。農業。直売所。生活費や農業経費を残しても、十万円ずつなら返せる。完済までなら。あと六回も必要ない。自分が五十二万円をまとめて払えるか。それは別。できなくはない。でも。
《肩代わり》。
十万円ごと。一つ。もし。五十二万円を一度に払ったら。どうなる。一つなのか。五つなのか。端数二万円は。
「……怖いな」
自分で言って、首を振る。考えない。上原たちに払わせればいい。それで終わる。
「健司」
母。
「畑行かないの?」
「行く」
スマートフォンを閉じる。仕事。今日は収穫と、雨で緩んだ支柱の補修。朝の空気。少し湿っている。トマト。ナス。キュウリ。昨日までの雨の影響。一つずつ見る。モチ。健司の後ろを飛ぶ。支柱へ止まる。
「今日は食うなよ」
ピィ。
「直売所が待ってるから」
モチは首を傾げる。
「昨日も売り切れたらしい」
ピィ。
「分からんか」
ゴンは畑の端。日陰。いつもの場所。健司は籠へトマトを入れる。赤。形。傷。柔らかさ。売るもの。家で食べるもの。分ける。
「これは駄目」
少し割れ。別籠。モチ。即座にそちらを見る。
「お前、分かってるだろ」
ピィ。
「あとで」
収穫。一時間。身体。軽い。やはり《身体強化Ⅰ》は大きい。コンテナ。持つ。運ぶ。腰。楽。だが、以前ほど素直に喜べない。誰の能力か分かったから。岩崎。A級探索者。盾役。元々《身体強化Ⅲ》。現在Ⅱ。その一段が自分へ来た。
「……返せたらいいんだけどな」
ギフト。簡易鑑定ではそこまで分からない。本鑑定。何万円。健司は思い出す。
「……そこに何万も出すのはな」
借金。五十二万円。まずそっち。完済。それから。必要なら調べる。健司らしい順番だった。収穫した野菜を軽トラックへ積む。直売所へ着くと、いつもの職員が入り口から手を振った。
「健司ちゃん!」
「今日はあるよ」
「トマト?」
「トマトとナス。キュウリも少し」
「米は?」
「米は急に生えない」
「分かってる!」
荷台からコンテナ。職員が一箱。健司は二箱。
「お前、本当に力強くなったな」
「スキル」
「この前からそれ言うな」
「本当だよ」
「農家にもスキルあるのか?」
「探索者の」
「ああ、そっちか」
倉庫。検品。重量。伝票。店内には平日の午前なのに若い客が何人かいた。少し前なら珍しかった。そのうち一人の女性が、健司を二度見した。スマートフォンを確認し、もう一度見る。
「あの……森おじさん?」
「はい」
女性が少し嬉しそうな顔。
「本物だ」
「本物です」
後ろにいた小学生くらいの男の子が健司を見上げる。
「ゴンは?」
「ああ、今日は家」
男の子。明らかに残念。
「モチは?」
「モチも家」
さらに残念。健司。
「俺だけでごめんな」
女性が笑った。
「すみません」
「いや、俺も分かる」
「何が?」
「多分みんな俺よりゴンとモチ見たいから」
男の子。即座に頷く。
「うん」
「そこは否定してくれてもいいぞ」
周囲が笑う。女性がトマトを手に取った。
「これ、森さんのですか?」
ラベル。生産者。森健司。
「それ俺」
「じゃあこれにします」
「味は普通だよ」
職員。横から。
「おい!」
「何?」
「売れなくなること言うな!」
「普通にうまいって意味」
「最初からそう言え!」
女性。笑いながら籠へ。男の子。
「モチが食べたやつ?」
「同じ畑」
「じゃあ食べる」
「トマト嫌い?」
「ちょっと」
「モチも食ったから」
「食べる」
母親らしい女性。
「助かります」
健司。
「俺、何もしてないけど」
「モチ効果ですね」
「やっぱり俺じゃない」
笑い。客が離れる。職員は腕を組んで健司を見る。
「これだよ」
「何?」
「配信続けろ」
「直売所のため?」
「地域のため」
「大きく言ったな」
「売上上がってんだからいいだろ」
確かに。自分の野菜。他の農家の米。味噌。漬物。いろいろ動いた。
「ダンジョンより役に立ってるかもな」
「ダンジョンで死ぬより野菜売れ」
「死ぬ前提で言うな」
納品を終え、そのまま郷田の店へ寄る。前に見た《鎧蜥蜴》。一度観察し、戦わず帰った相手。どう倒すか聞いておきたかった。店へ入る。郷田。
「今日は何だ」
「相談」
「金取るぞ」
「友達だろ」
「客ならな」
「じゃあ客」
「何買う」
「まだ買わない」
「帰れ」
いつもの。健司はカウンターへ。
「鎧蜥蜴」
郷田の顔が少し真面目になる。
「会ったのか」
「見ただけ」
「戦った?」
「逃げた」
「正解」
即答。
「やっぱり?」
「今のお前の剣だと背中から斬ってもまともに通らん」
「そう見えた」
「頭も硬い」
「腹?」
「柔らかい」
「低いよな」
「そこが面倒だ」
郷田は奥から短い槍を一本持ってくる。太い。先端だけ細い。
「対装甲用の短槍」
「高そう」
「買う前提で値段聞け」
「いくら?」
値段。健司。
「帰る」
「待て!」
「高い」
「新品だ!」
「中古ない?」
「何でも中古で済ませようとするな」
「借金あるから」
「お前、最近稼いでるだろ」
「あと五十二万」
郷田。止まる。
「何が?」
「借金」
「三百万は?」
「あと五十二万」
郷田。しばらく健司を見る。
「……は?」
「減った」
「減りすぎだろ!」
「向こうが返してる」
「上原?」
「パーティー全員。一人残ってるけど」
郷田。カウンターへ両手。
「お前、何した」
「何も」
「何もしてねえのに二百四十八万返ってくるか?」
「いろいろあった」
「そのいろいろを話せ!」
健司は少し迷った。郷田は古い友人。昔の探索者仲間でもある。借金の最初から知っている。
「誰にも言うなよ」
「内容による」
「言うなよ」
「分かった」
健司は簡単に話した。
《肩代わり》。
十万円。
《剣術Ⅰ》。
《身体強化Ⅰ》。
《気配察知Ⅰ》。
上原。岩崎。榊。実際に向こうが一段階失った。自分へ移った。郷田は最初、黙って聞いた。途中から完全に無言。最後。
「……お前、とんでもないギフト持ってたんだな」
「二十年以上役立たずだったぞ」
「条件が条件だからだろ!」
「借金肩代わりしないと発動しないみたい」
「そんなもん普通は試さねえよ」
「だよな」
郷田は額を押さえる。
「で、上原たちは能力失いたくないから返してる?」
「多分」
「……ざまあねえな」
「そう言うなよ」
郷田は健司を見る。
「お前、本当に怒ってる?」
「怒ってる」
「見えねえ」
「岩崎さんにも言った」
「それで」
郷田。少し声を落とす。
「向こう、最初から?」
「全員知ってた」
郷田の顔から冗談が消える。
「全員?」
「うん」
「上原一人じゃなく?」
「うん」
「お前に押しつけるつもりで?」
「そう」
健司はさらに言った。
「畑売れば何とかなるって話してたらしい」
郷田。無言。長い。
「……そいつら」
「郷田」
「何だ」
「何もしなくていいぞ」
「まだ何も言ってねえ」
「顔」
郷田。舌打ち。
「お前が怒らねえから俺が腹立つんだよ」
「怒ってるって」
「それで羊羹食って寝てんだろ」
「寝るだろ」
「そこだよ!」
健司。少し笑う。
「でも、残り五十二万まで返してる」
「返すのが普通だ」
「うん」
「騙した時点で駄目だ」
「うん」
「許すなよ」
健司。少し考える。
「許すかどうかは、全部終わってからかな」
郷田。息。吐く。
「甘い」
「そう?」
「甘い」
「羊羹くらい?」
「お前は一生羊羹食ってろ」
「それは嬉しい」
「褒めてねえ」
空気が少し戻る。健司は短槍を見る。
「で、これ」
郷田。
「話戻すのかよ」
「鎧蜥蜴」
「買わなくていい」
「さっき売ろうとしてたじゃん」
「お前は今の剣でいい」
「通らないんだろ?」
「戦い方の問題」
紙。簡単な蜥蜴の絵。
「正面からやるな」
「うん」
「背中も斬るな」
「うん」
「壁際に誘導する。突進させる。止まったところで側面」
「脚?」
「前脚の付け根」
線。
「ここ」
「斬れる?」
「刃が入れば」
「腹まで届く?」
「角度次第」
「危なくない?」
「危ない」
健司。
「じゃあやめる」
郷田。
「まだ説明途中だ!」
「危ないなら戦わなくても」
「お前な!」
「素材高い?」
郷田。止まる。
「……そこ聞くか」
素材価格。鎧鱗。魔石。状態次第。数万円から十万円近く。健司。少し考える。
「一匹倒せたら大きいな」
「急に目の色変えるな」
「農機具代になる」
「借金じゃねえのかよ」
「どっちも」
戦うなら逃げ道確保。広いところでやるな。壁を使う。ただし尾がある。後ろも危険。横も噛みつきと脚。
「全部危ないな」
「魔物だからな」
「要するに、当たらなきゃいい」
郷田。
「一番言っちゃいけない結論出すな」
「違う?」
「違わねえけど!」
結局、何も買わない。
「相談料」
「取る?」
「今度将棋一局」
「それ相談料なの?」
「負けたら羊羹」
「郷田が?」
「お前が!」
「勝ったら?」
「俺が茶出す」
「割に合わないな」
「帰れ!」
午後。ギルド。白花しずく。
「森おじさん」
「おう」
「残り五十二万円ですよね」
「知ってるの?」
「配信コメントで話題になってます」
「まだ配信してないけど」
「昨日の残高から、森おじさんが何も言ってないのに誰かがって」
「怖いな」
「視聴者、返済額かなり覚えてますから」
「俺より詳しい人いるよな」
「今日は?」
「鎧蜥蜴」
しずく。止まる。
「戦うんですか?」
「会えたら考える」
「前、逃げましたよね」
「郷田に聞いた」
「何て?」
「逃げ道確保。壁使う。前脚の付け根」
「ちゃんとした攻略ですね」
「あと当たらなきゃいい」
「そこだけ忘れてください」
ドローン。
「無理しないでくださいよ」
「無理なら帰る」
配信。
【Eランク】昨日見た鎧蜥蜴をもう一度見に行く
開始。コメント。
《残り52万!》
《あと一人》
《ほぼ完済》
「早いよ」
《何が》
「借金の話」
《気になる》
「今日は鎧蜥蜴」
《借金配信なのに》
「ダンジョン配信でもある」
《農業配信》
「それも」
第一階層。通過。第二階層。以前の道。気配。牙犬。一体。避ける。魔力苔。少し採取。深く。広い道。
「この辺」
気配。一つ。大きい。
「いた」
コメント。
《きた》
《鎧蜥蜴》
《逃げろ》
《今日は戦うんだろ》
「まだ決めてない」
姿。灰色。板状の鱗。太い尾。低い身体。距離。二十メートル。健司。周囲。左。壁。右。狭い道。後ろ。戻れる。前方。鎧蜥蜴。一体。他の気配。なし。
「条件は悪くないな」
《やる?》
「ちょっとだけ」
剣。抜く。鎧蜥蜴。頭。上がる。こちらへ。ゆっくり。五メートル。三。急。速い。
「速っ」
突進。健司。横。避ける。身体強化。前より余裕。鎧蜥蜴。壁寸前。止まる。
「ぶつからないのか」
《賢い》
《猪と違う》
「そう簡単じゃないな」
尾。横薙ぎ。健司。後退。空気。鳴る。
「これは痛い」
《当たったらやばい》
《帰ろう》
「もうちょい見る」
攻撃しない。観察。鎧蜥蜴。方向転換。遅い。前後。速い。横。鈍い。
「横か」
健司。回る。魔物。追う。尾。また。健司。距離。取る。前脚。動く。付け根。鱗。薄い。
「郷田の言った通りだな」
《いける?》
「一回だけ」
鎧蜥蜴。突進。健司。左へ。すれ違う。一度目。振らない。まだ。二度目。見る。三度目。踏み込み。横。剣。下から。前脚の付け根。ガッ。硬い。浅い。
「入ったけど浅い」
鎧蜥蜴。暴れる。尾。健司。後退。危ない。
「これ以上は」
魔物。前脚。少し血。だが普通に動く。
「今日はやめる」
《え》
《あと少し》
「あと少しが一番危ない」
距離。取る。狭い道。入る。鎧蜥蜴。追う。身体。幅。入りにくい。止まる。健司。さらに戻る。
「倒せそうではある」
《次回?》
「装備考える」
《短槍買おう》
「高い」
《またそれ》
「金は大事」
探索。帰る。途中。魔力苔。牙犬。一体だけ。安全。査定。三万七千円ほど。応援。二万一千円。しずく。
「鎧蜥蜴、どうでした?」
「倒せそう」
「なら次?」
「どうしようかな」
「慎重ですね」
「知らない相手に一回で勝たなくてもいいだろ」
「その考え方、若い探索者に聞かせたいです」
「講習は嫌だぞ」
「まだ言ってません」
「顔」
しずく。笑う。帰宅。夕方。畑。ゴン。モチ。母。いつもの。夕飯。食後。羊羹。茶。スマートフォン。金融会社。520,000円。変化なし。
「まだか」
期限はまだ。焦らない。通知。岩崎。
《久我とは今日も話しました。まだ返答はありません》
健司。返信。
《約束の日までは待つよ。無理に揉めなくていい》
既読。
《ありがとうございます》
健司は画面を閉じる。母。
「まだ一人?」
「うん」
「払わないの?」
「まだね」
「あと五十二万なんでしょう?」
「うん」
「健司が払えるの?」
「十万ずつなら」
母。
「じゃあ大丈夫だね」
健司。少し笑う。
「そうだな」
もし久我が払わない。期限が来る。健司は返す。誰かの能力がまた移る可能性は高い。その誰か。残っている共犯者。久我。
《火炎魔法》。
岩崎から聞いた。健司はその名前を思い出し、すぐ頭から追い出した。欲しがらない。考えない。自分に必要な能力でもない。農家に火炎魔法。
「絶対いらんな」
母。
「何が?」
「火」
「畑で?」
「いや」
「燃やしたら駄目だよ」
「うん。絶対駄目」
――その頃。
久我玲奈は、一人でダンジョンの訓練場にいた。杖。前方。訓練用標的。
「《ファイアランス》」
炎。槍。飛ぶ。標的。爆発。高火力。
《火炎魔法Ⅲ》。
自分の価値。A級探索者。攻撃魔法。パーティーの主砲。これがあるから稼げる。これがあるからA級。
「……五十二万円」
小さく呟く。杖。もう一度。炎。五十二万円。払える。だが、払えば負けた気がする。最初から森健司へ押しつけるために作った借金。その計画。全員。同意。それなのに。岩崎。払った。水野。払った。上原。払った。榊。払った。自分だけ。
「馬鹿じゃないの」
もう一度。炎。標的。燃える。スマートフォン。横。森健司。今日の配信。鎧蜥蜴。再生。男。魔物を見る。少し戦う。危ない。そして。
『今日はやめる』
逃げる。コメント。
《あと少し》
『あと少しが一番危ない』
久我。眉。寄せる。
「……腹立つ」
強くなれる。スキルを奪える。相手が弱くなる。普通なら利用する。自分なら利用する。借金を十万円ずつ返す。能力を集める。なのに男は待つ。自分たちが払うのを。
「偽善者」
呟く。だが、配信の男は善人を演じているようにも見えない。ただ畑をやり、犬と鳥の世話をし、ダンジョンへ行き、危なければ帰る。自分たちが払えば、それで終わり。そう思っているだけ。久我はスマートフォンを伏せた。支払い画面。520,000円。指。近づく。止まる。
「まだ期限じゃない」
あと数日。それまで考える。でも。画面の数字。五十二万円。もう自分一人。その事実だけが、昨日までよりずっと重く見えていた。




