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借金の保証人になった優しい田舎のおじさんのダンジョン配信  作者: 月瀬 リュカ


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19/19

第19話 借金がなくなっても

借金がなくなったからといって、畑のトマトが勝手に収穫されるわけではない。森健司は朝露の残る畑で赤く熟した実を一つずつ籠へ入れていた。腰を屈め、色を見る。触りすぎないように指先で張りを確かめ、出荷できるものと家で食べるものを分けていく。昨日までと何も変わらない。違うのは一つだけ。胸の奥にずっと引っかかっていた数字がなくなった。三百万円。今はゼロ円。

「……やっぱ気楽だな」

口にしてみると、思っていた以上に実感があった。催促状を見た日も、健司は「なんとかなる」と考えていた。実際、なんとかするつもりだった。だが気にしていなかったわけではない。肥料を買う。燃料を入れる。農機具が壊れる。剣を買う。防具を買う。何をするにも頭のどこかで三百万円があった。今はない。籠がいっぱいになる。健司は両手で持ち上げた。軽い。いや、普通の人にとっては軽くない。

《身体強化Ⅰ》。

岩崎から移ってきた能力。今では意識せず使っている。

「これだけは、まだ残ってるんだよな」

借金がなくなったからといって、移ってきた技能が元の持ち主へ戻ることはなかった。

《剣術Ⅰ》。

《身体強化Ⅰ》。

《気配察知Ⅰ》。

《火炎魔法Ⅰ》。

四つ。全部、健司の中に残っている。本鑑定を受ければ、もっと詳しく分かるかもしれない。問題は。

「高いんだよなあ」

ピィ。すぐ横の支柱。モチが止まっている。

「お前もそう思う?」

ピィ。

「だよな」

ゴンは少し離れた日陰。こちらを見てもいない。健司は籠を運ぶ。家の前。母が洗濯物を干していた。

「母さん」

「何?」

「今日、配信で借金なくなったって言っていいかな」

母の手が止まる。

「私に聞くの?」

「一応」

「健司の借金だったんでしょう?」

「そうだけど」

「もうないんでしょう?」

「ない」

「じゃあいいんじゃない?」

「そうか」

「隠すことなの?」

「いや」

母はまた洗濯物を干し始める。健司は少し笑った。簡単。本当に母に聞くと大体簡単になる。そのまま朝の作業を済ませた。今日は直売所への納品がある。そのあとギルド。ダンジョンへ行くつもりだった。借金がなくなったのに。それでも行く。自分でも少し不思議だった。最初は三百万円を返すため。それだけだった。危険なところへ好き好んで戻る気などなかった。ところが今は。

「鎧蜥蜴、もう一回見たいんだよな」

前回。一度だけ剣を当てた。前脚の付け根。浅い。倒せなかった。無理に続けず撤退。それで終わった。だが戦えないとは思わなかった。やり方を変えればいける。それに今は《火炎魔法Ⅰ》。弱い。標的までまともに届かない程度。でも使い道はあるかもしれない。

「燃やすんじゃなくて、驚かすくらいならな」

ピィ。

「モチは今日は留守番」

ピィ!急に声が大きくなった。

「ダンジョン行くから」

ピィ!

「危ない」

モチが健司の帽子へ飛ぶ。

「乗っても駄目」

ピィ。

「ゴンと待ってろ」

ゴン。耳だけ動く。モチはゴンの背中へ降りた。抗議するように一度鳴く。

「帰ったらブルーベリー」

静かになった。

「分かりやすいな」

納品。直売所。いつもの職員。

「健司ちゃん!」

「おう」

「今日はトマト多い?」

「あるよ」

「ナス?」

「ある」

「キュウリ?」

「少し」

「米?」

「急に生えない」

「分かってるよ!」

荷台。コンテナ。職員が一つ。健司が二つ。

「もうその持ち方普通になったな」

「身体強化あるから」

「本当にスキルだったのか」

「鑑定した」

「農業じゃないのか」

「農業もある」

「何でも農業に戻すな」

倉庫。野菜。通販。注文はまだ多い。

「今日も配信するのか?」

「ダンジョン」

「畑じゃないのか」

「元々ダンジョン配信」

「そうだったな」

職員が本気で忘れていたような顔。健司。

「忘れるなよ」

「最近、野菜売ってるところしか見てねえから」

「俺だって魔物倒してるよ」

「ゴンは?」

「家」

「モチは?」

「家」

「じゃあ今日は見なくていいか」

「俺は?」

「トマト置いたら帰っていいぞ」

「みんなひどいな」

ギルド。白花しずく。

「森おじさん!」

「おう」

一拍。

「……モチは?」

「やっぱりか」

「何がです?」

「いや」

探索者証。受付。

「今日、借金ゼロって配信で言う」

しずくの顔がぱっと明るくなる。

「本当に完済したんですね」

「昨日の夜、確認した」

「三百万円」

「ゼロ」

「おめでとうございます!」

声。大きい。近くの受付。探索者。何人か見る。健司。少し照れる。

「ありがとう」

しずく。

「もっと喜んでくださいよ」

「喜んでるよ」

「全然見えない」

「母さんにも言われなかった」

「お母さんは?」

「よかったねって」

「森家、全体的に反応薄くないですか?」

「三百万消えたから十分」

「そこは数字なんですね」

ドローン。手続き。

「それで、今日は?」

「鎧蜥蜴」

「またですか」

「もう一回だけ」

「火炎魔法試すんです?」

「燃やさない」

「じゃあ?」

「ちょっと考えた」

健司。指。小さく。

「火を出したら、顔そっち向くだろ」

しずく。

「……目くらまし?」

「そこまで強くない」

「注意を逸らす?」

「そう」

《火炎魔法Ⅰ》。

威力。低い。なら攻撃に使わなくていい。右に火。魔物が右を見る。自分は左へ。

「囮にするんですか」

「使えるかなって」

「森おじさん、魔法使いっぽくない使い方しますね」

「火力ないからな」

「普通は鍛えて火力上げようって考えるんです」

「時間かかるだろ」

「かかります」

「じゃあ今ある分で」

「節約家ですね」

「借金なくなったばっかだから」

「もう返済しなくていいんですよ」

「癖になった」

配信。開始。タイトル。

【借金完済】田舎のおじさん、鎧蜥蜴にもう一度挑む

十秒。コメント。

《完済!?》

《0円!?》

《おめでとう!》

《三百万終わったw》

《森おじさんおめ》

《借金返済配信、最終回?》

健司。歩きながら。

「ありがとう」

《嬉しそうじゃない》

「嬉しいよ」

《顔がいつも通り》

「どういう顔すればいい?」

《万歳》

健司。片手。少し上げる。

「ばんざい」

《雑w》

《やる気なさすぎる》

《もう片方も上げろ》

「剣持ってる時に両手上げるの危ないだろ」

まだ入口。剣も抜いていない。

《今ならできる》

「しなくていいだろ」

視聴者。増える。二千。三千。普段より速い。

《結局誰が払ったの?》

「俺が四十万」

正確には自分で払ったのは四回。十万円ずつ。合計四十万円。

《残り260万は?》

「向こう」

《草》

《最初からそうしろ》

《森おじさん40万損してるじゃん》

健司。少し考える。

「まあ、そうだな」

《能力増えたんでしょ?》

コメント。健司。止まらず歩く。

「そこは詳しく言わない」

《怪しい》

《気配察知は言ってた》

「それは言った」

《剣うまくなった》

《最近力強い》

《火出せるって噂》

健司。足。止まる。

「何で火知ってる?」

《訓練場で見た人いる》

《ギルドで火の練習してたおじさん》

《三メートル》

「誰だよ見てたの」

《ライターおじさん》

「やめろ」

第一階層。ゴブリン。気配。一体。

「前いる」

剣。抜く。ゴブリン。角。出る。健司。一歩。斬る。一撃。

《剣術も強くなってるよな》

「前よりは」

《農業?》

「これは違う」

《ついに農業を捨てた》

「捨ててない」

第二階層へ。途中。コメント。

《借金なくなったら配信やめる?》

健司。歩み。少しゆっくり。これ、自分でも考えた。母にも言われた。借金がなくなったら、ダンジョンへ行く必要はない。

「やめないと思う」

コメント。

《お》

《続く!》

《よかった》

「毎日かは分からんけど」

《畑配信も》

「そっち?」

《ゴン》

《モチ》

《お母さんの塩むすび》

「俺のダンジョンは?」

《たまに》

「主従逆転してるな」

でも嫌ではない。続ける理由。金。もちろんある。農業だけより収入源は増える。農機具。家。ゴン。母。生活。金はいくらあっても困らない。それだけではない。

「昔より楽しいんだよ」

ぽつり。

《ダンジョンが?》

「うん」

昔。Dランク。若かった。稼ぐ。上へ。競争。今。四十六。畑がある。帰る家がある。無理なら帰る。今日は駄目。明日。それでいい。

「今は急がなくていいからな」

《いいな》

《おじさんの余裕》

《でも鎧蜥蜴に行く》

「逃げるかもしれないよ」

目的地。気配。一つ。大きい。

「いた」

鎧蜥蜴。灰色。硬い鱗。太い尾。低い姿勢。健司。周囲。確認。他。なし。通路。壁。逃げ道。十分。

「やる」

《きた》

《鎧蜥蜴リベンジ》

《火魔法!》

健司。右手。剣。左手。魔法。

「左でも出るかな」

魔力。意識。ポッ。小さな火。左手。出た。

「いける」

《小さい》

《ライター》

「うるさい」

鎧蜥蜴。こちらに気づく。頭。上げる。距離。十五メートル。動く。魔物。前へ。ゆっくり。十。八。六。急。突進。

「来た」

健司。横。避ける。速い。でも前回見た。分かっている。余裕。鎧蜥蜴。止まる。尾。薙ぐ。健司。下がる。まだ攻撃しない。一度。二度。動き。確認。

《慎重》

「前回より速くはなってない」

《同じ個体?》

「分からん」

背中。剣。無理。頭。無理。前脚。付け根。そこ。狙う。問題。魔物も向きを変える。簡単には横を取れない。

「じゃあ」

左手。火。小さな球。右側の壁へ。ボッ。飛ぶ。三メートル。四。壁。弾ける。鎧蜥蜴。頭。そちらへ。ほんの一瞬。

「見た」

健司。反対へ踏み込む。

《身体強化Ⅰ》。

速い。側面。前脚。剣。下から斜め。ザッ。前回より深い。鎧蜥蜴。吠える。脚。崩れる。尾。来る。健司。すぐ離れる。

《入った!》

「でもまだ」

魔物。立てる。左前脚。傷。血。動き。少し遅い。

「火、使えるな」

《攻撃してないw》

「囮」

再び。鎧蜥蜴。突進。傷のせいで速度が少し落ちる。健司。避ける。壁。近い。魔物。方向を変えようとする。火。左。ボッ。頭。向く。健司。右。剣。同じ前脚。今度さらに深い。魔物。倒れる。その瞬間。尾。床。叩く。健司。後退。ぎりぎり。石。砕ける。

「危な」

《おい》

《今のやばい》

「だから近づきすぎたら駄目」

倒れた。だが死んでいない。前脚。使えない。三本。身体を動かす。健司。近づかない。待つ。

《とどめ》

「まだ」

《行けるだろ》

「尾ある」

実際、尾が振られる。広い。倒れていても危険。健司。待つ。一分。二分。鎧蜥蜴。こちらを睨む。

「長いな」

《魔物だからな》

「こっちも急いでない」

少し回る。魔物が追おうとする。前脚が動かない。後方へは行かない。尾が危険。頭は硬い。腹。一瞬。見える。

「……そこか」

斜め。火。今度は顔の前ではなく少し上。ボッ。鎧蜥蜴。反射で頭を上げる。腹。首下。露出。健司。踏み込む。剣。突く。柔らかい。入る。深く。鎧蜥蜴。暴れる。健司。剣を抜く。即下がる。血。床。魔物。数歩動き。崩れる。まだ待つ。気配。弱い。さらに。消える。健司。ようやく息を吐く。

「……倒した」

《うおおお》

《鎧蜥蜴撃破》

《Eランクおじさん強い》

《火魔法仕事した》

《火力ゼロなのに有能》

「ゼロじゃないぞ」

《壁焦がした》

「焦げたな」

近づく。尾。動かない。剣。鞘。確認。素材。背中。鎧鱗。傷。ほぼなし。前脚。首下。そこだけ。

「火で焼いてないから素材きれいだな」

《やっぱそこw》

《金》

「大事」

しずくから通信。

『森おじさん、聞こえます?』

「聞こえる」

『一人で解体しないでください』

「駄目?」

『鎧蜥蜴は持ち込み回収申請できます。鱗傷つけると値段落ちます』

健司。即。手を離す。

「じゃあ触らない」

《早い》

《金の話だと素直》

位置情報。送る。回収班。待つ。壁。座る。塩むすび。今日は二個。

《本編》

「鎧蜥蜴倒した直後だぞ」

《でも本編》

「ひどいな」

一口。うまい。

《火炎魔法どこで覚えたの?》

健司。むすび。食べながら。

「秘密」

《絶対借金関係》

「秘密」

《ニヤニヤしてる》

「してない」

《借金なくなってスキル4つ増えた?》

健司。止まる。

「何で四つ?」

《返済4回って言った》

《10万×4》

《剣術、身体強化、気配察知、火炎?》

「お前ら怖いな」

《当たり?》

「言わない」

《当たりだw》

「言わないって」

全部隠しきるのは無理かもしれない。配信で毎回見られている。変化に気づかれる。でも仕組み。

《肩代わり》。

そこまでは話さない。今後また何かあるかもしれない。自分でも分からないギフト。軽々しく広めたくない。回収班。到着。鎧蜥蜴。処理。健司。帰還。ギルド。しずく。

「お疲れさまでした」

「疲れた」

「でも無傷」

「そこ大事」

「鎧蜥蜴、初討伐ですね」

「うん」

「Eランクになってからかなり順調ですよ」

「スキル増えたからな」

「認めるようになりましたね」

「鑑定で出たから」

査定。鎧蜥蜴。鱗。魔石。肉。その他。損傷少ない。96,400円健司。

「高い」

「状態いいですから」

「十万近いじゃん」

「ほぼ」

配信応援。38,720円。合計。十三万円以上。健司。明細を見る。

「……借金ないんだよな」

「ないです」

「これ全部返済に回さなくていい?」

「いいです」

「すごいな」

しずく。笑う。

「そこですか」

「今まで入ったら十万残すかどうか考えてたから」

「貯金してください」

「農機具」

「貯金も!」

「軽トラもそろそろ」

「森おじさん!」

「何?」

「まず残してください!」

十八歳。四十六歳へ。家計指導。健司。

「母さんみたいだな」

「誰がですか!」

「怒り方」

「森おじさんが雑なんです!」

配信最大同時視聴者。6,314人。過去最高。健司。

「六千?」

「完済と鎧蜥蜴ですね」

「この辺の人口より」

「もうその比較やめません?」

「分かりやすい」

「森おじさんにだけです」

そこへギルドマスター。

「森」

「おう」

「鎧蜥蜴倒したって?」

「一匹」

「配信見た」

「仕事しろよ」

「してるわ」

しずく。横。笑う。ギルドマスター。探索者証。E。

「昔より慎重になったな」

「四十六だぞ」

「昔はもう少し突っ込んでた」

「若かったから」

「今の方が長生きする」

「そのつもり」

ギルドマスター。腕を組む。

「ちょうどいいか」

「何が?」

端末。一枚。情報。第二階層北側農業区画跡・採取調査健司。

「農業?」

「昔、ダンジョン内で試験栽培やってた区画があるの知ってるか」

「知らん」

「お前が引退したあとにできた」

ダンジョン。農業。健司の目が少し変わる。

「何育ててた?」

「魔力野菜。薬草。地下環境向け作物」

「へえ」

「数年前に区画閉鎖。最近、奥で植物系魔物が増えてる」

「それで?」

「正式な討伐依頼じゃない。調査。採取。現況確認」

Eランク以上。一人でも可。危険なら撤退。健司。紙を見る。

「これ」

「お前向きじゃないかと思ってな」

農家。元Dランク。現Eランク。慎重。採取。植物。

「配信していい?」

「一部制限ある。場所は申請時に説明する」

「報酬?」

しずく。小さく。

「そこからなんですね」

ギルドマスター。笑う。

「基本調査料三万円。指定素材が取れれば別」

健司。

「悪くない」

「受けるか?」

即答しない。紙を見る。植物系魔物。閉鎖された農業区画。未知。

「一回、資料読む」

ギルドマスター。頷く。

「それでいい」

「現地行くかはそのあと」

「お前ならそう言うと思った」

依頼。コピー。受け取る。しずく。

「森おじさん、興味ありそうですね」

「農業区画って何だよ」

「ダンジョン内農業の実験施設です」

「土?」

「人工培土だったはず」

「水は?」

「魔力水路」

「照明?」

「魔力灯」

「肥料?」

「そこまで私に聞かれても!」

健司。紙。かなり興味ある。借金がなくなった。ダンジョンへ行く理由。減るどころか、また一つ増えた。帰宅。夕方。ゴン。門。モチ。飛ぶ。

「ただいま」

ピィ。

「鎧蜥蜴倒したぞ」

ピィ。

「興味ない?」

ブルーベリー。袋。見せる。ピィィ!

「そっちは分かるんだな」

母。玄関。

「おかえり」

「ただいま」

「怪我した?」

「してない」

「よかった」

「今日、大きいトカゲ倒した」

「食べられる?」

またそれ。

「多分」

「持って帰ってきた?」

「肉は売った」

「あら」

「今度食べる?」

「おいしいなら」

「調べとく」

夕飯。今日はカレー。健司。手。止まる。

《火炎魔法》。

一瞬思い出す。

「どうしたの?」

「いや」

「辛い?」

「普通」

食べる。うまい。食後。羊羹。借金。ない。スマートフォン。金融会社。もう開く必要はない。それでも癖で開く。0円。健司。少し笑う。

「何笑ってるの?」

母。

「ゼロ」

「何が?」

「借金」

「昨日もゼロだったでしょう」

「そうだけど」

「増えてないならいいじゃない」

「増えたら怖いよ」

「もう保証人になっちゃ駄目だよ」

健司。手。止まる。母。普通に茶を飲む。

「……うん」

短い。でも強い。

「もうならない」

それだけははっきり言った。机。ギルドからもらった資料。母。覗く。

「何それ?」

「ダンジョンの畑」

「畑?」

「昔、ダンジョンの中で野菜育ててたんだって」

母。

「日が当たらないのに?」

「俺もそこ気になった」

二人。資料。見る。閉鎖区画。人工培土。魔力水。魔力灯。そして現在。野生化した植物。植物系魔物。健司。少し面白くなる。

「今度見に行ってみようかな」

母。

「畑を?」

「うん」

「うちの畑あるのに?」

健司。止まる。

「……そう言われるとな」

母。

「草、まだ残ってるよ」

「明日やる」

「先にそっちね」

「はい」

借金がなくなっても。ダンジョンがあっても。魔法が増えても。結局最優先は家の畑。それは何も変わらなかった。ただ。その夜。健司が寝る前に見た配信のコメント欄では別の話が盛り上がっていた。

《借金完済したならタイトル変わる?》

《借金返済ダンジョン配信じゃなくなる》

《田舎のおじさんの普通のダンジョン配信》

《普通ではない》

《農家が火炎魔法覚えてる時点で普通じゃない》

《次は何返すんだ》

《もう借金ないぞ》

その中。一つ。妙に多く評価されているコメント。

《借金返済編、終わっただけじゃね?》

健司はそれを見て。

「編って何だよ」

と呟き、スマートフォンを伏せた。明日は畑の草取り。その次、余裕があればダンジョンの畑。少し見に行ってみる。借金返済から始まった探索者生活は、借金がなくなったくらいでは終わらないらしかった。


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