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4/21

第4話 アプリを出したいだけなのに ~夏~

その日apple店舗で、Macを買った。


しかも最大分割で買った。


もう知らん。


私はそう思った。


買う前に考えるから苦しい。


買った後は、もう考えなくていい。


なぜなら、買ったからである。


非常にシンプルな理屈だった。


私はMacを手に入れた。


Xcodeも入れた。


Apple Developer Programにも登録した。


年額。


またドル。


また金。


だが、私はもうMacを最大分割で買った男である。


今さら多少の年額で止まる男ではない。


金銭感覚は、すでに遠くへ行っていた。


たぶん当分帰ってこない。

帰ってきたら泣いちゃうので疎開してもらってる。

ここは戦場である。

前に進むため、恐怖心を麻痺させる必要があるのである。


私は画面を見つめた。


Apple Developer。


Developer。


開発者。


それは私のことである。


ついに私は、Appleから開発者として認められた。


正確には、年額を払っただけである。


だが、認められた気がした。


かなり認められた気がした。


机の上にはMac。


画面にはXcode。


横にはAI Agent。


そして私はApple Developer。


勝った。


完全に勝った。


この布陣で負ける方が難しい。


私は考えた。


日本のPC利用者のうち、Mac利用者はだいたい五人に一人だ。


さらに、その中でAI Agentに月額課金している人間は、どれくらいいるのだろう。


さらにさらに、そのAI Agentに月15000円を払い、FlutterでiPhoneアプリを作ろうとしている人間は、どれくらいいるのだろう。


かなり少ない。


おそらく、数パーセントである。


いや、もっと少ないかもしれない。


私は今、時代のかなり先端にいる。


先端すぎて、足元が崖である。

オンザエッヂである。

ライブドアである。

若い人にはわかるネタなのか疑問である。


アプリは動いた。


少なくとも、Android Studioでは動いた。


天気が出る。


服装が出る。


持ち物も出る。


画面もある。


ボタンもある。


まだ少し怪しいところはある。


だが、動いた。


動いたということは、アプリである。


アプリであるなら、出せばいい。


App Storeに。


世界に。


ジョニーに。


私はApp Store Connectを開いた。


名前からして強い。


App Store。


Connect。


つまり、App Storeとつながる場所である。


私はついに、世界と接続するのだ。


私は画面を見つめた。


新規App。


これである。


私はクリックした。


いよいよ、店に商品を並べる。


簡単な話である。


ラーメン屋がラーメンを出す。


パン屋がパンを出す。


私はアプリを出す。


ただそれだけだ。


そう思っていた。


だが、App Storeは店ではなかった。


注文の多い店だった。


まず、アプリ名。


私は入力した。


消した。


また入力した。


また消した。


三十分が消えた。


アプリを出したいだけなのに。


私は名前を決めていた。


次に、サブタイトル。


名前だけでは足りないらしい。


その次に、カテゴリ。


天気なのか。


ライフスタイルなのか。


ユーティリティなのか。


私は迷った。


アプリを出したいだけなのに。


私はジャンル論を始めていた。


さらに、説明文。


キーワード。


アイコン。


スクリーンショット。


年齢レーティング。


プライバシー。


審査情報。


多い。


あまりにも多い。


私はひとつずつ入力していった。


説明文を書くと、急に法人みたいになった。


アイコンを作ろうとすると、巨大な正方形を求められた。


スマホ用と思っていたが、iPadのスクリーンショットも撮る事になった。


プライバシーを答えようとすると、自分のアプリが何をしているのか急に怖くなった。


私はアプリを出したいだけである。


ただ、作ったものを店に置きたいだけである。


それなのに、私は名前を考え、コピーを書き、ロゴを作り、個人情報保護に向き合っている。


これは本当に個人開発なのか。


個人総合商社ではないのか。


私は画面を見つめた。


まだ入力欄があった。


サポートURL。


私は止まった。


URL。


サポートURL。


何だそれは。


アプリに困った人が見るページらしい。


なるほど。


ユーザーサポート。


大事である。


大事なのはわかる。


だが、私は一人である。


チームを選択してくださいと言われた時も一人だった。


サポートも一人である。


サポートされたいのは私の方である。


私はさらに下を見た。


プライバシーポリシーURL。


またURLである。


URLが二つある。


サポートURL。


プライバシーポリシーURL。


URL。


つまり、サイトである。


私は画面を見つめた。


なぜ。


なぜ、サイトがいるのか。


私はiPhoneアプリを作っていたはずである。


天気で服装を提案するアプリである。


朝の判断を減らすアプリである。


ジョニーを半袖半ズボンから救うアプリである。


それなのに、今、私はWebサイトを求められている。


私はアプリを出そうとしていた。


だが、気づいたらサイトを作ることになっていた。


何を言われているのかわからないと思うが、私も何を求められているのかわからなかった。


アイコンだとか、スクリーンショットだとか、そんなちゃちなものではない。


もっと恐ろしい、App Store Connectの片鱗を味わった。

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