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第3話 吾輩はWindowsである。Macはまだない。

月3000円の開発チームは、午前中で全滅した。


利用上限。


恐ろしい言葉である。


私は、しばらく画面を見つめていた。


月3000円を払った。


飲み会一回分を捧げた。


ランチ数日分を犠牲にした。


コンビニで何も考えずにカゴへ入れる権利も、何回か失われた。


その結果、私の開発チームは午前中で解散した。


早い。


あまりにも早い。


ホワイトAIである。

人間の会社にもホワイト要素を分けて欲しい。


働きすぎる前に帰る。


しかも、帰り方が静かだった。


「お先に失礼します」もない。


「すみません、今日はここまでで」もない。


ただ、画面に出る。


利用上限に達しました。


もう少し申し訳なさそうにしてほしい。


だが、相手はAI Agentである。


感情はない。


私は調べた。

どうやら、待てばまた使えるらしい。


数時間後なのか。

翌日なのか。

月が変わってからなのか。


細かいことはよくわからない。


だが、とにかく待てば復活する。


なるほど。


安心した。


安心したが、私はすぐに気づいた。


だが、私の休みは短い。


待てないのである。


平日は会社がある。

夜は眠い。

土日は家の用事がある。

気づけば月曜日である。


AI Agentの利用上限はいつか戻る。


しかし、私の休日は戻らない。


これは、かなり深刻な問題だった。


あるのはプランだけである。


私は画面を見つめた。


上位プラン。


月100ドル。


100ドル。


ドルである。


急に海外である。


昨日まで私は、海外展開を夢見ていた。


ジョニーが使う未来を想像していた。


まさか最初に海外対応してくるのが、利用料金の方だとは思わなかった。


100ドル。


日本円にすると、だいたい15000円くらい。


15000円。


私は静かに息を止めた。


月3000円で高いと言っていた男の前に、15000円が現れた。


五倍である。


進化形である。


月3000円がスライムなら、月15000円は中ボスである。


月に一本までと決めているPS5のソフトが、二本買える。


いや、普通に痛い。


かなり痛い。


私は会社員である。


毎月、給与明細を見ている。


総支給額を見て一瞬だけ夢を見て、控除欄を見て現実に戻されるタイプの会社員である。


その私に、月15000円。


重い。


あまりにも重い。


だが、考えてみてほしい。


これは浪費ではない。


投資である。


自己投資である。


未来への投資である。

この件は前にやったので割愛する。


ここで止まるわけにはいかない。


なぜなら、私はもう要件を出している。


画面もある。


Flutterも知っている。


.dartという、何かよくわからない拡張子にも出会った。


アプリ名の入口も見えた。


ジョニーも待っている。


ここで引き返したら、ジョニーはどうなる。


冬も半袖半ズボンのままである。

私は血の涙を流しながら、上位プランに入った。

血の涙は川となり、川は海へ注ぎ、海は赤く染まった。

そして私は、月15000円を支払った。


登録。


完了。


この瞬間、私はアーリーアダプターになった。

新しい技術にいち早く触れ、未来を先取りする人間。

時代の変化を恐れず、誰よりも早く荒野へ踏み出す者。

そう。

支出ではない。

先行者利益である。


その瞬間、開発チームが復活した。


月3000円の開発チームではない。


月15000円の開発チームである。


かなり強い。


だいぶ強い。


もうこれは精鋭部隊ではない。


特殊部隊である。


私はAI Agentに向かった。


「続きからお願いします」


送信。


AI Agentは、何事もなかったかのように動き始めた。


冷たい。

「旦那。すみませんね、へへ、商売なもんで」ぐらい一言あってもいいと思う。


だが頼もしい。


さっきまで解散していた開発チームが、金を払った瞬間に戻ってきた。


社会である。


私は少し大人になった気がした。

今まで敵だと思っていた社長の気持ちが、少しだけわかった。

金を払わなければ、人は動かない。

AIも動かない。


AI Agentは作業を再開した。


プロジェクトを作る。


必要なファイルを用意する。


main.dartを書く。


画面を作る。


服装提案ロジックを作る。


サンプル天気データを入れる。


実行方法を示す。


出る。


また出る。


月15000円の力で、コードが出る。


私は画面を見つめた。


今度こそ、いける。


今度こそ動く。


AI Agentが言った。


「完成しました。実行環境を選んでください。Android StudioでAndroidエミュレーターを使う方法と、XcodeでiOSシミュレーターを使う方法があります」


Android Studio。


聞いたことはある。


Androidである。


たぶん緑色のロボットである。


Xcode。


私は止まった。


Xcode?


何だそれは。


エックスコード。


名前が強い。


秘密組織みたいである。

X-MENの仲間かもしれない。


コードにXが付いている時点で、かなり開発者っぽい。


私はAI Agentに聞いた。


「わかりませんが、iPhoneアプリを作りたいです。」


送信。


返事が来た。


「はい。iPhoneアプリをビルド・実行・配布するには、基本的にXcodeが必要です」


なるほど。


Xcodeが必要。


私はうなずいた。


必要なら入れればいい。


私はWindowsユーザーである。


Windowsには何でも入る。


VS Codeも入った。


AI Agentも入った。


Flutterも、たぶん入る。


ならばXcodeも入れればいい。


私は聞いた。


「WindowsにXcodeを入れる手順を教えてください」


送信。


少し間があった。不穏。


返事が来た。


「XcodeはmacOS専用です。Windowsにはインストールできません」


私は固まった。


Windowsには、入らない。


Xcodeは、Windowsには、入らない。


私はもう一度読んだ。


「XcodeはmacOS専用です」


macOS。


Mac。


私は、Windowsの民である。


会社でもWindows。


家でもWindows。


ショートカットキーもWindows。


キーボードもWindows配列。


たまに勉強会のシールをペタペタ貼って、スタバで作業をしているMacを使っている人を見ると、クリエイターっぽく見えて腹が立つ。


だが、今は腹を立てている場合ではない。


iPhoneアプリを作るには、Xcodeがいる。


XcodeはMacにしか入らない。


つまり。


iPhoneアプリを作るには、Macが必要である。

iPhoneアプリを作るには、Macが必要である。

大事なので2度いいました。


よかろう。ならば、Macを用意すればいい。


私はブラウザを開いた。


Appleのページを見る。


白い。


美しい。


余白がある。


なんかスッとしている。


私はMacの値段を見た。

ワ……!Mac...高い……ってコト!?泣いちゃった……!


月3000円で震えた男が、


月15000円で血の涙を流した男が、


今、20万円を超えるリンゴを見ている。

Proなら30万を超える。


私は椅子にもたれた。


吾輩はWindowsである。


Macはまだない。

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