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第17話 It’s a Small World

日本で、私は、4ヶ月で70000円稼いだ。


月にすると、2万円ほど。


正確には、そこから15000円失ったが。


だが、細かいことはいい。


日本という、この国だけで、月2万円。


私のアプリは、お金を生んでいた。


ここで、私はある事実に気づく。


日本の人口。


1億2000万人。


世界の人口。


——70億人。


70億。


日本の、およそ70倍である。


私は固まった。


70倍。


日本で月2万円なら、世界では、2万かける70。


——月、140万円。


年にすると、1680万円。


私は息を止めた。


これはもう、会社員ではない。


事業家である。


いや、待て。


世界には、まだ伸びしろがある。


ジョニーがいる。


第一話あたりで私の脳内に現れた、海外代表の男である。


世界中のジョニーが、まだ私のアプリを知らない。


知れば、買う。


たぶん。


いや、きっと買う。


何かに困っているジョニー。


まだ見ぬ便利さを知らないジョニー。


App Storeのどこかで、私のアプリと出会うはずだったジョニー。


彼らは、私を待っている。


70億人が知れば。


私は。


——億万長者である。


私は皮算用をしていた。


しかも、70億匹の狸である。


その狸の皮で、私は御殿を建てていた。


70億匹分の御殿である。


広い。


広すぎる。


たぶん掃除が大変である。


だが、私は御殿の維持費を心配していた。


いや私は堅実。


たとえ売れたとしても住む場所は変えまい。


生活レベルを上げるのは簡単でも下げるのは難しいのだから。


私は世界展開を決意した。


まず、翻訳である。


私はAI Agentに頼んだ。


「ストアの説明を、各言語に翻訳して」


AI Agentは、すぐ出してきた。


私は英語版を見た。


——三行だった。


日本語には心を込めた。


誰に向けたアプリなのか。


何ができるのか。


どう便利なのか。


どう使ってほしいのか。


そういうものを、丁寧に書いた。


だが、英語は三行だった。


世界が、三行で処理されていた。


ドイツ語を見た。


ない。


フランス語を見た。


ない。


スペイン語を見た。


ない。


こいつ、また世界を雰囲気で片付けた。

このユーザーは他国語なんてチェックできないと舐めているに違いない。

AIの人間性が垣間見えてきた。


だが、今回の私は違う。


私は学んだ男である。


世界は、雰囲気では取れない。


心で取るのだ。


私は一つ一つ、直した。


英語。


中国語。


韓国語。


スペイン語。


フランス語。


ドイツ語。


そのほか、いろいろ。


39地域対応。


何ヶ国語も。


ちゃんと、心を込めて。


世界中のジョニーに届くように。


私は翻訳していた。


いや、翻訳ではない。


これはマーケティングである。

価値を伝え納得してもらい手に取ってもらうための世界への営業だ。


完璧なグローバル対応だった。


私は世界に向けて、アプリを放った。


そして、待った。


億万長者になる日を。


数週間後。


私は1週間の国別の売上を見た。


そこには、こうあった。


アメリカ3。


日本12。


韓国1。


中国2。


——以上。


私は画面を見つめた。


以上。


短い。


世界にしては、短い。


ドイツ。


ゼロ。


フランス。


ゼロ。


スペイン。


ゼロ。


あれだけ心を込めて翻訳した国々。


全部、ゼロ。


私の祈りは、届かなかった。


いや、届いたのかもしれない。


届いたうえで、誰も買わなかったのかもしれない。


その方が、少しつらい。


私はもう一度、数字を見た。


日本以外をすべて足しても、日本の半分だった。


世界に出た。


だが、70倍ではなかった。


半分だった。


世界は広い。


地図で見れば、とても広い。


だが、私のアプリを買う世界は、驚くほど小さかった。


四ヶ国分しか、なかった。


It’s a Small World。


そういう意味ではない。


そういう意味ではないが、今の私には、そうとしか思えなかった。


70億人は、どこへ行ったのか。


私の年1680万円は、どこへ行ったのか。


御殿は。


狸は。


私は英語版のストアを、もう一度開いた。


心を込めて翻訳した説明文。


ジョニーに届くはずだった言葉。


だが、ジョニーは来なかった。


ジョニーは、私のアプリを知らないまま。


今日もどこかの街で、いつも通りの生活をしている。


私の言葉も受け取らずに。


私のアプリも開かずに。


私はその背中を、画面の向こうから見送った。


いってらっしゃい、ジョニー。


いつか会おう。


私の御殿は、今日も四ヶ国に、ぽつぽつと建っている。


70億匹分ではない。


狸、数匹分である。

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