第11話 星座になれたら
検索順位は相変わらず、彼方だった。
王は動かなかった。
だが、それでも、ダウンロードは少しずつ増えていた。
1が5になった。
5が12になった。
12が30になった。
30である。
30人。
私を除いて、29人。
知らない29人が、私のアプリを入れた。
私は震えた。
29人。
ほぼ、クラスひとつ分である。
学級である。
私は29人の担任になった。
私は欲が出てきた。
ダウンロードの次は、レビューである。
★の数である。
App Storeでは、★がすべてだった。
★が高いと上に来る。
★が高いと信用される。
では、私のアプリの★は。
——まだ、ゼロだった。
レビューがひとつもついていない。
29人、いるのに。
誰も書いてくれない。
当然である。
人は、わざわざレビューを書かない。
良くても書かない。
書くのは、よほど怒ったときである。
ならば、お願いするしかない。
レビュー依頼のダイアログ。
「このアプリを評価してください」
あれである。
アプリを使っていると、ときどき出てくる、あれ。
私はあれを、自分のアプリにも入れることにした。
私はAI Agentに頼んだ。
「レビュー依頼のダイアログを出して」
すぐできた。
公式の仕組みがあるらしい。
数行でついた。
問題は、タイミングだった。
いつ、出すか。
私は考えた。
レビューは多いほどいい。
だったら、全員に出すべきである。
一人も取りこぼしたくない。
では、いつが一番、取りこぼさないか。
——インストールした直後である。
そうだ。
入れた瞬間。
それが一番、熱量が高い。
ダウンロードしてくれた、その熱いうちに。
「評価してください」
これしかない。
私は設定した。
アプリを開いた瞬間。
一番最初に。
レビュー依頼を出す。
完璧である。
鉄は熱いうちに打て。
私は自分の判断に惚れ惚れした。
私はアップデートを出した。
そして、待った。
ウキウキしながら、待った。
これで、レビューが増える。
29人が★をつけてくれる。
★5が29個。
平均、★5。
満点である。
私は満点の未来を見ていた。
App Store Connectを開いた。
レビューの欄を見た。
0。
まだ、0。
出したばかりである。
私は5分後、また開いた。
0。
10分後。
0。
そして、夜。
通知が来た。
「新しいレビューが、投稿されました」
来た。
ついに、来た。
私は飛びついた。
記念すべき、最初のレビュー。
私のアプリへの、最初の声。
私は開いた。
★1。
★が、ひとつ。
ひとつ、だけ。
私は固まった。
★1。
コメントもあった。
私は読んだ。
「開いた瞬間、いきなり評価を求められた。
まだ何も使ってない。
うざい。」
うざい。
★1である。
私は椅子にもたれた。
そうだ。
考えてみれば、そうである。
インストールした瞬間。
まだ一回も使っていない。
何も便利を感じていない。
そこへ、いきなり。
「評価してください」
うざい。
たしかに、うざい。
私だって、うざい。
ほかのアプリでそれをされたら、私も★1をつける。
いや、つけている。
何度もつけている。
私は、自分がいつもイラッとしていた、あれを、自分のアプリで忠実に再現していた。
熱いうちに打ったのは、ユーザーの堪忍袋だった。
私は、夜空を見るような気持ちで、App Store Connectを開いた。
私のアプリに、ひとつ、星が灯っていた。
星ひとつ。
ずっと、ほしかった星だった。
だが、これは、私のほしかった星とは違った。
星の王子さまは、たくさんの星の中から、たったひとつの自分の星を愛した。
私の星は、たったひとつで。
しかも、★1だった。
私はその、たったひとつの星を、しばらく見つめていた。
「うざい」と、書いてある。
これが、私のはじめての星だった。
だが、物語は、そこで終わらなかった。
翌日。
また通知が来た。
「新しいレビューが、投稿されました」
私は祈るように開いた。
今度こそ。
今度こそ、★5。
昨日の★1を、打ち消す、希望の星。
私は開いた。
★1。
また、ひとつ。
コメントもあった。
「機能が少ない。
本を登録するだけ。
これで何をしろと?」
私は、画面を見つめた。
その通りである。
本を登録するだけのアプリである。
私は、世界を救うことをやめた。
高齢化社会を諦めた。
二度買いだけを救うと決めた。
小さくした。
小さくした結果、機能も小さくなった。
小さすぎた。
ユーザーには、ちゃんと見えていた。
さらに翌日。
また通知が来た。
「新しいレビューが、投稿されました」
私はもう、祈らなかった。
少しだけ、悟っていた。
私は開いた。
★1。
三つ目である。
コメント。
「バーコード読み取りくらい欲しい」
私は天を仰いだ。
欲しい。
それは、私も欲しい。
本当は欲しかった。
だが、実装が面倒だった。
だから、後回しにした。
後回しにしたものは、ユーザーには見えない。
ユーザーに見えるのは、無い、という事実だけである。
私の都合は、レビュー欄には載らない。
気づけば、レビュー欄には星が三つ並んでいた。
★1。
★1。
★1。
星が、増えていた。
レビューは、増えた。
私の作戦は、成功した。
たしかに、成功した。
レビュー依頼を入れた結果、レビューは増えた。
全部、★1だっただけである。
私は、夜空を見るような気持ちで、その三つの星を見つめた。
星座には、なれなかった。
そう思っていた。
だが、違った。
これは、もう、星座だった。
★1が三つ、線で結ばれている。
「うざい」
「機能が少ない」
「バーコード読み取りくらい欲しい」
三つの星が、私の未熟さを夜空に描いていた。
ぼっち・ざ・ろっく!なら、ここで「星座になれたら」が流れるだろう。
だが、私のレビュー欄にあるのは、結束バンドではない。
結束しているのは、低評価である。
バンドでもない。
ファンでもない。
怒ったユーザーたちである。
私は、ようやく星座になれた。
星1の星座に。
アプリは、ようやく評価された。
ただ評価は、最低だっただけである。




