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第10話 ASO戦記 検索順位の彼方へ

ダウンロード数は、1だった。


そして、その1は私だった。


私は考えた。


どうすれば2になるのか。3になるのか。


私は調べた。


「アプリ ダウンロード 増やす」


すると、ある言葉が何度も出てきた。


ASO。


App Store Optimization。


アプリストア最適化。


検索で見つけてもらうための、戦いである。


なるほど。


私のアプリがダウンロードされないのは、誰にも見つけられないからである。


見つけてもらうには、説明文とキーワードを整える。それが、すべての入り口だった。


ダウンロードには、ASOが大事。


私はようやく、それを知った。


そういえば、ストアの情報はAI Agentに任せていた。


アプリ名。説明文。キーワード。


全部、任せた。


私はマーケターに転生した男である。


社長は細部を見ない。社長は任せる。任せて、信じる。それが経営である。


私は月額の部下を信じていた。


だが、ASOが大事だという。


ならば、一度見直すか。


私はApp Store Connectの編集画面を開いた。


そして、説明文を見た。


三行だった。


説明文が、三行で終わっていた。


「本を登録できます。


持っているか、確認できます。


便利です。」


——便利です。


私はその三行を二度読んだ。


便利です。


最後のひと押しが、「便利です」だった。


世界に向けた、私のアプリの自己紹介。それが、三行と「便利です」だった。


私はキーワード欄を見た。


二語だった。


「本」


「管理」


それだけだった。


100文字、入る欄に。二語。「本」と「管理」。


スカスカである。


世界で一番、競争の激しい欄に、丸腰どころか、二語で立っていた。


ある意味強者である。


日本ならば、丸裸すぎて公然わいせつ罪で捕まる可能性すらあるだろう。


私は天を仰いだ。


部下。おまえ……。


月額15000円である。


私は月に15000円、払っている。


その部下が、説明文を三行、キーワードを二語、そして「便利です」。


サボったわけではない。悪意があったわけでもない。

むしろ、アプリが機能が無さすぎるのかもしれない。

しかし…


こいつは、ちゃんと仕事をした顔で、これを置いていった。置いて、帰った。


「本を登録できます。便利です。」


これを置いて、満足げに帰っていったのである。


私は悟った。


こいつ、ストアを“雰囲気”で片付けたな。


アプリ本体は何度も作り直させた。だが、ストアは雰囲気だった。


たぶん、こう思ったのだろう。


「説明? まあ、便利、って書いとけば、いいか」


よくない。


全然、よくない。


私はようやく、理解し始めた。


ダウンロードが伸びない理由。それは、機能のせいではなかった。


私のアプリは、検索される以前に、そもそも説明されていなかった。


例えるなら、こうである。


店の奥に、便利な道具がちゃんと置いてある。だが、店先の手書きの看板には、こう書いてある。


「便利です」


何が便利なのか。書いていない。


通りすがりの人は思う。


——何の店だろう。


そして、通り過ぎる。中に何があるか、わからないからである。


私のアプリも、同じだった。


中には、本の登録も、二度買いの防止も入っていた。だが、看板には「便利です」とだけ書いてあった。


これでは、誰も入らない。


ここで、私はひとつの真理にたどり着いた。


アプリは、作るだけでは存在しない。説明され、検索され、見つけられて、はじめて存在する。


私は、作っただけだった。


つまり、私のアプリは、まだ存在していなかった。


哲学である。


夜中に、急に哲学である。


だが、私は折れなかった。


これは絶望ではない。伸びしろである。


説明していない。つまり、説明すれば上がる。


検索されていない。つまり、対策すれば見つかる。


伸びしろしかない。伸びしろの塊である。


私は部下を解任しなかった。


だが、ストアだけは自分でやることにした。


私はキーワード欄を開いた。


100文字。


世界展開を夢見た男に与えられた、武器。


100文字である。


私は、いきなり書かなかった。


今度の私は、マーケターである。


マーケターは、調べる。


私は検索した。


「App Store キーワード 登録 コツ」


すると、たくさん出てきた。


キーワードは、ただ思いついた単語を並べればいいわけではないらしい。


アプリ名やサブタイトルに入っている言葉は、重複させない。


カンマで区切る。


余計なスペースは入れない。


強すぎる単語だけを狙わない。


ユーザーが実際に検索しそうな言葉を入れる。


ビッグワードと、具体的な言葉を組み合わせる。


つまり、戦略である。


私はうなずいた。


今度は、雰囲気ではない。


ちゃんと調べた男である。


まず、私は考えた。


このアプリを必要とする人は、何と検索するのか。


「本」


強い。


強すぎる。


敵が多すぎる。


「読書」


これも強い。


読書記録の王たちが、すでに城を建てている。


「本棚」


まだ戦える気がする。


「蔵書」


少し賢そうである。


「漫画」


私の実体験に近い。


「コミック」


横文字である。


「重複」


これだ。


私は震えた。


私が救いたいのは、読書ではない。


感想でもない。


成長でもない。


重複である。


本を二度買う。


同じ巻を、また買う。


その悲しみを防ぐ。


ならば、狙うべきは「読書」ではない。


「重複購入」である。


私はついに、ユーザーの検索意図にたどり着いた。


マーケティングである。


私は、候補を書き出した。


本棚。


蔵書。


漫画。


コミック。


重複。


購入管理。


買った本。


持ってる本。


二度買い。


ダブり。


私は並べた。


消した。


また並べた。


100文字に収まるように、削った。


まるで俳句である。


いや、違う。


俳句には季語がある。


こちらには、重複購入がある。


私はキーワード欄に入力した。


本棚,蔵書,漫画,コミック,重複,購入管理,買った本,持ってる本,二度買い,ダブり


私は読み返した。


強い。


かなり、強い。


「本」「管理」だけだった頃とは、違う。


今の私は、検索意図を理解している。


ターゲットを絞り、競合を避け、具体語を入れた。


マーケターである。


完全に、マーケターである。


私は保存ボタンを押した。


これで、いける。


検索順位の彼方に、ユーザーが待っている。


私は冷めたコーヒーを飲んだ。


うまくはない。


しかし、今の私には勝利の味がした。


私は部下を解任しなかった。


だが、ストアだけは自分でやることにした。


私はキーワード欄を開いた。


100文字。


世界展開を夢見た男に与えられた、武器。


100文字である。


私は、いきなり書かなかった。


今度の私は、マーケターである。


マーケターは、調べる。


私は検索した。


「App Store キーワード 登録 コツ」


すると、たくさん出てきた。


キーワードは、ただ思いついた単語を並べればいいわけではないらしい。


アプリ名やサブタイトルに入っている言葉は、重複させない。


カンマで区切る。


余計なスペースは入れない。


強すぎる単語だけを狙わない。


ユーザーが実際に検索しそうな言葉を入れる。


ビッグワードと、具体的な言葉を組み合わせる。


つまり、戦略である。


私はうなずいた。


今度は、雰囲気ではない。


ちゃんと調べた男である。


まず、私は考えた。


このアプリを必要とする人は、何と検索するのか。


「本」


強い。


強すぎる。


敵が多すぎる。


「読書」


これも強い。


読書記録の王たちが、すでに城を建てている。


「本棚」


まだ戦える気がする。


「蔵書」


少し賢そうである。


「漫画」


私の実体験に近い。


「コミック」


横文字である。


「重複」


これだ。


私は震えた。


私が救いたいのは、読書ではない。


感想でもない。


成長でもない。


重複である。


本を二度買う。


同じ巻を、また買う。


その悲しみを防ぐ。


ならば、狙うべきは「読書」ではない。


「重複購入」である。


私はついに、ユーザーの検索意図にたどり着いた。


マーケティングである。


私は、候補を書き出した。


本棚。


蔵書。


漫画。


コミック。


重複。


購入管理。


買った本。


持ってる本。


二度買い。


ダブり。


私は並べた。


消した。


また並べた。


100文字に収まるように、削った。


まるで俳句である。


いや、違う。


俳句には季語がある。


こちらには、重複購入がある。


私はキーワード欄に入力した。


本棚,蔵書,漫画,コミック,重複,購入管理,買った本,持ってる本,二度買い,ダブり


私は読み返した。


強い。


かなり、強い。


「本」「管理」だけだった頃とは、違う。


今の私は、検索意図を理解している。


ターゲットを絞り、競合を避け、具体語を入れた。


マーケターである。


完全に、マーケターである。


私は保存ボタンを押した。


いや、正確には、保存しただけでは終わらなかった。


説明文を直す。


キーワードを直す。


スクリーンショットも少し直す。


そして、新しいバージョンを審査に出す。


また、審査である。


私は、App Store Connectの画面を見た。


審査待ち。


また、お前か。


だが、今度の私は違う。


スパムと言われた男ではない。


ダウンロード数1を経験した男である。


しかも、その1は私である。


私は、待った。


一日。


二日。


そして、メールが来た。


承認。


通った。


私はうなずいた。


ASOが、世界に放たれた。


説明文は、三行ではない。


キーワードも、二語ではない。


今度の私は、ちゃんと調べた。


ちゃんと整えた。


ちゃんと審査を通した。


これは、いける。


検索順位の彼方に、ユーザーが待っている。


私は冷めたコーヒーを飲んだ。


うまくはない。


しかし、今の私には勝利の味がした。


私はApp Storeで検索した。


「本」。


結果が出た。


1ページ目。


巨大な企業の読書管理アプリが、ずらりと並んでいた。


何十万ダウンロードもされた、本物たちである。


私はASOをやった。


説明文を直した。


キーワードも整えた。


審査も通した。


数日、待った。


最適化した。


だが。


1ページ目の王は、動じなかった。


王は、検索結果の頂に立っていた。


何十万のダウンロード。


数万のレビュー。


私が100文字を必死に整えたことなど、王は気づいてすらいない。


私の最適化は、王の足元にも届かなかった。


敵もまた、遥か。怪物。


私のアプリは、いない。


私はスクロールした。


いない。


スクロールした。


いない。


スクロール。


スクロール。


スクロール。


指が疲れてきた。


それでも、いない。


10回。


50回。


100回。


——いた。


100回スクロールした、その先に。


私のアプリが、いた。


「二度買いを防ぎます」と、以前より少しだけちゃんと説明しながら、静かに、そこにいた。


ここまでたどり着ける人は、たぶん、いない。


私だけである。


そして、その私は、もうダウンロード済みだった。


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