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どこかの世界線  作者: マメ


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6線~記憶のプイスト(公園)~《マニピュレーション》


「じゃあ駐車場つきのとこありましたからね」


車を降りてエントランスへ向かう2人。


すれ違い様に車のキーを返す男は派手な軽へと戻った。


「セルは相変わらずやりますね?初対面であんな綺麗な人を落とすなんて」


「ふ、何言ってんのさ?この私を娶った男だよ?当たり前だろ」


アクセルを踏み込む女。


「でもどうなんですか、奥さんとしての心境は?」


「はあ!?じゃお前が慰めてくれるのかい?」


「いえ遠慮させてください」


「何だよこの野郎」



当然、次の客を取ることなく夜の闇に消える派手な車だった。




大きな黒塗りの車が止まった。


助手席から降り、見送る瑠美は手を振った。


「おはようございます。昨日と同じ服ですね?それでは」


足を止めることなく追い抜いていく真樹夫。


(真樹夫以外は気づかないでしょう?)


と、佐藤の残り香に微笑む瑠美だった。



「おはようございます」


心を切り替え清々しい朝を演出する真樹夫。


「おはようじゃないだろ」


飛来する北山のきつい声に、真樹夫は時計を見た。


「見ていないのかお前は?」


そこへ続けてやって来た瑠美も唖然とした顔をした。


「何だ前山もか?らしくないな、スマホくらい見ているだろ」


そういえば昨夜からスマホを触っていない瑠美だった。


「ネットにも出ているぞ」


椅子を回転させながらそう言う北山。


スマホをフリックする2人は、


「うそっ!?」


同時に声を上げるのだった。


2人に近づく北山は、


「行ってこい」


顎で促す。


「でも何をすれば?」


「何も出来なくていい、お前らが世話になった相手だろ?それだけだ」


無言で頷き駆け出す2人の背中を見守る北山がいた。




昼を過ぎた頃、


「戻りました」


うな垂れ気味の真樹夫。


「どうだった?」


「私物を取りに来てた課長さんや他の方たちには会えましたが、誰も社長さんには連絡がつかないみたいでした」


「そうか......で?」


肝心なところは、と促す北山。


「はあ、一応私たちに出来ることがあれば?とは言ってきましたが」


「ご苦労だった」


満足気にお茶を飲む北山だった。





「お疲れ様でした、課長は残業ですか?」


退社時刻に三澄と佳苗が挨拶にやって来た。


「ああちょっとな」


「私たちに出来ることなら言ってもらえれば」


「ありがと、君たちも疲れているだろうからな、やれることは俺がやるさ」


「ふふふ、課長もお大事にね」


「こら、お大事にとは......」


ははははは、


「失礼します」


「気をつけてな」


笑いながらエレベーターに乗る2人、


「ホントいい上司よね課長」


「そうですよねぇ、頼れるし」



みなが退出したのを見計らい、スマホを耳に当てる北山。


「ああセル、遅くなりました」


「瑠美が出て来た手短に頼む」


「はい、行かせましたがやはり千田社長とは......なので倒産に奴が絡んでいることもまだ。それに瑠美に異変もないことから、今は接触していないと思われます」


「わっかた、この件が片付くまでは社内からの連絡も控えた方が良さそうだな、俺ももう一押ししたらここには近づかん」


ドアハンドルに手をかける瑠美にスマホをしまう佐藤。


滑りだす車は高級料亭を目指し、そして今日も夜は甘く閉じていった。




雨が遠慮をするように......ポツリポツリと降る午後だった。


「はい、申し訳ございません、契約時の担当を向かわせますので......」


頭を下げつつ電話を切る北山。


「山崎っ」


強い声に怖気づく真樹夫。


「ちょっとヴィーゼさんのとこに行ってこい」


「え!?問題でも?」


「いいから行ってこいっ」


北山らしからぬ投げ放つ言い方に、慌てて駆け出す真樹夫にみなの視線が集まった。


真樹夫が退室するのを見計らい、


「山崎っ」


と呼び、部屋を飛び出す北山だった。


誰もいないエレベーターホールで、


「先方さんで何やら聞き出そうとしているらしい、確認して来てくれ」


「はぁ......瑠美さんがですか?」


「そうだ、あいつ......何かあったのかな、どうしたんだろうか?」


北山を見つめながら暗中模索の真樹夫。


「お前がせっかく千田さんの代わりに漕ぎつけた相手だ、頼んだぞ」


その言葉には素直に、


「はいっ」


と、満面の笑みで答える真樹夫だった。


エレベーターの閉まり際に口に指をあて『し~』とやる北山が片目を瞑った。



電車に乗る真樹夫はようやく、


(なんなんださっきの課長、キモいウインクなんて?)


それが瑠美には黙っていろということに気づいた頃には目的駅に着いていた。


そんな真樹夫を理解する北山は瑠美に電話で直帰の許可を伝えるのだった。



スマホをしまいかけた瑠美は、郷愁の想いで、公園の木々を、岩を見つめるのだった。



——2人で歩いた晴れた日曜



だが今は、連絡を寄こさなくなった佐藤への傷心を滲ませるだけだった。


言いつけを破り佐藤のスマホを鳴らしてしまう瑠美の鼓動は、不整脈のように......


「あんた鳴ってんよぉ」


佐藤の妻の菫の声。


「ああ、今出るよ」


おしりで手を拭く佐藤に顔をしかめる菫。


「瑠美、どうしたんだい、仕事中じゃないのか?」


「会いたい——もういやこんなことするの」


泣き喚く声の後ろに無邪気に遊ぶ子供たちの声が不釣り合いだった。


「公園だな?今行くから待っててくれ」


電話を切る佐藤は、


「ワリーな、そーゆーこった」


と軽く敬礼をした。


「もぉ~今日は何の日だっ?バカヤロー」


また、もぉ〜と言ってクッションを投げつける菫。


「ごめんなホルスタインちゃん」


「私にもいい仕事回せよ、クソおやじがっ」


ははははーとキーを手に逃げ出す佐藤だった。



ヴィーゼに到着する真樹夫。


「ジヒルから来ました山崎です」


瑠美の前とは別人の真樹夫が胸を張る。


「おお、山崎さん。こんなに早くに来ていただけるとは」


「すぐにお詫びと今後の弊社の取り組みをお伝えして来いと北山に怒鳴られまして」


「いいえ、北山さんに強く言った覚えは」


「いえ、そういう上司なんです北山は。正直言いまして千田さんにも挨拶に向かうよう言われまして」


「倒産後に......ですか?」


「はい、相手がどうあれ義理を欠くなと」


「であれば一安心です。人柄を見る目は持っているつもりです。山崎さんなら」


「ありがとうございます。以後は私が微力ながら」


「何をおっしゃいます、ジヒルさんで若い頃のあの方を超える勢いと聞きますよ」


「いえ、たまたまで。それよりやはり気になるのは正直その人ですよね?」


「はい?あなたがそれを口にしてもよろしいので?」



ノックに黙る2人。


お茶を運ぶ女性を見て、


「いいですね磯中社長、こんな綺麗な方のお茶を毎日いただけるなんて」


佐藤にならいしゃれっ気を出したつもりが、


「娘ですよ。いくら山崎さんでもまだ......」


2人の顔を見比べ、


「あ~すみません、お恥ずかしことを失礼しました」


まだまだ背伸びも出来ない自分を不甲斐なく思うのだった。


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