33話〜残し残されるもの〜《恋のサーキット》
部屋へと辿り着いた真樹夫は、今度は窓を閉ざし厚手のカーテンを引いた。
全ての光を消したくて。
どこかで消えていけるような——
どこでもいい——
——俺を消してくれっ
布団を被り息苦しさのままに眠りについた。
トゥルル、トゥルッ、
闇の中に何かを感じた……
それは音なのか——
「はっ!?」
ガバっと起き上がり布団を跳ね上げる。
見ると部屋の電話が鳴っていた。
「もしもし真樹夫さん?」
「はい……そうですが」
「良かった、やっと起きましたね」
紗代子の言葉に時計を見た。
すでに13時を回っていた。
「ごめんなさい。寝過ごしたみたいで」
「良いですよ無事なら。それに寝過ごしたってレベルじゃ!?」
「ははは、今からでも間に合いますか?」
「何がですか?」
「え!?美人からのデートのお誘いは初めてなんで」
真樹夫は言いつつ手を伸ばしカーテンを開けた。
パァっと差し込む日の白が、部屋一面をマーガレットが埋め尽くすように広がった。
「それだけ冗談が言えるのなら、もう私は必要ないみたいですね?」
「いえいえ、あ!?また急に心が病んで」
「もう……では表で待っていますから」
笑い声のうちに電話を切る紗代子だった。
顔を洗い着替える真樹夫が、鏡に向かった。
「酷い顔だぁ!?コレを見て紗代子さんは……」
色を扱う自分にとっては最低な顔つきだと反省する真樹夫だった。
玄関を出ると、爽やかな風が新緑の葉をざわつかせていた。
「すぅーっ」
その場に立ち止まり大きく息を吸った。
「ぶはぁ〜」
はち切れた風船のようにしぼみうずくまる真樹夫を見て慌てて駆け寄る紗代子。
それをモノともせず、また大きく息を吸って見せる真樹夫。
「もぉ〜、ホントに倒れたのかと!?」
愛嬌を込めて怒る紗代子の顔にときめきを感じた。
「ははは、ゴメン。つい美味しくって」
先ほどまでの不甲斐ない自分を見せたことによる面映ゆさ。
それを隠すように戯ける真樹夫だった。
そんな真樹夫の腕を軽く叩き、そして車へと引っ張ってゆく紗代子。
そんな仲睦まじさを山荘の2階の廊下から見下ろすものがいるのだった。
「ちょっと寒いよぉ〜」
都会育ちの真樹夫にとって、山の風は少し冷たかった。
「何〜聞こえな〜い!?」
真樹夫の言葉を雰囲気では理解しているが、それを流す紗代子が笑いを堪えた。
「ロックしないで〜紗代子さぁんっ」
風に乱れ流れる髪を片手でかき上げ耳を露わにしながら、
「風が気持ちいいでしょ〜」
「窓閉めたぁ〜いっ、閉めたいっ閉めたいっ」
助手席で足をバタつかせる真樹夫。
ついに紗代子は声を上げて笑ってしまった。
「なぁに?子供みたい。真樹夫さん可愛い」
やっと信号で止まり、風の邪魔がなくなった。
「ねぇもう気持ち良さは分かったから」
冷たさに涙が浮かぶ真樹夫の目。
「まだまだよ。マイナスイオンを感じて〜ゴー!」
青信号と共にアクセルを踏み込む紗代子はまたしても爽快に笑うのだった。
しばらく走ると信号もない山道が続いた。
「車酔いは平気ぃ?」
距離を詰める紗代子の言葉。
「うえっ、ヤバい止まって」
大袈裟にアピールする真樹夫。
止まれの標識で真樹夫の顔を覗き込む紗代子は、
「ああ、嘘つきぃ。芝居したのね?」
「へへへ、だって紗代ちゃん飛ばすから」
真樹夫も距離をグッと縮めるのだった。
くねくね曲がる山道の、その脇道に車を進める紗代子に、
「今度はどこへ?人気のないところで俺を!?」
と、自分の首を絞め舌を出す真樹夫。
「ああ、マッキーはそう言うのがお好みで?」
「ふ〜んマッキーまで来ましたか?なら俺は……」
紗代子の顔を見つめる真樹夫に、
「なら紗代子って呼び捨てで良いわよっ」
と、早口に言って真樹夫に抱きつくのだった。




