28話〜残し残されるもの〜《形成》
「どうしたのだ、お前らしくもない」
父の言葉の端に心配が見えた。
「警察から電話が!?すぐに来てくれと」
嫌な胸騒ぎを堪え、
「分かった」
と重く一言添え車に乗り込む父だった。
そこからは暗い日々がしばらく続いた。
紗代子をどう扱うか、家族のみならず親戚も集まり連日の会議となった。
「紗代子には子がいたのだろ?ならばその子に」
と言う父の叔父。
「いや、家を飛び出すような子を認める訳には……」
紗代子を1番可愛がっていた叔母が、家風を重んじた。
黙り込む本家の家長である父。
我が子であるが故に厳しい対応を迫られた。
お互いの家に頼らず生きていくと決めた紗代子と高根。
工場で住み込みを始めていた。
「何で石油工場なんて選んじまったのかね?」
と、遺骨の入った箱を見つめる叔父。
「爆発事故なんてよく起きているのに……」
その嫁がどこか他人事のように呟く。
「しかし、その真樹夫って子はよく無事だったね」
従兄弟の公彦が口を挟む。
「これからを見据えた業界さ。託児所ってのがあったらしいよ」
「そこにいたからあの子は助かったのかい?」
菫と母が見守る中、眠る真樹夫をみんなが見つめた。
そんな時、
「菫を長子として家を継がせる。真樹夫は我が家の二男として育てる」
立ち上がり決意を示す父の強い眼光。
それに逆らえる親族などいはしなかった。
目覚めた菫の肩に掛かる半纏の温もり。
そこに和子の思いやりを感じた。
紫に薄く伸びる雲を窓から見つめる菫。
真樹夫を弟として迎え入れた山崎家の、楽しく賑やかだった頃を思い返すのだった。
襖を開け、顔を洗いにいく菫。
夕飯も取らず朝まで寝てしまった自分を不思議に思った。
(やはり消えないね。消えるわけがないよね姉さん)
そして食堂に向かう菫は驚き足を止めた。
「和子さん……何で!?」
食堂イスに座り眠る和子が目を覚ます。
「ああ!?奥様」
「和子さんまさか……あなた」
自分を気遣ったのかと聞く菫に、
「晩のお食事もまだでしたので、夜中に起きてこられたらと」
イタズラを見つかった子供にさえ見える和子の照れたような頬。
「真樹夫はどこに?」
「仏間にいらっしゃると」
昨夜、そこに寝床を用意したと言う和子。
「分かりました。お子さんたちは?」
「昨晩一度帰りましたので、お気遣いありがとうございます」
菫の優しさを誰よりも理解する和子。
「何を……気遣いというなら和子さんに勝てるものなどいやしませんよ」
その言葉に、和子は目頭を熱くするのだった。
日も少し高くなった頃、
「どこへ行くんだい姉さん?」
訳も聞かされず連れ出された真樹夫が、菫に問いただすように。
「いいからもう少しさ。お前もここまで来てまだ気づかないのかい?」
それを冷たくあしらう菫は、いつもの菫だった。
何となく安心する真樹夫は何やら覚えのある景色を見つけた。
折れた木の柵。
それを補修したと言えるほどでもない手直しのあと。
そこに落ちかけた時の菫の慌てた声が……
今でも真樹夫の背後から聞こえるような——
(この人はいつも俺を……)
菫の背中を眺めながら歩く真樹夫に、
「ほら、あのお姿を見れば分かるだろ?」
と、大きな木の下に佇むお地蔵さんに、手のひらを向ける菫。
とっくに気づいていた真樹夫がそれでも、
「お墓かい?母さんの……」
まだ墓参りもしていない母の墓——
「そうだね。お祖母様のお墓参りもまだだったね?」
真樹夫にとって意味のわからないことを言う菫。
菫の気が触れたのかと心配する真樹夫は口篭った。
「さあ、ここに私の母、お前にとっての祖母が眠るのさ」




