26話〜残し残されるもの〜《露顕》
新しくお茶を持ってくる和子。
またしてもその和子の所作に時を動かす応接間。
閉まる襖に合わせ、
「真樹夫、瑠美さんとは一緒になれないからね」
本題からあっさり割って入る菫の言葉。
咄嗟に菫の顔を見る瑠美。
反して菫を理解する颯太は、茶碗に手を添えるのだった。
1人俯いたままの真樹夫。
彼はこの事態をあらかじめ予想していたように、
「やっぱり姉さんはそう言うよな?俺の決めることは全部……」
声を震わせた。
「そうじゃないさ、お前を反対したい訳じゃない。仕方のないことさ」
「何がだよ?いつもいつも」
上げた真樹夫の顔には、すでに光るものがあった。
(真樹夫さん……)
グッと瑠美は胸元を握り締め、
「真樹夫さん……私たちはこれで終わりにしましょう」
青白くくすんだ顔でそう言うのだった。
「な!?何を……姉さん何を言った?」
真樹夫は朧な目で瑠美の虚な顔を、次いで菫のきつく澄ました顔を見た。
首を振る瑠美が、
「そうじゃないの、私も知らなかったのよ。真樹夫さん……いいえ、真樹夫、私たちはこうなってはいけなかったの」
徐々に下を向く瑠美の表情が見えない真樹夫は、
「姉さんが言わせたんだろ?何か弱みでも……脅したのか?」
ついに立ち上がる真樹夫。
「真樹夫っいい加減にしろ。いくら何でも言い過ぎだぞ」
迎え撃つように立ち上がる颯太の声に力が籠る。
ひとり涼しく佇む菫が、
「つけ込みも脅しもしないさ。ただ事実を伝えただけさ」
何食わぬ顔でそう言った。
訳が分からず瑠美を見つめる真樹夫に、
「そうよ……私はこれで失礼しますから、あなたの荷物は後ほど送りますので」
そう言って菫に一礼をし、立ち去る瑠美。
見送りに和子を呼ぶ菫は、あえて瑠美から目を逸らした。
「待って!?」
あとを追う真樹夫を止める颯太。
「放せよ」
振り解けない強い力に溢れる涙。
「真樹夫っ、瑠美さんの気持ちも考えられないのかい」
釣り上がった眼差しを送る菫の声。
それに落胆する真樹夫がまたソファに腰を落とすのだった。
廊下の角を曲がり、玄関からの薄明かりに目を留める瑠美は——
そこに真樹夫との日々を、これから訪れたであろう2人の生活を思い浮かべ——
——そして泣き崩れた
何も言わない和子が……
そっと瑠美を抱きしめるのだった……
「真樹夫、お母様に手も合わせていないのだろ?これからは孝行するんだね」
そう言い残し立ち去る菫。
「そうだぞ真樹夫。またここに住んで毎日仏壇に手を合わせてみろよ」
颯太の言葉に、
「そ、そうだね。母さんは……」
ついに声を上げテーブルに伏せる真樹夫だった。
自室に引きこもり、菫は座布団に腰を下ろした。
机に立てた写真を眺めた。
いつしか登った月の、白く弱い明かり。
窓ガラスを刺して通るその白さに……
涙が光った——
「姉さん、私は間違ったのかね?あなたの息子にどうしてもこの山崎を継いで欲しくて……」




