25話〜残し残されるもの〜《三つ指の決意》
確かに悪いことを聞いている訳ではないが、どことなく後ろめたさがあった。
「いや……そうでは」
「私も1人では寂しくてね、だから同じものをいただいてもらっているのさ」
和子に向かい相槌を打つように頷く菫。
「いや、ただ姉さんのことだから伏せているのかなと思って」
頭を掻きながら答える颯太。
「なら詮索しなきゃよくないかね?」
と、菫のもっともな返答に黙り込む颯太だった。
(やっぱ姉さんは優しいんだな)
ただ、胸に熱いものを感じ、颯太は居間へと戻っていった。
居間の襖を開けかけたところへ、
ガラガラガラっ、
と、玄関の引き戸が開いた。
「あらっ、坊っちゃま」
和子の屈託のない声に——菫の背中に真樹夫の存在が伝わった。
すぐさま玄関へと急いだのは颯太だった。
角を曲がり、
「真樹夫っ」
と、声を上げた颯太の目に飛び込むものがあった。
「お坊ちゃまと……」
見覚えのない相手に戸惑う和子。
「瑠美ちゃん!?」
どうしてここへ来たのか?
と、聞きたい風な声の颯太。
菫は角の手前で足を止めた。
(やはりそうだったのかい)
ひと呼吸おき歩み出す菫が玄関先に膝をついた。
「これはこれは、真樹夫がいつもお世話になっております。女将さん」
そして丁寧に三つ指をつくのだった。
「ああ!?おやめください、菫さん。私は」
真樹夫と瑠美の仲を暗に認めたくないとの菫の心を読む瑠美。
「颯太、真樹夫と応接間にいてくれるかい?和子さん悪いのですがお茶の用意をお願いします」
手短かにそう伝えると、瑠美の肘に手を添え連れて行くのだった。
「ちょっ、どこへ行くんだよ」
足を踏み出す真樹夫の体を颯太の腕が止めた。
「俺たちはあっちだ」
菫と瑠美の話の内容を理解する颯太は素っ気なく真樹夫を誘導するのだった。
応接間のソファに向かい合って腰掛ける2人。
その無言の間に和子の、
「どうぞ」
の声と湯のみを置く音が鳴った。
それが合図だったかのように颯太が口を開いた。
「お前……母さんの仏壇に手も合わせないんだな?」
一瞬颯太の顔を見たが、すぐに目を伏せる真樹夫。
その握りしめた拳をテーブルの陰に隠した。
手をつけるかも分からない茶菓子を添えると、黙って礼をして退がる和子。
やはり音もなく襖を閉めた。
それを待ってか、
「姉さんは何やってんだよ。瑠美さ……瑠美に何を!?」
テーブルを膝で押す勢いで颯太に詰め寄る。
「待っていろ、すぐに戻る」
この後の真樹夫と瑠美を思い浮かべ、颯太は目を背けるのだった。
落ち着かず席を立とうとする真樹夫と、あえて落ち着こうと茶を手に取る颯太。
そんな進展のない時が2人に、応接間に、流れた。
「もう我慢できないっ」
そう言ってテーブルを打ち鳴らしながら手をつき立ち上がる真樹夫に、
「どこへ行くんだい?」
と、開きかけた襖越しに刺すような言葉を発する菫。
ポカンと開いた口で菫を、そしてその肩越しに浮かない瑠美の顔を認め、
「瑠美……何したんだ姉さん!?大丈夫か瑠美っ?」
叫ぶ真樹夫。
「女の人を呼び捨てにしていいのはね、その人を養っている人だけさ。真樹夫、お前にそんな甲斐性あるのかい?」
ソファの横に立ったまま菫は真樹夫を睨みつけた。
「そ、それは……」
言い返せずに真樹夫は脱力しながら腰を落とした。
「そ、そんな菫さん。私が真樹夫さんにお願いして」
慌てて間を取り持とうとする瑠美に、
「瑠美さん、これは山崎家のものとしての弁えなんですよ」
顎からくいっと瑠美を睨め付けるような菫。
その菫の言葉の裏に、固い決意を感じ取る瑠美と颯太だった。




