24話〜残し残されるもの〜《峻厳》
ガラガラガラっ、
「姉さん、失礼するよ」
勢いよく玄関を開け、廊下から居間の方へとツカツカと歩く颯太。
「あ!?颯太様。この間は」
と、廊下の脇へ退き、お辞儀をする和子。
「ああ、お子さんは喜んでくれたかい。で、姉さんは?」
「はい。茶室の方にいらっしゃいます」
手を差し示す和子の所作が相変わらず柔らかい。
「そうかい、ありがとう和子さん」
和子のおかげで一時和らいだ颯太だが、またツカツカと歩きだすのだった。
「何かあったのかしら!?」
和子はその背中を追うように見つめた。
「姉さん、俺だ入っていいかい?」
襖越しに声をかける颯太に、
「早かったね」
と、それだけ言う菫。
襖を開けながら、
「そりゃそうさ、ま……」
「部屋に入りながら喋るんじゃないよ」
菫は颯太の顔も見ずに叱った。
「あ!?いや、今は」
弁解のように取り繕う颯太に、
「今もヘチマもないよ」
相変わらず茶を点てる手を休めない菫。
その後方に座り込む颯太に、
「ちょうど良かった、どうだい」
と、菫が茶碗を押し付けた。
「いや、俺は茶は……」
困りながら茶碗に手を伸ばす颯太には危惧するものがあった。
「いいさ、お前に茶の湯の作法なんて求めないさ」
まだ背を向けたままの菫がそう言って颯太を安堵させるのだった。
「ああ、それならひとつ……」
グビっ、
「苦っ!」
舌を出しそうな颯太に、
「これ、それは流石に礼儀がないね」
と、手で畳を押すようにして詰め寄る菫。
「いや、だってこんなに苦いなんて!?よくこんなもの」
思わず口をついて出た言葉。
「こんなもの?」
鋭さがます菫の目。
この目つきに子供の頃から怯え続けた颯太が、
「いや、ごめん、分かったから姉さん!?」
慌てふためき後ろへ仰け反る。
「なら、お前も精神を鍛えるために始めてみるかい?」
颯太の膝をピシリと手で打つ菫。
「いや、俺は……そうだそんなことのために来たんじゃなくて」
「そんな?」
菫の落ち着いた目つきが、また鋭くなる。
「あぁ、いやそういうじゃなくて……真樹夫と」
「ああ、会ったさ。話もした」
「で、どうだった?母さんのことは」
やはり真樹夫の心を気遣う颯太の焦点もそこだった。
「ああ、伝えたさ。きっと今日あたりここに来るんじゃないか」
菫は自分のために点てた茶をすするのだった。
「和子さん、真樹夫の分も作ったんじゃないんですか?」
昼時だと呼びに来た和子に菫が、そうだろうと言わんばかりに。
「申し訳ございません、奥様」
無駄になってしまったと詫びる和子に、
「いいえ、来るかもと匂わせたのは私だよ。それに今日は和子さんも一緒に摂ればいいですよ」
茶室の襖を閉じながら和子を見る菫。
「はあ!?それではお言葉に甘えさせていただきます」
言いながら菫ではなく颯太を見る和子。
それを不審に思う颯太だった。
食事を終え、お茶をいただく颯太は、
「はあ、やっぱりこっちの方がうまいなあ」
と、一息ついた。
「そうかい、なら慣れるまで茶の湯を叩き込もうかね?」
菫は刊行誌のページを開く合間に颯太を見るのだった。
「いやいや、結構ですよ姉さん」
言いながら閃くものがあった。
「ちょっと失礼して」
と、お手洗いにでも行く素振りで立ち上がる颯太。
こっそり廊下を歩き周り和子を探した。
「ああ、和子さん、ちょっと」
見つけて声をかける。
「はい、なんでしょうか?」
和子は不意に呼ばれ内心怪訝に思うのだが、顔に出す訳にはいかない。
「2人の時は姉さんと一緒に食事をしているのかい?」
なんの気無しない質問をしたつもりの颯太だったが、
「え!?いえそれは」
嘘をつけないのもこの和子であった。
「いや、責めている訳ではないのですから」
「はあ、しかし私がそのような」
壁と廊下の隅を見るしかできない和子に代わり、声が飛んだ。
「何か文句でもあるのかい?」
廊下の角から音もなく現れる菫に、背筋を伸ばす颯太。




