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どこかの世界線  作者: マメ


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22/24

22話〜残し残されるもの〜《アイスクリームの苦味》


瑠美は落雁の黒ずんだ木型の横の桐箱を取り、そこにカステラを納めた。


看板と同じ色の帯で箱を縛り、そして若草色の風呂敷に包むのだった。


「こちらで……三千円になります」


と、にこやかに言う瑠美に、


「はて!?私が所望したのはこちらの四千五百円のカステラですよ?」


と菫は、瑠美が包んだカステラの金額をわざと言うのだった。


「いえ、少しばかりの……」


気遣う瑠美に、


「気遣うどころか、お礼をしないといけないのはこちらですよ」


姿勢を正しそう言う菫。


彼女の言わんことを理解する瑠美は、


「いえ、真樹夫さんには本当に助けていただいておりますので」


と、丁寧に頭を下げるのだった。


「取り敢えず、四千五百円はちゃんとお納めください」


と、支払いを済ませ、


「邦夫、ここでおばちゃんはお別れさ。また次はウチにおいでなさいな?」


と、しゃがみ邦夫と目を合わす菫だった。



2人が店の暖簾をくぐるのを見届けてから、


「さて、瑠美さん。今は商いの最中だろうから、後で時間をいただけませんかね?」


ショーケースに詰め寄りながら瑠美から目を逸らさない菫。


こちらも逸らすことなく、


「承知いたしました、本日は3時に閉めますので、その後であれば」


と、答える瑠美だった。


3時過ぎにまた来ると伝え、菫は店をあとにするのだった。




「随分と時間が空くね、もったいない図書館にでも」


右、左と景色を確認する菫の記憶に齟齬があった


(以前はこんなじゃ……随分と変わるもんだね)


成長期など後世の人間からすれば既成事実なのだろうが——


その時代を生きたものには——


ただ急いだ移り変わり。としか目に映らないものだった。


「はて、どっちだったか?お天道様にでも聞いてみるかね」


そう言って菫は腕時計と太陽を見比べた。


(やはり頼りになるのは自然だね)


そして、西側の路地へと入って行くのだった。



しばらく歩くと、


「ああ、あそこは変わらないね」


どこか安堵する菫。


少しくすんだ空に突き刺すとんがり帽子。


図書館から突き出た塔を見上げ、立ち止まるのだった。


(涼もうと思ったのに……)


まだ幼い真樹夫を連れてやって来たのに、クーラーが壊れていた時の事を思い出していた。


「ふっ、変わってしまったのは街ばかりでなく、私たち……」


着物の袖から覗く手首ひとつに、年の移ろいを見るのだった。



駐輪場へと続く敷地の植え込み。


そのコンクリートのプランターに腰掛ける人影を見つけた。


(あれは!?)


ひと目でその正体を見極めた菫は黙ったまま近寄るのだった。


俯いたまま何も気づかないその人影。


「花の葉を無闇にちぎるんじゃないよ」


菫の声に慌てて顔を上げ、


「姉さん……どうしてここに?」


ちぎった葉を後ろに隠した。


それを見て不意に笑ってしまう菫は、


「お前はまったく、子供の頃と何も変わっちゃいないね」


咳払いでもするかのような手振りで俯くのだった。


そんな菫に真樹夫は少しだが警戒を解き、


「姉さんのそんな顔、久しぶりに見たな」


と、笑顔さえ見せるのだった。


見上げる真樹夫の顔は時を知らないかのように、菫の目には映るのだった。


「お前も居れば良かったのに、邦夫たちと洋食屋さんに行って来たところさ」


何を話せばいいのか、迷いから出たのはそんな話だった。


「邦夫と……洋食ってあの店なの?」


食いつく真樹夫に、


「そうさ、お前がよくお父様におねだりしていた所さ」


懐かしむような、恨めしがるような声が真樹夫に届いた。


「アイスクリームかぁ!?」


「さくらんぼを取ろうもんなら、凄く怒られたからね」


横を向きすまし顔をする菫。


「はは、楽しみに取っといたのに、姉さんが食べちゃうからだよ」


「さくらんぼが欲しかったんじゃない。私にはアイスクリームさえ買ってくれないから、せめてさくらんぼについた……」


話を聞きながら俯く真樹夫。



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