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どこかの世界線  作者: マメ


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22/35

22話〜残し残されるもの〜《アイスクリームの苦味》


瑠美は落雁の黒ずんだ木型の横の桐箱を取り、そこにカステラを納めた。


看板と同じ色の帯で箱を縛り、そして若草色の風呂敷に包むのだった。


「こちらで……三千円になります」


と、にこやかに言う瑠美に、


「はて!?私が所望したのはこちらの四千五百円のカステラですよ?」


と菫は、瑠美が包んだカステラの金額をわざと言うのだった。


「いえ、少しばかりの……」


気遣う瑠美に、


「気遣うどころか、お礼をしないといけないのはこちらですよ」


姿勢を正しそう言う菫。


彼女の言わんことを理解する瑠美は、


「いえ、真樹夫さんには本当に助けていただいておりますので」


と、丁寧に頭を下げるのだった。


「取り敢えず、四千五百円はちゃんとお納めください」


と、支払いを済ませ、


「邦夫、ここでおばちゃんはお別れさ。また次はウチにおいでなさいな?」


と、しゃがみ邦夫と目を合わす菫だった。



2人が店の暖簾をくぐるのを見届けてから、


「さて、瑠美さん。今は商いの最中だろうから、後で時間をいただけませんかね?」


ショーケースに詰め寄りながら瑠美から目を逸らさない菫。


こちらも逸らすことなく、


「承知いたしました、本日は3時に閉めますので、その後であれば」


と、答える瑠美だった。


3時過ぎにまた来ると伝え、菫は店をあとにするのだった。




「随分と時間が空くね、もったいない図書館にでも」


右、左と景色を確認する菫の記憶に齟齬があった

。


(以前はこんなじゃ……随分と変わるもんだね)


成長期など後世の人間からすれば既成事実なのだろうが——


その時代を生きたものには——


ただ急いだ移り変わり。としか目に映らないものだった。


「はて、どっちだったか?お天道様にでも聞いてみるかね」


そう言って菫は腕時計と太陽を見比べた。


(やはり頼りになるのは自然だね)


そして、西側の路地へと入って行くのだった。



しばらく歩くと、


「ああ、あそこは変わらないね」


どこか安堵する菫。


少しくすんだ空に突き刺すとんがり帽子。


図書館から突き出た塔を見上げ、立ち止まるのだった。


(涼もうと思ったのに……)


まだ幼い真樹夫を連れてやって来たのに、クーラーが壊れていた時の事を思い出していた。


「ふっ、変わってしまったのは街ばかりでなく、私たち……」


着物の袖から覗く手首ひとつに、年の移ろいを見るのだった。



駐輪場へと続く敷地の植え込み。


そのコンクリートのプランターに腰掛ける人影を見つけた。


(あれは!?)


ひと目でその正体を見極めた菫は黙ったまま近寄るのだった。


俯いたまま何も気づかないその人影。


「花の葉を無闇にちぎるんじゃないよ」


菫の声に慌てて顔を上げ、


「姉さん……どうしてここに?」


ちぎった葉を後ろに隠した。


それを見て不意に笑ってしまう菫は、


「お前はまったく、子供の頃と何も変わっちゃいないね」


咳払いでもするかのような手振りで俯くのだった。


そんな菫に真樹夫は少しだが警戒を解き、


「姉さんのそんな顔、久しぶりに見たな」


と、笑顔さえ見せるのだった。


見上げる真樹夫の顔は時を知らないかのように、菫の目には映るのだった。


「お前も居れば良かったのに、邦夫たちと洋食屋さんに行って来たところさ」


何を話せばいいのか、迷いから出たのはそんな話だった。


「邦夫と……洋食ってあの店なの?」


食いつく真樹夫に、


「そうさ、お前がよくお父様におねだりしていた所さ」


懐かしむような、恨めしがるような声が真樹夫に届いた。


「アイスクリームかぁ!?」


「さくらんぼを取ろうもんなら、凄く怒られたからね」


横を向きすまし顔をする菫。


「はは、楽しみに取っといたのに、姉さんが食べちゃうからだよ」


「さくらんぼが欲しかったんじゃない。私にはアイスクリームさえ買ってくれないから、せめてさくらんぼについた……」


話を聞きながら俯く真樹夫。



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