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どこかの世界線  作者: マメ


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21/24

21話〜残し残されるもの〜《永福堂》


信号の球が切れているのか、


「青くならないよ」


見上げながら指差す邦夫。


「そうだね、こういう時はいつもより注意して周りを見て渡るんだよ」


そう言って左右を確認する菫。


その前を、


ブロロロっと、薄い灰色の煙を撒き散らしながらオート三輪が横切っていった。


それをやり過ごしてから、邦夫の手を引き路地を渡った。


そうして交差点を越えると、落ち着いた紫の看板が目に入ってくるのだった。


「おお、永福かぁ!?懐かしいなあ」


「だろ?颯太は小さい頃、永福堂の落雁が好きだったからね」


菫はようやく昔を懐かしむような、柔らかい表情を見せるのだった。


(結局あの人は……そうでなきゃここに)



2人を従え暖簾を分け入り、


「ごめんくださいよ」


と、顔を上げた。


「!?」


時が止まったように立ち尽くす菫。


鏡に写したように、やはり立ち尽くすのは、


「な、何で来るんだよ?」


と、慌てる真樹夫だった。


「何でとはこちらの言葉さ」


菫は、ようやく1歩詰め寄りそう返すのだった。


「じゃ、俺忙しいんでっ」


言い捨てるように店の奥へと引っ込む真樹夫。


「これ、お待ち」


あとを追い、中へ入ろうとする菫に、


「あの、ちょっと、奥様」


と、菫のゆく手を遮る女がいた。


「何ですか?あなたは」


不機嫌を思い切り顔に出す菫。


「何ですかではありませんよ。ここから先は立ち入らないでください」


食い下がる女。


「弟があちらに……」


言いかけて黙る菫。


それを不思議そうに見つめる女。


「あなたは!?まさか……」


女の顔を菫の般若のような目つきが舐めまわした。



そして、少し丸みを帯びる菫の目。


そして、


「あ!?あなたは?」


シンクロする2人の驚嘆。


「瑠美さんじゃないかね?」


「菫さん!?お久しぶりです」



真樹夫どころか邦夫までそっちのけで話し込む2人。


「そうかい、あなたがこちらの女将さんになられたのね」


菫の知る瑠美はまだ女学生だった。


「はい、あれから菓子職人を主人として迎えたのですが……」


「はあ、残念なことになりましたね。お悔やみ申し上げます」


お辞儀をする菫に、


「いえ、もう何年も前のことですから」


と、少し恥ずかしそうに答える瑠美だった。


「それで今日は……お子様とご主人様で……」


挨拶をしようとする瑠美を引き止め、


「いやですよ瑠美さん、颯太とその息子ですよ」


口を抑え笑う菫。


「あ!?はは、颯太さんでしたか!?これは」


瑠美が少し顔を赤らめた。


「はは、お恥ずかしい。ご無沙汰しております」


頭をかく颯太。


「あなたがフラれてから何十年かしらね?」


肩越しに颯太を見る菫に、


「嫌だな姉さん、もうその話は……て!?まだ十数年だよ」


慌て気味に訂正する颯太。


「そうかい?じゃあまだ引きずっているのかい?」


さらにからかう菫に、


「もうお姉様ったら、およしになってください」


堪え切れず吹き出す瑠美だった。


「ああ、瑠美ちゃん、まだあん時の俺の泣き顔を!?」


と、自虐に持ち込めるほど、颯太は成長しているのだった。



「ようし、じゃあ」


と、店内を見回す菫。


ショーケースの向こうに立つ瑠美の背後に目が止まった。


そこには、何百年使い込んだものだろうか、花を模った黒ずんだ木型がいくつも並べられていた。


(やはりあの人たちが好きだっただけの……)


「瑠美さん、こちらの1番のカステラをいただけますかね?」


「ああ!?ありがとうございます」



瑠美はガラスケースを開け、1番上のずっしりとしたカステラを取り出した。


「おお!?何と美しい」


感嘆のもれる菫の声。


「うわぁ、輝いているカステラなんて!?」


後ろから颯太が今にも手を出しそうな勢いで呻いた。


「こちらで宜しければ?」


そう言いながら盆を回す瑠美に、


「いやあ、これ以上の品は見たことないね。コレをください」


珍しく高揚する菫を、ポカんと眺める颯太だった。


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