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どこかの世界線  作者: マメ


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19/24

19話〜残し残されるもの〜《残る懐かしさ》


柔らかい日差しが菫に朝を告げた。


朝から油臭い工場長の挨拶を受けることもない。


今日は清々しい朝を迎えられた。


「おはようございます」


菫は洗面を終え、食堂から台所に声をかけた。


「ああ、お姉様、もう少しゆっくりなさっていただいても……今しばらく、あさげの支度まで」


「お気遣いありがとう。ただ舞さんにばかり頼ってはと思いまして」


「いいえ、ここは私たちの住まいですので……今度、本家に寄らせていただいた時には」


暖簾越しに菫に受け答えする舞は、上半身をのけぞらせながら料理をした。


「そうしてもらいましょうか、あまり邪魔してはいけないので……」


そう言う割に立ち去ろうとしない菫に、


「ああ!?邦夫ならもう起こす時間ですね、どうしましょう」


と、菫に投げかけるような口ぶりの舞。


「そうですか、なら手隙の私がひとつ……」


そういうといそいそと邦夫の部屋へと歩き出すのだった。


「ほんと、分かりやすい人。いつもああなら……」


気難しい顔の時の菫に辟易している舞だった。



「さあ邦夫、顔を洗いましょうね」


菫は邦夫の手を取り洗面台に立たせるのだった。


「お姉様はあんなに子供好きなのに……」


なぜ独身を貫いたのか?


と問いかけようとして口籠る舞。


「ああ、姉さんはそういう人さ」


菫を憐れむとも敬うとも取れる目で答える颯太だった。



「さあ、綺麗さっぱりしましたね、お父様たちにご挨拶しましょうか」


「おはようございますっ」


笑顔で元気に挨拶をする邦夫に、


「おお、邦夫、おはよう」


と、屈みながら颯太はその頭を撫でた。



ちょうどそのタイミングであさげを運んでくる舞に、


「運ぶくらいなら私にでも」


菫は腰を浮かせるのだった。


「ですからお姉様、ゆっくりなさってください」


こんな時の菫には好意を持つ舞が笑顔を見せた。


「そうかい、ならそうさせて」


また椅子に腰を下ろすのだった。



腹を満たしたあと、木組みのおもちゃで邦夫と遊ぶ菫は時計を見た。


針は11時を過ぎていた。


「そろそろ邦夫のお腹も落ち着いてきただろうし、ついでに外でお昼でもいただいてこようかね」


菫は颯太も誘うようにそう言った。


「いいですね、ならみんなで行きますか?」


舞の顔色を窺う颯太に、


「私はお洗濯にお掃除がありますので」


そう言って、両手を体の前で合わせお辞儀をする舞。


「そ、そうだな?ではお土産を買ってくるから楽しみにしていてくれ」


たどたどしくそう答える颯太。


それを背中で見てやり過ごす菫だった。



「姉さん、バスでいいかい?」


「何だ、自動車を出してくれるんじゃないのかい?」


「いやあ、俺も休みくらい、たまには表で……」


事情を理解する菫が、


「そうかい、しかし帰ってから気づかれるんじゃないのかい?」


と、言ったところで、


「お前……まさか私をダシに」


邦夫と手を繋いだまま後ろを振り返る菫。


「ごめん、姉さん。頼れるのは」


と、颯太は手を合わせ菫を拝むようにするのだった。


「まぁ、舞さんじゃやむなしだね。いいよ今日は私のせいにしな」


言い終わる前に正面を向き、邦夫とバス停にスタスタと歩く菫だった。



ガタガタな舗装にバスの大きなタイヤが土の線を引いて止まった。


そして、通り町のバス停で降りる3人。


「ここも随分と変わったもんだね」


決してキョロキョロすることのない菫。


しかし、目だけは辺りを見回していた。


そこに落胆するでもなく、新しさに心弾ますわけでもない。


ただ、変わり映えを見つけている、それだけだった。


「姉さん、ここ……懐かしいですね」


颯太が1軒の洋食屋を指差した。


振り返り、


「そうだね、父を思い出すね」


そう言い立ち止まる菫の目に浮かぶ風景は……


ショーケースに飛びつく真樹夫の幼い姿だった。



「あ!?邦夫」


ショーケースに両手をつき額を押し付けるのは、今や邦夫だった。


「これ邦夫、ガラスが曇ってしまったよ。お料理が美味しく見えないじゃないか」


真樹夫を重ね、懐かしさに微笑む菫なのだった。



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