15線~記憶のプイスト~ 《思い出のプイスト》
「何だよこれ——じゃあ?」
瑠美の身を案じる真樹夫の目に、彼女に近づく北山の姿が飛び込んだ。
ニュースにざわつく中、瑠美のスマホが鳴った。
「あぁ、たーくん。明日?公園で......うん、うん分かった。絶対行くぅ。じゃーねぇ」
今やスマホを切る瑠美にみなの注目が集まっている。
愛人の自殺報道の最中だ。
デートの約束とは、瑠美に同情してきたものでさえ開いた口が塞がらない。
真樹夫には佐藤の魂胆は読めている。
北山の下手な瑠美への耳打ちもそれを確信に変えさせる。
ただ、許せないのはここまで瑠美を使いまわし、貶めたことだった。
瑠美さんの日常を——
——考えないのか
そしてもう1人、真樹夫の心を思い密かに拳を固めるものがいるのだった。
その日は未明に降り出した雨に路面が浸されていた。
「すみません、セル。昨夜から総動員しているのですが?」
この水なら、真樹夫の痕跡を容易に見つけられるはずだった。
少なくともそのつもりだった。
「もういい全員引き上げてくれ」
「しかしそれでは?」
「この俺がヤられるとでも?」
「いや......」
「なら引き上げろ。そして万が一俺に何かあっても真樹夫はほっといてやってくれ」
「そんな」
「頼む公彦。俺からのお願いだ」
「飲みに行く約束——忘れてなければいいよ」
「ああ、忘れていない」
「わかった」
「あとでな」
「あ、姉ちゃんに何か言っとくか?」
「ありがと......」
「バカヤロー!約束破るんじゃねえかよっ!」
「ああ、また......な」
降りしきる雨より大粒の涙を流し、アスファルトを叩き続ける北山だった。
大きな岩の池の前、赤い傘を瑠美が濡れないように差す佐藤。
勝負はもとより決まっていた。
ただ必要なのは、真樹夫の叔父として死ねるかだった。
「小さいころの真樹夫はさ、入っちゃだめだって言っても言ってもあの池に......」
何の前触れもなく止まる佐藤の言葉と心臓。
その時、瑠美の目には......
真樹夫の姿と、表情をなくし倒れゆく佐藤の姿が——鮮明に、
——映るのだった
「いやぁーーー!!」
雨音を殺す瑠美の声。
「瑠美さんを苦しめる奴は俺が」
震える手を抑える真樹夫。
それに向かい、
「誰がこんなこと?まぁきぃぅおーも、こどぅぉてやあーっ!」
言葉にならないまま佐藤にしがみつく瑠美。
瑠美の言葉に、態度に放心する真樹夫。
「俺は......な、、、にを?」
——岩に向かい歩く真樹夫
はははー、まもっ——
——岩の上に登る真樹夫
ははっ瑠美さん何してんだい?——
——岩の上で首を切る真樹夫
はぁ、たーくんまた抱き上げてく——
ばしゃーん、と池の水を跳ね上げ、その中に沈みゆく真樹夫。
瑠美の愛も心も注がれることなく。
その視線さえも——
一人静かに消えゆく青年の世界。
まだ佐藤に被さり泣き喚く瑠美の耳に声が聞こえた。
ゆっくり小さなその声は、佳苗の色を表した。
「アナタなんていなければよかったのに」
チリっと突き刺す鋭い熱のような刺激。
「ぐうっ」
呻き崩れる瑠美の体。
——この世界にもね
そう言い残し、しみこみ消えることのない雨に……
赤い足跡を残し歩く佳苗——
——別の空を見上げて
完




