11線~記憶のプイスト(公園)~ 《転がり》
数田のデスク前に立つ2人。
「まったく朝っパラから部長に」
「いやだっていきなり後ろにアレがいたら」
うんうんと頷く三澄。
「アレってなんだよ、隠れて見てたらどうすんだっ」
言いつつ足をさすってみせた。
「課長、昨日の正座きいてますね?」
「ああ、ってお前のせいだろ?あの後......」
下を向いて笑う三澄。
「もう行っていい、昨日の続きを早くな」
「はーい」
デスクに戻り仕事に取り掛かった。
「宜しかったら」
不意の声に顔を見上げる数田。
「おお前山ぁ。君だけだよ」
と、胃薬と白湯を受け取るのだった。
だが数田が寒気を感じるような瑠美の瞳は、真樹夫たちに注がれ続けていた。
「はい,これでおしまいっと」
「こっちも出来ましたよ」
密かに疑いをかける三澄。
「アンタの方が多かったよね?」
「は、結構」
「ちっ、見せてみろ?」
口実に真樹夫にくっつく三澄。
「大丈夫だ、持って来い」
デスクからひらひらと手招きする数田。
まとめて手渡す真樹夫。
「お願いしますっ」
手に取り部長室へ向かう数田が、
「おい、ケンカもイチャイチャもするなよ?」
と、言い残し去っていった。
「失礼します」
「ああ、思ったより早かったな」
「は、しかし当初よりかは」
機嫌よく受け取る北山はデキを確認した。
いくつかに目を通す北山に、部屋を見回す数田。
ゆっくりと顔を上げる北山は、
「自分の目で確認したのか?」
ファイルをテーブルに叩きつけた。
「えいや、そんなはずはっ」
狼狽する様子を見て、
「くっくっくー、アレが隠れて——だと?」
「あぁいや、あれはー、やはり見ていたのですか?」
「いいや、さっきトイレで山崎が教えてくれた」
「あっ、、、のやろー」
「ま、今日はお前のおごりな?」
「あ、いや、はあ、失礼します」
退室とともに、
「真樹夫ーっ!」
怒声と足音が響き渡った。
「真樹夫、あれどこ行ったアイツ?」
「三澄と千田商事へ行きましたよ」
落ち着き払った崎口の声。
「まったくアイツの悪知恵だけは!?」
「どうでしたカレンちゃん?」
一仕事を終え懐っこい真樹夫が笑顔を見せた。
目を伏せ気味に、
「どおってなにが?」
口をわざと尖らすような三澄。
「千田社長いい人っすよねぇ、上司、いや父親だったらなぁ?」
「そうね、あんなお父さんなら1人暮らしも減りそー!つーかアンタお父さんいなかったね?」
「ん?ま、そのおかげでノビノビ育ったかも」
「ノビノビ過ぎるは」
鼻で笑う真樹夫は三澄の顔を見つめ、
「いいんすか?連絡しなくて?」
「は、アンタが」
「いやです、ぜったいっ」
「また何かしてきたの?仕方ないな」
電話をかけ、空き地のフェンス越しに空を見上げる三澄。
少し離れ、同じ空き地の雑草を見つめる真樹夫。
「ざ、、、そう、はお......」
潤む瞳に、フェンスに強く食い込む指。
「課長カンカンだったよー、明日知らないよー?」
バッグにしまいながら歩み寄る三澄。
「じゃあ最後の晩餐で」
暗く硬い表情の真樹夫の違和感。
それを払うように、
「あざーす、ごちでーす」
「ええ、潔く割り勘にしましょうよ?」
「アンタが潔くの意味を調べたらなっ!」
「いいじゃんカレンちゃん」
「場面で呼び方変えると恋人みたいな?」
「じゃあ付き合ちゃう?」
「なら彼氏のおごりな?」
「えー見返りに出してよ」
「おまっ、ホント調子乗んなよ?」
居酒屋の温かな料理と初めての2人の夜は、紫に滲む街の中に溶け込んでいくのだった。
朝のエスカレーターに群れる人波を避け、階段を下りる2人。
「なんか食べてこうよ?」
2人の間に絡み合う腕——
——不慮の目撃者
眼差しに強く差し込み、階段を下ることに恐怖を覚える瑠美。
「おはようございます」
揃って出社する2人。
「あー同じ服ぅ、2人ともぉ」
女子社員が無垢な悪意をばら撒いた。
もてはやす一堂に隠れ、窓の空に鳥を見つける瑠美がいた。
先日の違和感がろ過できなかった数田は、
「こーら、学校じゃないんだぞ?」
「えー!?部長とはいつもここで遊んでいるのに?」
「あれは遊んでない、虐められているんだ」
はははーと、最後は自虐で空気を換えるのだった。
それでも昼休みになると、また話題は二人に戻るのだった。
「ねーいつからだったの、急に?」
「カレンは前から好きだったもんねー?」
えっ!?っと反応する真樹夫に、恥じらいをごまかす三澄は、
「終わり終わりー、真樹夫っ逃げるぞ!」
手を取り走り出すのだった。
そんな一連の流れを危惧して見ていた数田は、
「やっと落ち着いて食えるよ」
と、愛妻弁当のふたを開けるのだった。
「はい、どうぞ課長」
温かいお茶を置き立ち去る瑠美。
表情は見られなかったが、歩くその足にはいつもの気概は感じられなかった。
昼が終わり午後の眠気も冷めた頃、
「係長行きますか?」
瑠美の背後に立ちそういう崎口。
「そうね?課長、ヴィーゼさんに出かけてきます」
そういい立ち上がる瑠美に、
「ああ、終わったらそのまま帰っていいぞ、二人とも」
「ありがとうございます」
と、数田の言葉に頭を下げ出ていく二人。
電車の揺れと窓に流れる繁華街の景色。
頭を埋める無自覚な罪の言葉。
『いつから付き合ってたの? うわぁカレンちゃんって...... どっちから?どっちから?』
「もぉお、私とも行ったくせにっ」
バッグに顔を埋める瑠美。
何も言わずにつり革を見つめる崎口。
「ヴィーゼさんに40でお願いします課長」
「40!?25でも無理って?あぁ、いや、さすがだ!ありがとう崎口にもよろしくな」
「はい、失礼します」
スマホの時計を見ながら、
「課長大喜びよ、崎口君にもありがとうって」
「いいえ私は......係長、たまにはどうですか?」
「奥さん平気なの?」
「ああ、長居は難しいですが、お祝いに?」
少し落ち着いた店を選び、入る2人。
「カンパイ」
「これでちょっとは課長に恩返しできたかな?」
「係長はもう十分でしょ?」
「足りないわよ。でもみんな課長を揶揄いすぎ」
「真樹夫がですね?」
瑠美の顔を凝視しつついう崎口。
「崎口君......」
「何かあったんですか?この間も気にしてましたし」
瑠美は口を閉ざし、また1杯飲み干した。
2人のお代わりと追加のつまみをオーダーする崎口。
「すみません、ちょっとウチのに」
スマホを掲げ崎口はそう言った。
外へ出ていく崎口の背を眺める瑠美の頭に真樹夫の声が響いた。
『瑠美さんもっと飲んでいいっすか? あ、ほら実家の犬かわいいんすよ。 あは、瑠美さんがかわいく見えて来たぁ!?』
「はぁ~」
また飲み干しては溜息をつく瑠美を遠くから見て、お代わりを注文しておく崎口だった。




