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たぶん忘れない



地下の空間は6畳ほどある。天井から吊るされた電球が照らしていた。

目の前にはカウンターがあり、その向こうには棚が置かれ、色々なアイテムが並べられている。


「ちょっと狭いけど、我慢してね。今、お姉さんが良いものをプレゼントしてあげるから」


女性はカウンターの一部を開けると、向こう側に行く。後をつけようとしたが中には入れなかった。


「ごめんね。色々と危ないものもあるから、入れてあげれないんだ。でもそのかわりに、ほら……」


画面に複数のアイテム取得ログが表示された。



男性用下着

黒いTシャツ

ジーンズのズボン

スポーツシューズ

軍手

綺麗な水

インスタント麺



ただで物をプレゼントする人は、良い人か変質者と相場が決まってる。たぶん、凄く良い人なんだろう。

これでこのイベントが初心者救済イベントである可能性が高くなった。おそらく、水分値か食料値、もしくは装備がトリガーとなって発生するイベントか。

せっかくくれたのだから装備画面で装備した。おかげで防御力がゼロから5になる。実に5倍だ。これでスナイパーからの狙撃も安心……とはならないが、無いよりましだ。



本当にありがたい。



それと装備画面で気づいたが、どうやら装備には防御力の他に耐久値と耐性がある。そして耐性は更に6つに分類され、防刃、防弾、防打、防火、防水、防雷とある。説明によると、それぞれその数値が高いほどダメージがカットされる。


ホント、叔父さんが好きそうな設定だ。

いわゆる最強装備なんか用意するつもりがないのだ。どんな装備でも必ず弱点があり、それは敵に対しても有効となる。そういうことだ。



せっかくなので、ついでに水と食料も食べた。体型が小さいからなのか、どちらの数値も全快になる。


「これで少し落ち着いて話が出来るかな。改めて、お姉さんはマミコっていうんだ。よかったら君の名前を教えてくれるかな?」


思わずマミコってところで吹き出した。叔父さんの姉、つまりオレの母さんの名前と同じだからだ。

いわれてみれば、この女性キャラどことなく母さんの面影がある気がしてきた。これは叔父さんがシスコンなのか、それとも前作をボロクソに言ったオレへの当てつけなのかもしれない。

エロゲームで母さんの名前が出ると、流石のオレでも萎えるし。



ってか、ここにきてようやく名前の入力画面か。もしかして、ここまでチュートリアルのつもりだったのか。

やたらと死にまくったが。

とりあえず色々と思うところがあるが、名前を入力する。


最初はジョンドゥにしようかと思ったが、やめた。マミコのせいだ。

だから、適当にエロイチと入力した。


「エロイチ君か。いいね、素敵な名前」


どうやら変わった感性をお持ちのようだ。リアルじゃあり得ないが、そこはゲーム。これはこれで気持ち良くなるとしよう。

それにしても最近のAIは凄いな。

どうみても、普通に会話してる気分になる。


「そしてこれはとても大切な確認なんだけど、エロイチ君のご両親は何処にいるのかな?」


また選択肢が出る。



上:大切?

左:分からない

右:死んだ

下:殺した



まてまて、4つのうち2つが死んでることになる。つうか、キャラメイクでこの年齢にしたときは考えてもなかったが、実際7歳の子供を全裸でゴミ捨て場に放置したのなら、その親は相当ヤバいだろ。DVやネグレクトって話じゃ済まない。

とりあえず『分からない』を選ぶ。

事実、分からないし、嘘じゃない。


「そっか……ごめんね。言いたくないことだよね。お姉さんの悪いところなんだ。ついつい踏みこみすぎちゃう」


なんか勝手に解釈してくれた。

とりあえず、この先も似たような質問をされたら『分からない』で通そう。


「じゃ、この地域のことは知ってるかな?」


これについても選択肢が出たが、普通に『知らない』を選ぶ。


「うん。そうだよね。それじゃとても大事なことだから、しっかり覚えてね。まず川の向こうにあるのはオンナの街。とっても危険だから近づいちゃダメだよ」


知ってる。割と実体験みたいに、よく知ってる。でも、水は大事なんだ。


「たぶん、喉が渇いてたからだと思うけど、本当に危険なんだ。そこで水を手に入れる方法なんだけど、比較的に安全な湧き水ポイントがあるから、そこを利用するか、それともお姉さんみたいな商人から買ったほうがいいの」


なるほど、そんな湧き水ポイントとかあるのか。買うのはお金が無いから論外だし、なんとかそのポイントを教えて欲しい。


「でも、ほとんどの安全な湧き水ポイントはどこかしらのコミュニティが独占してるわ。そこで君に提案なんだけど…………君さえよければ、お姉さんと同じコミュニティに所属しないかな?」


おっと、また選択肢だ。

ここも『分からない』を選ぶ。


「そっか……でも、そうだよね。いきなりこんなことを言われても困るよね。それでも、君に知って欲しいことがあるの。それがこのあたりには大きく5つのコミュニティがあるってこと。1つは、来るもの拒まずの『人類共同体』、2つめは、秩序と規律の『人類解放戦線』、3つめは、自由を愛する『リフリーダム』、4つめは、弱者に救済をの『母神教団』、そして5つめは、それらに所属しない相互互助組織『ギルド』、お姉さんが所属してるのがこの『ギルド』なんだけど、他のコミュニティが別れてるのには理由があるから……それだけは忘れないでね」


なんとなく意味深な言葉で締めくくり、これ以降は特に有益な情報は取得出来なかった。

これは予想だが、おそらくどこかしらに所属すると、他のコミュニティには所属出来なくなるのだろう。



マミコには恩がある。それはいずれどこかで返す。

だが、オレとしては個人的楽園を創設したいのであって、どこかに所属する気にはならない。では、問題はどこに拠点を作るかだ。

マミコの話では、湧き水ポイントはどこかしらのコミュニティが独占してるらしいし。


そうなると、買うか、危険を承知で川に行くかだ。

ならばもちろん、川に行く。

こちとら、何度でもリスポーン可能な無敵の主人公だ。今はちょっと弱いが、レベリングすればなんとかなるはず。


となると、川の近くに拠点を置いておきたい。

よし、一旦軽く廃墟を探索しながら、初期リスポーン地点に戻ろう。




そんな風に考えていたら、帰る途中で不思議なアイテムを拾った。

『白い有機結晶』というそのアイテム。

説明に、テイム薬の原料となる。と記載されていた。


ふーん。

有機結晶……ね。

ああ、そうだ。

この世界はゲームなんだ。

どこか感情移入してたが、ゲームとしての前提を忘れていた。



死んだらセーブ地点からやり直しのゲーム。

もし、水分不足や空腹、毒なんかで死ぬ直前にセーブしてしまったらどうなる?

何度リスポーンしても、リスキル(リスポーンキル)と同じ状況になり、ゲームとして破綻する。

ってことは、その手のデバフは死ぬとなくなるのではないか?



つい、水や食料が大事だと思い込んでいたが、これが可能なら話が変わってくる。おそらく他にもあるだろう、『寝袋』が設置出来ない場所を探索するケースを除き、レベリングには(寝袋』さえあれば可能だということになる。




くくくっ




さて、早速検証するか。


幸い、まだプレイし始めたばかり。

最悪、いくらでもやり直せる。

まあ、気になる点としては、セーブは5ヶ所あり、『寝袋』がないと任意でセーブが出来ないが、ロードは任意で出来る点か。


だが試すだけなら、タダみたいなもの。

やるだけやってみるか。




初期リスポーン地点まで戻ったオレは、検証を開始した。

まず、1時間睡眠してセーブ。

その後、適当にジャンプし続け、水分値や食料値を半分まで減らす。

そして、また睡眠してセーブ。今度は日中になるまで寝た。

その後、起きて川に向かってダッシュしてたら、案の定狙撃されて死亡。



で、リスポーンしたら、水分値と食料値が半分の状態だった。

つまり、ズルさせるつもりはないらしい。



うん。別に萎えてない。

こちとら、その辺のキッズと違い、生粋の変態だ。

このくらい想定の範囲内だし。




ただ、ひとこと言いたい。




クソがっ!


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