感謝の気持ち
このゲームだと空腹のデバフは、『体力』と『賢さ』が大幅に低下し、『素早さ』や『器用』も下がる。
だからこそ、オレは常に食料値や水分値を気にしてプレイしている。
そのオレの目の前に、トレーニング施設がある。
大きさは公民館くらいあり、消費した資源もそれなりにある。ここまでこの手の建築をせず貯めに貯めた資源を、一気に大放出した。
とはいえ、それでも少し足らず何度も往復しながら必要な資源を集めた。
それだけの価値があると思いたい。
オレは『イヴニング』へ育成の命令をした。
すると『イヴニング』はすぐにトレーニング施設へと向かい中へ入る。で、オレも一緒に入った。
施設内部はまるでジムそのもの。
トレーニング用の色々な器具が置いてある。
『イヴニング』はランニングマシンに乗って走り出した。
最近、待機命令ばかりで運動不足だったのかな。かなり、熱心に走ってる。
その光景を見てると、ふとウチのリビングにあるオブジェを思い出した。
バランスボールというらしいオブジェは、母さんがかなり昔に買った物だ。その前衛的芸術を理解出来ないオレには、その価値は分からない。
ただ、なんとなく見て楽しむ物じゃない気がしてる。
なぜ、『イヴニング』のトレーニング姿を見てそれを思い出したのだろうか…………たぶん、気づかない方が良さそうではある。
それにしても、女性が走るという動作のなんと素晴らしいことか。
間近で『イヴニング』を見てると実感する。
前後に振られる腕は、脇を見せたり隠したりしている。
そして上下左右に揺れる胸。
それは柔らかさの象徴。
言葉は不要、これこそ真実。
交互に繰り出す足は、太ももと尻を宣伝してるとしか思えない。
その過剰広告によって引き寄せられてしまう、憐れな消費者にさせられる。
さらに、こんなオレの視線など気にしない表情も堪らない。
真剣で真面目な眼差し。
規則的な呼吸。
揺れ動く髪。
なにもエロいことなんてしてない、って感じが逆にめっちゃエロい。
なんてことだ。
オレは今、ひとつの真実に到達したかもしれない。
ありがとう。
心からありがとう。
オレはこの気持ちをプレゼントという形で『イヴニング』に渡す。
それがこのトレーニング施設を作ったことでアンロックされたアイテム。
『トレーニング用の服』
これを『イヴニング』のインベントリに入れると、オレが装備させなくても自分で装備した。
このアイテムはトレーニング効果を10%アップする、ってことだから『イヴニング』が最適な装備に変更したのだろう。
それにしても、なんで一瞬で着替えるのか。着替えるというのも大事な描写だと思うのに。
ま、いちいち自分の装備変更でそのモーションを入れられたらウザいから、それが理由だと分かるが。
その辺も、細かく設定出来てもいいと思った。
一応、メモっておこう。
着替えた『イヴニング』は『トレーニング用の服』で走り出した。
先ほどまでの軍服も良かったが、タンクトップにスパッツ姿もまたいい。
なんていうか、女性のお腹を出した姿って最高なのではないか。
そしてオレが今味わってるこの気持ちこそ、プレゼントした物を使ってくれてる時の気持ちなのかもしれない。
なるほど……
これは、確かにいい物だ。
貢ぎたくなる気持ちも理解した。
ただ、自分の欲望を素直に満たそうとしてただけなのに、なんとなくいい事をしてる気分まで味わってる。
これこそが、プレゼントをするってことの素晴らしさなんだろう。
ま、セットで変質者の気持ちも分かってしまったが。
ふぅ……。
オレは満足して外に出る。
トレーニング施設を出るとすぐにあるのが、これまた新しく設置したベッドだ。
今まで気にしてなかったが、この『シンプルなベッド』の効果は睡眠効率のアップだった。
これによって、今まで必要だった睡眠時間も短縮する。そうなると最高効率のベッドが欲しくなるが、素材が足りない。
ってか、また『シルク』だ。
『シルク』のベッドって寝心地が良いのか謎だけど、ゲーム的には最高効率らしい。
それなら細かいことは気にせず作るべきだ。
オレは準備して、またマミコのお店に行こうとした。だが、今行っても営業時間外。かといって、夜は危険すぎてたどり着けるか分からん。
なにせ、前回のルートを使える気がしないし。
そうなると必然的にまた閉店間際に駆け込むことになるが、これについてはマジで仕方ないだろう。
閉店間際とか一番客に来て欲しくなさそうではあるけど。
さてと、それまで何して時間を潰すか検討しようとして、何気なくトレーニング施設を見てた。
この施設をアスファルトの道路を塞ぐようにして建てたのは、土は畑として活用出来るからだ。それにより合理的判断で道路に建てた。
そのはず、なんだけど………
凄く目立つ。
違和感とか間違い探しとかのレベルじゃなく、圧倒的存在感を示してる。
むしろ、道路の上にある『シンプルなベッド』が可愛く思えるほど、ヤバい。
おっと、やらかしたかも。
オレとしたことが、なぜこんな簡単なことを見逃してしまったのだろう。
たぶん、それこそリアル空腹のデバフだと気づく。
リアルで朝からほぼぶっ通しでゲームしてたが、食べたのは昼のカレーだけ。
むしろ、ギリギリ人間性を保ててるのはそのカレーのおかげかもしれない。ならば、母さんに感謝だ。
親から受ける当たり前は、きっと当たり前じゃない。
ありがとう、母さん。
このお礼は、ゲーム内のマミコにしておく。
ってな訳で、ベッドで寝たり色々してからマミコのお店に行った。
すると、お店は閉まっていた。
まだ、ギリギリ営業時間のはずなんだけど……
もしかして、定休日とかもあるのか?
流石に、それは……どうなんだろう。
ま、閉まってるなら仕方ない。
オレは出直すことにした。
だが……
翌日行っても、お店は閉まっていた。




