水と食べ物
ゲーム内で遠距離武器を使用した際、敵に命中しない理由がある。
一つは敵が動いてるから。
この瞬間正確に狙っても、矢や弾などが敵に到達するまでの僅かな時間で、ズレてしまう訳だ。
もう一つは武器の特性。
弓の場合、距離によっては狙いから上にズレるし、銃の場合でも反動によって連射すると上にズレてしまう。
そして物理演算。
これによって狙いより下にズレる。
だが、大抵のゲームには風の影響は存在しない。
ぶっちゃけそこまでされたら、気楽にスナイプを楽しみたいゲーマーはキレるからだ。許容範囲は手ブレまで。
ま、ガチ勢は知らん。
あいつらは大前提として、人として見てはいけない。
やってることのレベルがおかしいからな。いわゆる、上手過ぎて参考にならんってやつだ。どこぞのニュータイプみたいに、攻撃される前に回避とかしても、オレなら不思議に思わない。
とりあえず、これらの条件が導くことはただ一つ。
ゲームにおける狙撃は必ずといってもいいくらい、直線での攻撃だってこと。
つまり、その射線が通らないと攻撃は当たらない。
なら、あのウザいオンナの狙撃手。
姿すら見せないあのオンナ。
どう考えても索敵範囲外にいるはずのオレを殺したやつだ。
ま、それがあるから、やつも『特殊能力』持ちだと思える訳なんだが、そいつもこればっかりは例外じゃないはず。
そう思い、最後にオレは川への出口を調整した。
そして念願の開通を果たす。
実にここまで来るのにゲーム内時間で約3日。地上を歩いたら1時間くらいの距離を掘りに掘り続けた。
その出口こそ、橋の下だ。
それも、途中で倒壊した橋の下。
穴から顔を出す前に『イヴニング』への命令を『待機』に変更する。
こうでもしないと、この子ってば外に飛び出しちゃうからね。仕方ない。
たぶん、親から飛び出し注意って教わらなかったのだろう。
オンナに親という概念があるか知らんけど。
で、慎重に顔を出す。
今は昼過ぎ、夕方前って時刻。
倒壊した橋がいい感じに日差しを遮り、眩しさを感じずに周囲の確認が出来た。
誰もいない。
無人の河原。
なにより、この位置からオンナの建物が見えない。ゆえに、オンナからもオレが見えない。
やったぜ。
予想より水の消費が激しくて、途中足らなくなるかと不安があったが、ギリギリ足りた。
やっぱり普段から物資は貯めるに限る。
それにしても、達成感がヤバい。
こう、成し遂げたって感じがドバドバ溢れてくる。
ああ、この3日間は無駄じゃなかった。
っていつまでも喜びに浸ってられない。
オレは事前に『イヴニング』に持たせた『空き瓶』を取り出すと、川で全てを『綺麗な水』にした。
そして、『イヴニング』にも『綺麗な水』を渡す。
すると、速攻で『綺麗な水』が『空き瓶』に変わった。
あ、うん。
ダヨネー。
『イヴニング』もかなり喉が渇いてたらしい。
まあ、ホントにギリギリだったからな。
しかも、水より食料を優先したし。
どうしても、食料は採取するのに少し時間がかかるから。水なら最悪、何度もリセマラ(リセットマラソン)で水チャレンジするつもりだったし。
まあ、とにかく良かった。
さて、これでオレは水富豪になった。
これからは『空き瓶』の数だけ『綺麗な水』を手に入れることが出来る。
さらに、その水を使って食料もバンバン育てられるし、マジでセレブだ。
ならば盛大にお祝いするしかない。
オレは『イヴニング』と一緒にホームまで帰る。
早速、畑に行って作物たちにも水をあげた。
これだけで明日も豊作確定である。
なんていうか、プレイヤーであるオレの方が水と食料だけで幸せを感じてる訳なんだが、なにか間違ってる気がする。
ま、いっか。
とにかく、お祝いだ。
ん?
なんだって、せっかくだから裸踊りをしたいって?
おいおい、そんなハレンチな……
だが、今日はお祝い。
特別な日だ。
仕方ないなぁ、今日だけだからな。
うむ、苦しゅうない。
『イヴニング』よ本日は無礼講じゃ。
そしてオレは『イヴニング』の装備を没取した。
すると『イヴニング』はすぐに身体を隠そうとする。
そしてアタフタして、『作業台』に行った。だが、なにやら作業出来ない様子。
今度はチェストへ行く。
そこで何かを探してる気がするが、見つけられなかったのだろう。
振り返り、困惑した顔でオレを見ている。
くくくっ
おっと、オレとしたことがうっかり服の素材を金庫にしまってた。
大切な素材だからね。
当然の処置といえる。
すると『イヴニング』は恥ずかしそうにしながら、それでもオレの側へトボトボと歩いて来た。
おそらく、警護の命令に従ってるのだと思われる。
ほーん。
これで色々と分かった。
まず、『イヴニング』は地下のあの部屋へ単独では入れない。これは扉のPWを入力出来ないからだろう。よって、そこから素材を取り出すことも出来ないってこと。
そして、少し離れた場所にあるチェストへも行かない。
これは警護の命令の範囲から外れる行動になるのだろう。
なるほど……
テイムしたオンナへの命令はその行動に優先順位が明確にあり、それに基づき行動原理が決められてる訳だ。
それならば、真っ先に確認せねばならぬ命令がある。
オレは『イヴニング』へ撮影の命令を出した。
すると、画面に
現在、コスプレ本を所持してません。その為、この命令は実行不可です。
尚、コスプレ本は全部で12冊あり、それぞれポーズが異なります。
と、表示される。
って、おいおい。
ここに来て、まさかの収集要素か。
やるじゃん、叔父さん。
ふぅ……。
落ち着け。
って、ぶっちゃけ無理。
……んなぁ、コスプレ本が欲しい。
全部欲しい。
コンプリートしたくてたまらない。
それでどんなポーズなのか詳しく堪能したい。
って欲望が溢れてくる。
が、現状コスプレ本なんて拾ってないんだよなぁ。
どこにあるんだ?
もしかして誰かが持ち歩いてる、とか?
あり得る。
大切な宝物だからこそ、肌身離さずってのは当然とも言える。
そこで大事なのは基本的に覚醒してるNPCのインベントリを覗くことは出来ないってことだ。例外は今の所テイムだけだ。
だが、それは逆に言えば気づかれなければ他のNPCのインベントリにアクセス出来るってことかもしれない。
現にテイム前でも寝てる『イヴニング』のインベントリにアクセスしてるし。
なにより、せっかくレベリングして『隠れんぼは得意です』を習得したし、その効果を試しておくのも悪くない。
それによって得られるモノもあるだろう。




