女の方程式
中学生になって算数が数学に変わった。その意味も分からなかったし、二次関数とか役立つ時が来るとも思ってなかった。
『イヴニング』は元『ポーン』で戦闘用なのは間違いない。
驚いたのは持ち運べる総重量が1050kgあることだ。
1トン超えてるって、そりゃオンナを乗り物扱いしてもおかしくない。
ついでに、一つの式が成り立つ。
x(10y)=z
このxを『筋肉量』
yを『体力』
zを『総重量』
として
この式に当てはめて代入する。
『総重量』に1050
『体力』に70
これによって、代入出来ない『筋肉量』の数値が出てくる。
それが、『筋肉量』=1.5という数。
これは推測だが、キャラクリでの『筋肉量』はおそらく1から2まで0.1刻みの10段階あるのだろう。
で、『イヴニング』はその5段階目ぐらいの『筋肉量』ってことだと思う。
柔らか過ぎず、硬すぎない。
ちょうど中間。
メリハリのある肌。
元軍人らしい筋肉。
それを客観的に数値化する為、オレは二次関数を学んだのだと気づいた。
ありがとう、先生。
こんな深い意味があったとは知りませんでした。
でも、
wは『胸』
xは『臍』
yは『股』
これが『女』って式の方が好きです。
ってことで夜間の探索に『イヴニング』を同行させてる。
これによって『特殊能力』の『ボッチですがなにか?』が機能してない。
つまり、命令の警護によってオレの相棒と認識されてる訳だ。
それによって『ボッチですがなにか?』が今、死にスキルになってるが、ぶっちゃけ『イヴニング』を荷物持ちにしてる方が遥かにいい。
なにより、今までみたいに厳選しながら採取してたアイテムを、手当たり次第『イヴニング』にぶち込んでいくのが快感だ。
さながら、荷物持ちを連れながらショッピングを楽しむセレブの気分。
なんとなく『イヴニング』の限界まで荷物を持たせたくなる、この気持ち……悪くない。
ってか、これだけで相当効率が上がってる。
そのおかげで、ウキウキで楽しく探索してる状態だ。
あれも持って帰れる。
これも持って帰れる。
なんなら全部持って帰れる。
そうして一つの事に集中してる瞬間。
それこそ油断であり、慢心と呼ばれるものなのかもしれない。
暗闇の中、突然オレの画面が赤く染まった。
あなたは殺されました
その散々見てきた文字。
幼馴染かのような文面。
それをオレは驚きながら見ていた。
いつものように静かな夜だ。
銃声だって聞こえてない。
自分が死んだ理由が素で分からなかった。
それこそ、一瞬『イヴニング』に殺されたのかと疑ってしまったくらいだ。
だが、そんな事は考えられない。
警護の命令を実行してる『イヴニング』は、基本的にオレより少し前を歩こうとする。
つまり、常にオレの視界内に居る訳だ。
それだけじゃなく、時折こっちの様子を伺うため、振り返りながら……
そうやって常にオレを気にかけている。
オレが突然方向転換したら、慌てて『イヴニング』も方向転換するくらい、忠実に命令を果たそうとする。
その『イヴニング』がオレを殺すなんて考える方がおかしい。
だから、オレはおかしい。
で、いつもと変わらない変態だ。
ふぅ……。
落ち着いた。
こうして客観的に自分を見るのは、オレにとって儀式みたいなものだ。
それで頭をクリアにする。
すると、簡単な事に気づいた。
あぁ……。
なんだ、ついに現れたのか。
いわゆる、夜戦特化のオンナが。
ってか、忍者みたいな感じなのか。
まさかサイレントキルしてくるとは思ってなかったが、やられてみれば納得出来る。
暗闇に紛れながら静かに近づき、対象を殺す。
むしろ、そんなプレイを楽しむ人々は世界中に大勢いるくらい、ゲームじゃ人気のプレイだ。
夜戦特化のオンナがやることに違和感もない。レポートによれば集団戦には不向きってことだし、チームどころかツーマンセルすら無理なんだろう。そうなると、おのずと戦い方も限られてくるからな。
そして、隠密個人プレイの基本は敵の背後から近づくって事だ。
ならばオレの背後から来たのだろう。
画面という視界外から。
物音一つ立てず、静かに忍び寄ってた訳だ。
普段、敵の位置を音で判断する癖を逆手に取られた訳だ。
隠密をプレイヤーがやるゲームなら幾つもあるが、NPCにさせるとはね……
真面目に夜間探索をさせるつもりが無いってことだ。
それこそ、ちゃんと対策をしなければ。
いいね。
最高だ。
面白くなってきた。
もう、この世界から作業なんて無くなった。
それこそ、昼夜問わず、いつ殺されるか分からない緊張感溢れる世界へと、今日変貌した。
ようこそ、こちら側へ
そんな幻聴が聞こえてくる。




