未来改変
それは幼女だった。
そう認識した瞬間、オレは追跡するか悩む。
オンナじゃない可能性が高い。というか、人類系コミュニティに属してる可能性が高い。
その幼女がたった1人で廃墟を歩いてた。
これはもう、なにかしらのイベントフラグとしか思えない。
とりあえず、ショトカに入れてあるアイテムから『寝袋』を選び、設置出来るか確認すると、まだオレがいる場所では設置出来る。
ってことは、この幼女は所属するコミュニティに帰るところか、もしくは所属するコミュニティからどこかに出掛けてる最中になる。
そして、出掛けてるとしてその行き先なんだが……
流石にオンナのコミュニティに幼女が単独で攻め込む可能性は低いし。
そうなると、別の人類系コミュニティか?
どちらにせよ、面倒な感じだ。
だから、関わりたくないのが本音。
なんだけど……
幼女1人ってのが気になる。
仕方ない。一応、行き先だけ見定めるか。
オレは追跡を続行した。
幼女は廃墟をテクテクと歩きながらも、その足取りは明確に目的地がある感じだった。
そして、とある廃墟で立ち止まると、一応警戒してるのか周囲を見回す。
その後、その廃墟へ入っていった。
オレはそれを見て、ゆっくりと静かにその廃墟に近づく。
そこは割れたショーウィンドウからも、元はなにかしらの店だったことが分かる。
そっと荒れ果てた店内を見回すと、薄汚れたヌイグルミなんかが落ちており、たぶんオモチャ屋だったのかもしれない。
店内の一階に幼女の姿は無く、二階からトタトタとした軽い足跡が聞こえる。
試しにこの場所でも『寝袋』が設置出来るか確認すると、まだ出来た。
どういうことだ?
ここが幼女の目的地だったとしたら、何処のコミュニティにも属してないことになる。
いやいや、プレイヤーじゃあるまいし、そんなことがあり得るのか。
もし、そうだとしたら確認しておきたい。
が、セーブするには最低でも1時間睡眠することにり、その時間経過でこのイベントフラグが折れる可能性は十分ある。
いいだろう。
プレイ時間くらいくれてやる。
オレは二階へ上がってその光景に驚く。
そこには確かに幼女がいる。
だが、居るのは幼女だけではなかった。
明らかにどこかで見たような美女がいる。
カーソルを美女に合わせると、頭上には『ポーン』の文字が表示された。
「うぇ……!?」
オレを見た幼女は驚きの声を発した。
「服も着ないなんてイケナイんだ。ワルいことなんだからね」
そしてなんか偉そうに説教を始める。
とはいえ、言ってることは正しい。
ゲーム内で人間とコミュニケーション取らなすぎて、全裸が普通だと思ってた。
「あ、もしかして3区の子でしょ。あそこはタイヘンらしいから。でも、ここは2区なんだから、カッテに来ちゃダメなんだからね!」
久々に選択肢が表示される。
上:なんで?
左:別にいいだろ
右:秘密にして
下:違う
とりあえず、『秘密にして』を選ぶ。
「ヒミツ……じゃ、これもヒミツだから。パパやママにも言っちゃダメだからね。ヤクソクだよ」
これとはオンナのことなんだろう。
当のオンナは壁に寄りかかって、瞼を閉じて、寝てるようにみえる。
これまた選択肢が出たから、『分かった』を選んだ。
まあ、問題ないだろ。
少なくともこの世界に、オレが話す相手が居ない。
間違いなくその約束は守れる。
オレの返事に安心したのか、幼女は嬉しそうにした。
「あのね、この人はチカが見つけたんだ。ここはチカのヒミツの場所で、えっとね、チカのタイセツなところなんだ。でね、それで今日キたら、このお姉さんがネてて。それでね……」
で、なんか懸命に説明し始めた。
要約すると、秘密基地みたいな場所に来たら知らないお姉さんが寝ており、起こそうとしても起きないから、家からビスケット(本人の宝物)を持ってこようと思ってたところらしい。
幼女曰く、どんだけ寝ててもそのビスケットがあれば起きるそうだ(本人の経験談)
なるほどね。
なんつうか、ほのぼのイベントもあるってことなのかな。
さてと、一応この幼女が人類系コミュニティに属してることも判明したし、これ以上長居しても仕方ないな。
そう思って帰ろうとしたら、幼女に呼び止められた。
いや、正しくは怒られた。
意味が分からないが、幼女の中では自分がビスケットを持って戻ってくるまで、オレがここで待ってなければいけない、と決まってるらしい。
なんでだよ。
オレとしてはそう言いたいが、こういう時に限って選択肢は出ない。幼女はオレに言うだけ言って、外へ出ていった。
ふぅ………。
落ち着け。
待つのは面倒だが、『寝袋』を使えばプレイ時間的にはすぐだ。
ゲーム内で時間経過を無駄にするのが癪ではあるが、それについては自業自得な部分もある。
ったく、仕方ない。このイベントくらい付き合ってやるか。
オレは一旦この建物から出て、人目のつかないところに『寝袋』を設置した。
そして1時間睡眠でセーブ。
建物に戻るがチカの姿は無い。
仕方ないから、また寝袋で1時間睡眠でセーブ。
それでも、チカの姿は無い。
おいおい、嘘だろ。
片道1時間以上かかるのか?
半ば呆れながら、また1時間睡眠。
それでも、チカの姿は無い。
そして、4回目の1時間睡眠で目覚めると……
乾いた銃声が一発聞こえた。
オレはすぐに建物に入って二階へ上がった。
そこには血まみれになったチカと、銃を構えるオンナがいた。
オンナはその銃口をオレにも向け、そして引き金を引こうとする。
その動作がスローモーションみたいにはっきりと見える。
それでも、オレは何もボタン操作をしなかった。
視点を動かしヘッショ(ヘッドショット)を避けることも。
ジャンプすることも。
しゃがむことも。
逃げることも。
何もしなかった。
それらが全て無駄だと、合理的に判断出来てしまう。
どうせ、身体のどこに弾が当たっても一撃で死ぬのだから。
そして、なにより、最短で殺されたかったから。
乾いた銃声、僅かなマズルフラッシュ(銃口の光)を記憶しながら、オレの画面は赤く染まった。
WTF(ピー音オブラート風)
胸糞悪いイベントを用意しやがって。
あれか?
叔父さん病んでるのか?
話聞こうか?
ふぅ……。
とりあえず目覚めると、また銃声が響く。
が、このまま行っても意味がない。
オレは別のセーブデータを選びロードすることにした。
さてと、危うく初心を忘れるところだった。
あぁ、そうだよな。
オンナは分からせなきゃダメだ。
およそ、今から3時間後、チカは殺される。
だがな、やり直し可能な無敵のプレイヤーを舐めるな。
この程度で萎える訳ないだろ。
本気でオレをヤル気なら、ちったぁ、PvP鯖でプレイヤーの心の折り方でも学んでこいっつうの。




